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その頃の臣下

誠、公林、栄加は、七瀬、七槻、師斗、師佳と和やかに、それなりに突っ込んだ話で盛り上がって、楽しく過ごした。

宮から持ってきた茶も、もう何杯目だろうか。

どの宮でも同じような悩みを抱えており、それを話し合うだけでも充分に有意義だった。

師斗が、言った。

「…まあ、我が王のお力もあり、昔に比べたら落ち着いたもので。軍神達も世代が入れ替わり、今では皆品行方正で王を狙おうなどという輩も居らぬ。出来た当初は、王族も少なく大変だったと聞いておるが、なので今では他の宮と変わらぬのだ。紅蘭様のお輿入れでも分かると思うが。」

七瀬は、頷いた。

「父から獅子の宮には必ず軍神を連れていけとその昔言われておったからの。今ではそれもない。落ち着いたものよ。」

誠が、言った。

「我が曽祖父洪の時代には、はぐれの神でいらした観様が、立派に荒くれ者達を宮に囲って、治めて獅子が復活した時のことを、我も書で読んだもの。それに比べたら、今は平穏で良かったことよ。」

…あれは王の前世、緋月様が宮を抜け出して、それを保護していてくれたのが観様で、ご縁が繋がったものだった。

誠は、洪の記憶でそれを思い出していた。

緋月はもう居らず、観も黄泉に去ってそろそろ転生かと聞いている。

洪も、黄泉で観には会っていた。

何しろ、観は黄泉の番人だったのだ。

時々、主は賢しいだろうと言って、番人職のあれこれを相談に来たりしていたのだ。

お陰で、洪は黄泉のことにも普通の神以上に詳しくなっていた。

七瀬が、言った。

「偉大な王であられたからな、観様は。駿様もそれを継いでおられて、誠に素晴らしい限り。後はこの、太平の世が長く続くことを祈るまで。とはいえただの神の我には、宮の中のことで精一杯よ。早う恵鈴様が落ち着いてくれたらのう。」

七槻が、七瀬を見た。

「そのことなのですが…父上、我には正直なところ、もうお教えすることもないように思うております。何しろ今は、後ろにお付きしてその時々に何をすれば良いのか、ご指南致しておるだけで。本来なら、ご自分でできると思うのです。我がお側に控えておるので、むしろ覚えぬでも良いと思われているような。最近の心ここに有らずなご様子も、そう考えると合点が行くような気が致します。」

言われてみたらそうだ。

公林が、言った。

「…確かに一年、年間行事は一通り終えて、日常業務も毎日繰り返すのだから覚えておられるはずだものな。それでも出来ぬとなれば、確かに七槻の申す通り、聞けば良いと覚えるおつもりがない可能性がある。」

七瀬は、頷いた。

「確かに。常に居ると思うたら、わざわざ覚えることもないとお思いになってもおかしくはない。ならば、王にそろそろ学びは終えて、七槻も本来の務めに戻してくださるように申し上げようか。確かにこの一年、政務に携われず他より遅れてしもうたものな、七槻。妃を指南し終えたとなれば実績にもなるが、当の妃がそうなると、主は実績を積めぬで序列に響く。我の跡をと思うておるのに、これ以上遅れるのはと我も思う。」

臣下の序列は、どれほど有能であるのか王に示すことで決まるので、数多くの案件をいくつ処理したか、また少なくとも難しい案件を処理できているのか、かなりシビアに見られる。

筆頭の子だからと、必ず筆頭に座れるとは限らない。

チャンスは他より多くもらえるが、それだけなのだ。

しっかり実績を積んでおかねばならない。

遅々として進まない妃の教育に、取られている時間はないのだ。

誠は、言った。

「…跡を継ぐというのなら、確かに一年でも遅れは痛いもの。この場合、幾年掛けているのだと、妃よりも七槻の評価の方が下がる。七槻の出世を考えると、早いところ他と代わって、他で実績を積んで進めて行く方が良い。」

七瀬は、息をついた。

「とはいえ、七槻すら成せなんだ妃の教育など、命じられる次の者が哀れ。王に、ならば後任は誰にすると言われたら、迷うところぞ。」

栄加が、言った。

「…そうだの、ならば侍女の中でも高位の者にしたら良いのだ。」七瀬は、栄加を見る。栄加は続けた。「侍女なら常に側に付いて、世話をするのに慣れておるし。物をよく知る侍女を、ご提案すればどうか。」

師斗が、手を打った。

「そうよ!七瀬、そうせよ。侍女ならそれが務めなのだ。大体は教えたゆえ、侍女にでもと言うたらどうか?」

七瀬は、頷いた。

「そうだの、そうしよう!」と、七槻を見た。「それで良いの?」

七槻は、ホッとしたように頷いた。

「はい。良かった、我も焦って来ておって。このままでは、父上のお跡を継ぐなど夢のまた夢と、毎日鬱々してしもうて。」

公林は、頷いた。

「良かったの。焦る気持ちは分かるゆえ。とりあえずお役目は下ろさせていただき、通常業務に励むと良い。」

臣下達は、解決したと喜んだ。

同じことを、王達が話しているなど、思ってもいなかった。


日が暮れ始めて、皆は湯殿へ向かった。

ここは男女で分かれるので、また王は王だけで固まっていつもの露天風呂へと向かう。

皆で岩風呂へと浸かると、隣りの女風呂は静かだった。

いつもなら、声が漏れ聴こえて来るのだ。

「…静かだの。」と、炎嘉は、竹で作られた壁の方を見やった。「…防音結界か。」

維心は、頷いた。

「そのようよ。此度は十六夜の結界もガッツリとしておるようだ。」

高彰が、言った。

「ならばありがたい。」なぜだと皆が高彰を見ると、高彰は続けた。「聞きたいことがあったのよ。恵鈴のことぞ。何故に急にあんなことを?」

炎嘉は、高彰が何かあると気取っていながらさりげなくしていたのかと、息をついた。

「…まあ、気取るわな。理由があっての。」

焔が、言った。

「やっぱりそうか。炎嘉が突然あんなことを言い出すゆえ、何かあるなと我も助太刀するようなことを申したが。バレバレであるぞ、炎嘉。」

皆が、うんうんと頷く。

どうやら、皆何かあると思っていたが、知らぬふりをしていたようだ。

妃は気付いていないようだったが、いつなり口出しする維月が静かだったのもあり、恐らく維月は知っているのだろうと、皆は思っていた。

維心も黙っていたし、なので皆、流れに任せたのだ。

維心が、言った。

「…その前に恵鈴の話が出た時には、炎嘉も何も言うておらなんだものな。それは皆気取るだろうて。あれは、我が炎嘉に頼んで謀ったことぞ。」

炎嘉は、頷いた。

「あの席で、維月が月から維心に懸念を伝えて参ったそうなのだ。維心が黙っておるのはいつものことであるし、皆気付いていなかったが、我は気付いた。ゆえ、楽に加わらず念で話しておったのだ。維月は陰の月であるから、感情などに殊の外敏感ぞ。恵鈴が、どうやら本神も気付いておらぬが、七槻に懸想しようとしておるようだと。早めに芽を摘まねばならぬとな。」

高彰も含めた皆が、眉を上げる。

高彰は、言った。

「…まあ、若い皇女であるし。それ故罪な気がして、育つまではと我とて手を出すのを渋っておるぐらい。常に側で支える臣下に、勘違いで懸想などあり得ることぞ。妃の自覚どころか、未だ妃ですらないのだからの。」

箔炎は、言った。

「とはいえ、由々しき問題ぞ。相手がどう考えておるのか分からぬが、恐らく王の妃に懸想など考えてもおらぬだろう。引き離すのは正解よ。塔矢の立場が悪うなる。」

高彰は、息をついた。

「別に、想いあっておるのなら破談にしても良いのだ。まだ恵鈴には傷はついておらぬしな。が、七槻は我が筆頭七瀬の息子。恐らく懸想などあり得まい。忠臣であるから妃の教育を命じたのだ。引き離してやるのが七槻のためでもある。何しろ、あやつには、このままでは実績が足りぬで七瀬の跡を継げぬからの。主に言われずとも、そろそろ役目を外してやらねばとは思うておったところよ。」

焔が、言った。

「が…。そんな気持ちを持つ女神など、妃として側に置けるのか。我なら、己を第一と思うてくれる女以外を、娶ろうとは思わぬが。」

皆が、顔を見合わせた。

確かに王を第一に慕わない女神など、妃として遇しようとは思わないかもしれない。

高彰は、また息をついた。

「確かにの。だが、塔矢の立場があろうし。恵鈴はまだ子供、これより育って役目を認識し、我を第一と仕えるようになるやも知れぬ。慕わぬでも良いのだ、我とてあれに特別な感情はないゆえ。我は一昔前の記憶を持っておる。誠に思う女は、正妃に据えてまた娶れば良いのよ。」

確かに昔はそうだったが…。

皆は、複雑な気持ちだった。

軽い気持ちで高彰に恵鈴を勧めたことを、皆後悔していたのだった。

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