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その頃

王達は、七の蔵を終わらせて、六の蔵に移り、そこから早々に出て来たばかりだった。

七の蔵には、維心の治世になってから贈られて来た物が、それはたくさん詰められてあった。

一階は綺麗に並べて飾ってあるように見えたが、二階から上は箱のままで分類されて高い棚に並べてあって、箱にはいちいち中に何があるのか書き記した紙がついているだけで、気になったら開けて中を見る、といった感じで、もっぱら箱の注意書きを読むだけで時が過ぎて行っただけだった。

六の蔵はというと、もう一階からその棚が立ち並んでいて、その奥には多くの箱がただ積み上げられている状態で、後ろの箱は何だと聞くと、前の棚にある物と同じデザインの物が後ろにある、と鵬は説明していた。

つまりは、全部多くの予備があるわけだ。

六の蔵は、焼き物を集めてあるらしいが、七階までそんな調子でびっしり立ち並んでいて、それも箱ばかりなので、皆飽きて来てもう良いわと最後の階ではほとんど見ていない状態で降りて来て、外へを出て来てしまった。

維心が、外で待っていて、言った。

「…早かったの、七の蔵と比べたら。見たい物はなかったか?」

焔が、答えた。

「あったやもしれぬが、箱ばかりでいちいち表記を読むのが面倒になってしもうて。物凄い量だしの。」

志心が、言った。

「こうして見たら、七の蔵が綺麗に並べてあって見やすかったわ。」

維心は、言った。

「そもそも、ここは蔵だと申すに。誰かに見せるために収めてあるのではないわ。思うた時に思うた物を必要なだけ出すために収めてあるのだ。ちなみに、此度の整理で五の蔵は木工細工、四の蔵は石細工、三の蔵は金属関係の細工、二の蔵は布関係と報告を受けておる。木工、石工ならば、箱に収まらぬ物もあるし、そのままで収めてあるやもしれぬがの。どうする?」

炎嘉が、言った。

「ならば…もう一の蔵を見せてもらおうかの。他は、どこぞで見たことがあるような物ばかりぞ。よう考えたら、主の宮で使われておる品は全部ここから出されておるのだから、見たことがあって当然よな。となると、見たことが無い物を見ようと思うたら、一の蔵を見るしかないと思うた。違うか?」

維心は、フッと笑った。

「やっとそこに気付いたか。その通りよ、ここにあるのは全て、宮のどこぞで使われておるもので、鵬が主らを最初に七の蔵に案内したのも、結局あそこが目新しい物があるからぞ。後は、我が奥宮には我が使うからと、職人達が我のために作り上げた物を持って参るゆえ、一点物の珍しい物ばかりがあるが、主らは常、我の居間へと入っておるからそれを見ておる。なので今さらなのだ。一の蔵には、初代よりあちこちから贈られて来たものや、かつての職人が奇跡のような技を見せた物などそれは珍しい物が収められておる。宝物庫には、更に珍しいもの、我ら龍王に代々受け継がれる龍王刀や、龍の玉などが収められておる。てっきりそっちの方が目当てかと思うたのに、真剣にこっちの蔵を見ておるゆえ、眺めておったのよ。」

炎嘉は、それを聞いて眉を寄せた。

「…なんぞ。分かっておるなら申さぬか。我らが必死に七階まで表記を読んで回っているのを、何を思うて見ておったのよ。」

維心は、答えた。

「在庫がどれだけあるのか確かめたいのかと思うておった。」

焔が、言った。

「なぜに主の宮の財政状況を詳しく知りたいとか思うのよ!珍しい物があるだろうから見たいと申したのだ!」

維心は、奥に見えている一の蔵の方へと足を向けた。

「ならば最初からそう申せば良かろうが。では、参ろう。一の蔵は時が掛かるぞ、何しろ全てが珍しい物であるし、全部立ち止って見とうなろうしな。我も暇な時にはフラッと一の蔵の中を見に参ることがあるぐらい。ちなみに龍王の石は、屑石も全て収めてあるぞ。維月の額飾りも頚連も、使った後はこちらに戻るのだ。」

ということは、一の蔵はかなりの財宝が隠されていると言っても過言ではない。

皆がワクワクと維心について歩こうとしていると、何やら入り口の方向から声が遠く聴こえて来た。

鵬が急いで何事かと扉の方へと向かうと、脇の勝手口から入って来た誠が、鵬に何やら急いで言っている。

鵬は、頷いてこちらへと走って来て膝をついた。

「王。鷹の宮の侍女が、王に急ぎお知らせしたいことがと蔵の前に来ておりますが。」

箔炎は、眉を上げた。

「侍女が?」と、扉の方を見た。「ここへ入れるわけにはいかぬの。参ろうか。」

維心が、言った。

「別に、蔵の場所というだけで、蔵の中というわけではないゆえ、ここへ来させて良いがの。」

言われてみたら、ここは元は中庭だと維心は言っていた。

箔炎は、頷いた。

「では、これへ。」

鵬は頭を下げて、そうして勝手口へと向かうと、そこから外へと出て、一人の侍女を連れて入って来た。

「…椿の侍女よ。」

それを聞いて、皆が眉を寄せる。

侍女は、そびえたつ蔵々に目を丸くしていたが、急いでやって来て頭を下げた。

「王。このような所まで参って申し訳ありませぬ。至急お知らせしておかねばならないことがございまして、参りました。」

箔炎は、頷いた。

「良い。何ぞ。」

侍女は、顔を上げた。

「はい。椿様が…茶会の席に、龍王妃様よりご招待いただき、同席させていただいておりましたのですが、椿様の態度に、龍王妃様はご気分をお悪くなされて…。控えに戻れと、お命じになられたのでございます。ゆえ、我らは呆然と動かぬ椿様を、急ぎ龍王妃様の侍女に追い出されるように気で持ち上げて運んで外へと連れ出しました。そのまま、控えの間へとお連れしておりますが、このような事態…一刻も早くお知らせしておかねばと思いましてございます。」

維月がキレたのか。

他の王達が、事態を重く見て眉を寄せる。

維心が、言った。

「…維月は、椿を叱責して激昂しておったか。」

侍女は、慌てて首を振った。

「いえ、龍王妃様は落ち着いたご様子。感情的になっておられたのは、むしろ椿様の方で…龍王妃様は、場を乱す態度は許さぬといったご意見でした。他の妃の皆様も、居心地が悪そうになさっておいででしたので・・・。」

ということは、恐らく椿は愚痴ったのだろう。

それを、何とか宥めようとしていたのだろうが、いくら宥めても埒が明かないのに痺れを切らした維月が、他の者達を守るために出て行けと言ったとしたら辻褄が合う。

箔炎が、息をついた。

「…あれは我の事を何某申しておったのではないのか。それを、恐らく綾やら多香子やら維月が、なだめておったのに、あれが聞かなんだのだろう。違うか。」

侍女は、ますます下を向いた。

「は…。確かにその通りでございまして…。」

やはり。

箔炎は、言った。

「…控えの間から出すでない。」箔炎は侍女にそう命じて、維心を見た。「すまぬの、維心。維月に迷惑をかけてしもうたわ。」

維心は、首を振った。

「良い。維月も我も、主の状況は知っておるゆえ。あれも、恐らくそんなことはしたくなかっただろうが、他の妃達が面倒な思いをするのに忍びないと思うたのだろう。」

箔炎は、頷いて侍女を振り返った。

「戻れ。我は別の宮へ来ておる時は、基本的に友を優先して動くゆえ、先ほどここへ入る前に別の侍女が今宵は帰れとか申して来たが、そんなものは聞かぬと申しておけ。だからそもそもついて来るなと申したのだ。そのようにの。」

侍女は、自分が叱られたかのような顔をしながら、頭を下げた。

「はい!仰る通りに。」

そうして、侍女は戻って行った。

それを見送りながら、これから一の蔵へ入るのだと皆でうきうきとしていたのに、暗い空気になってしまっていたのだった。

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