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自覚

王達が応接間でダウンロード画面のバーを見つめている頃、七槻は恵鈴のもとに到着していた。

「恵鈴様。お呼びにより参上致しました。」

七槻が膝をついて頭を下げると、恵鈴は急いで寄って来た。

「良いの。それより話したいことがあって。」

恵鈴は、心配そうに見守る紗英と政子に場を外すように目配せをした。

二人は、戸惑った顔をしたが、仕方なく他の侍女達と共にそこを出て行った。

…余程困ったことに違いない。

七槻は、自分だけに話したいのなら、何か会話の中でやらかしたのかと緊張した。

何しろ、恵鈴の評価はそのまま七槻の評価になる今、他神事ではないのだ。

ここへ来る道すがら、政子に今日の流れを聞いている。

恵鈴は王達と同席した後また宴の席に戻り、その後侍女を下がらせて湯殿に行って、戻って来ていたはずだ。

侍女も知らないとなると、湯殿で妃達とだけになった時に、何かあったのかもしれなかった。

恵鈴は、何やら思い詰めたような顔になり、七槻はより不安になった。

なので、先に声を掛けた。

「いったい、何がございましたか。湯殿で龍王妃様に粗相など?」

だとしたら、大変なことになる。

が、龍王妃は穏やかな性質で、王にわざわざ報告などしていないはずだ。

王に聞かれてさえいなければ、問題ないはずだった。

恵鈴は、首を振った。

「いいえ。皆様大変によくしてくださるので、問題ありませぬ。それより…七槻、宮へ帰ったら、もう我の側には来られないのを知っていますか?」

七槻は、え、と頷いた。

「は。それは、政子殿より聞き申して。もとより父も、このままでは我の学びが進まぬので、帰ったら王に嘆願しようと申しておる折も折で。もう一年になりますし、我の力不足で恵鈴様にはご迷惑をお掛けしてしもうておりますし。」

恵鈴は、それを聞いて胸の中で何かが弾けた。

つまりは、やはり七槻は務めであるから側に居て補佐してくれていただけで、長引くのは良しとしていないのだ。

…維月様も、七槻の出世のことを申されていた。

自分は、七槻は出世よりも自分の側に居たいと思っているはずだと、勝手に思ってしまっていた。

が、違ったのだ。

思えば七槻は筆頭重臣の七瀬の息子で、王の妃である恵鈴に、そんな想いを持つことなどあり得ないのだ。

そう、何故か急に悟った恵鈴は、自分の中の想いが、スーッと消えて行くのを感じた。

「…そうですね。」恵鈴は、急に落ち着いて来る心に戸惑いながらも、妃らしく言った。「あなたのためにも、これは必要なことです。我は、あなたが何も成せていないと評価されるのを案じていましたの。あなたはよくやってくれました。常側に居てくれるのに甘えて、分かっておっても不安になり、つい毎回聞いてしまっておりましたが、そろそろ腹を据えねば。清子がついてくれるようですが、あなたがしっかり我に教えていたことが分かるように、己で判断して進めて参ります。さすればあなたの一年も、後に評価されてあなたの力になるでしょう。何も案じることはないのですよ。あなたが優秀なことは、我が一番知っています。それを最後に伝えたいと、あなたをこちらへ呼びました。」

七槻は、恵鈴の言葉に最初目を丸くしたが、みるみる目を潤ませて頭を下げた。

「もったいない仰せ。心より感謝致します。必ず精進して、王、恵鈴様の御為に、励める力をつけまする。」

恵鈴は、頷いた。

「下がって良いですよ。」

七槻は、恵鈴を感謝の目で見上げてから、また頭を下げた。

「は。ありがとうございます。」

七槻は、その場を辞して行った。

恵鈴は、こみ上げて来る涙を堪えて、窓の外に浮かぶ月を見上げた。

…我は王、高彰様の妃。臣下を想うなど、あってはならないことなのだ。誰も、幸福にはなれないのだから。

恵鈴は、その心に蓋をすることを決意した。

やっと、妃としての自覚が芽生えたのだと、己でも思った。

王に嫁ぐとは、こういうことなのだ。

そう思うと急に妃としての自分が、高彰に対して何も返せていないことを知った。

それでも待つと言って寛大に構えてくれている、高彰にしっかり仕えねばと、恵鈴は月を眺めながら心を新たにしていた。


「…どうする?こういうのは分岐というものではないのか。西の街へ行くのか、東の街へ行くのか。」

焔が言う。

大画面では、導入が終わり一悶着あって、大聖堂から出て選択肢が現れている。

まず、誰がどのキャラクターをするのかで揉め、例によって主要キャラは六人で、他は兵士というモブキャラだ。

共に戦えるが、主要キャラ達のように物語には直接関わらないポジションで、それにどうすると揉めに揉めた。

とりあえず、維心、炎嘉、志心、焔、箔炎、漸までが主要キャラに落ち着いて、後は兵士1兵士2と振り分けられ、やっと進み出したと思ったらこれだ。

維月は、息をついた。

「…我は、妃の皆様と共にあちらの隅の畳に移動してお話ししながら見ておっても良いでしょうか、王?」維月は、長くなりそうなので言った。「几帳を立てさせて、寛いで眺めたいですわ。」

維心は、頷いた。

「そうするが良い。我らはこれより時を取るしな。」

でしょうね。選択肢の度に立ち止まるしね。

維月は思って立ち上がると、妃達に頷き掛ける。

侍女達がわらわらと隅に置いてある几帳を持って、妃を囲む準備を始めた。

恵鈴はまだ来ないが、こうして分かれていれば、来ても席に座りやすいだろう。

維月は、妃達と共に隅へと移動すると、侍女達が周りを几帳で囲んで行くのを見守った。

王達は、まだ西だ東だと話し合っている。

維月が座ると、皆画面が見えるように、維月を真ん中に弧を描いて座った。

隅は狭いので、袖や裾が重なり合うほど近いが、共に風呂にまで入る仲だ。

皆、それほど気にしていなかった。

綾が、隣りから小声で言った。

「維月様、我は何やら心が沸いて。」維月が眉を上げると、綾は続けた。「ほら、覚えておられませぬか?前回こうして王がこのゲームとやらに執心なさっておる間、お隣りの畳の間で皆で休みましたの。とても楽しくて…。もしかしたら此度もと、期待してしまいます。」

それは、前世の綾ではなかったか。

維月は、だから小声なのだと、微笑んで頷いた。

「まあ、誠に。懐かしいわ。ならば蒼に頼もうかしら。」

明日香は、言った。

「何のお話でありますか?」

維月は、言った。

「いえ、王があのゲームを始められると、大概が数時間では終わらぬので。それなら我らは我らで、夜通し共に過ごせば良いのではと。」

紅蘭が言った。

「まあ。そんなことは皇女の頃から一度もありませぬ。夜通しなど、父上が許してくださらぬから。」

まあ、普通はそうよね。

維月は、微笑んだ。

「褥を並べて敷いて、そこに皆で並んで横になりながら、眠りにつくまでお話し致しますの。王は絶対にお帰りにならないから、そんなことも許されるのですわ。いかがかしら。」

楓が、言った。

「夢のようなことでございますが、龍王妃様と同じ部屋で休んで良いのかしら…。おこがましいかと思ってしまいます。」

維月は、首を振った。

「ここは我の里。そのような柵がないのが、この宮の良い所なのですわ。月の光に照らされて眠ることを、咎める者がおりましょうか。皆様がお嫌でなければ、蒼に頼んでおきますけれど。それに、褥の中なら多香子様もお呼びできます。横になれば良いのですから。」

明日香は、顔を輝かせた。

「長く生きておりますが、初めての経験ですわ。とても心が沸くお話ですこと。我は、王さえお許しくださればご一緒したいですわ。」

皆も、これまで許されないと思っていたことが現実になりそうだと、何やらワクワクしているような気を発している。

維月は、微笑んで頷いた。

「ならば、蒼に頼んでおきます。今夜は我らも無礼講で楽しみましょう。」

そうして、その夜は、ゲーム機がある部屋とは反対側の隣りの部屋で、妃達は休むことになったのだった。

画面上では、王達はやっと東に向けて旅立っていた。


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