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王達もこちら側に戻って来て、妃達と並んで座る。

炎嘉は、恵鈴を見て言った。

「恵鈴。嫁いでそろそろ一年近くになるが、どうよ?何やら学んでおるのだそうだの。王によってやり方は違うし、皆同じように学ぶものだが、進んでおるか?」

恵鈴は、頷いた。

「はい、お祖父様。臣下の七槻が毎日教えてくれております。」

駿が言う。

「とはいえそろそろ独り立ちする時期でらないか?紅蘭は入ってすぐから宮を滞りなく回してくれておるし。一年近く学べば、一通りは分かった頃合いだろう。」

恵鈴は、それを聞いて扇を高く上げた。

「はい…ですが、まだ。七槻には側について欲しいと思うております。」

高彰が、言った。

「まあ、急ぐ必要はないゆえ。ゆっくり進めれば良いかと。」

炎嘉が言った。

「そうだのう…一年経ってまだとは、恵鈴は愚かではないのに。師との相性もあろうし、一度別の臣下に変えてみてはどうか?女主の動きは、女神の方が理解しやすかろうし。動きは恐らく滞りなく教えられておるだろうから、ここは細かい気配りに気が付く侍女長などに差し替えて、続けてみたら。理解も深まろう。」

恵鈴は、驚いた顔をする。

高彰は、言った。

「ほう。侍女長か…。」

恵鈴は、慌てて言った。

「七槻の説明はとても分かりやすく、このままで問題ないかと。」

しかし、焔が言った。

「だが時が掛かりすぎておるだろう。分かりやすいとて、普通なら半年もあれば事足りるのに。確かにここは、師を変えて試してみるのが良いやもしれぬぞ、高彰。」

高彰は、頷いた。

「確かにの。我の侍女の長が、我のやり方をよう分かっておるし。これからは、あやつにやらせたらいいかもしれぬ。七槻は言うて若いからの。基本的なことは教えられるが、細かい気配りともなると侍女長の方が適任よ。ならば、帰ったら七槻は解任して侍女長に換えよう。」

恵鈴は、ショックを受けた顔をする。

が、目だけなので、王達には分かっていないようだった。

妃達が、気遣うような視線を恵鈴に向ける中、維月だけは維心が炎嘉に話したのだ、と悟った。

何しろ、二人だけが楽に加わっていなかったのだ。

その間に、話していてもおかしくはなかった。

維月が維心を見上げると、維心は視線を合わせて微かに頷いた。

維月が確信していると、明日香が恵鈴に言った。

「…その宮その宮で、やり方は違うもの。とはいえ基本は同じでありましょうし、そのように最初から完璧にと構えずとも良いかと。きっと、恵鈴様ならお出来になりますから。一度、やってみて覚えて行かれても良いかと思いますわ。」

綾も、頷いた。

「はい。お若いので間違えてはと思われるやも知れませぬが、大丈夫ですわ。そのように構えずとも。」

恵鈴は頷く。

が、恵鈴が悲壮な顔をしているのは、そういう懸念ではないのは、維月には分かっていた。

単に、七槻と離されるのが嫌なだけなのだろう。

…臣下と恋仲になっても良いことはない。

維月は、そう思って心を鬼にしていた。

塔矢と恵麻のためにも、ここは面倒など起こっては困るのだ。

まだ、想いあってということのないうちに、離れて忘れた方が良いのだ。

恐らくは、心細い時に年の近い七槻に世話をされて、勘違いしただけなのだろうと思われるから…。

維月は、そう思って黙って恵鈴を見ていたのだった。


それから他の話題になって行き、和やかな雰囲気になっていた頃、気を失っていた公青が、ふと目を覚まして飛び起きた。

皆が驚いてそちらを見ると、公青は汗を流しながら壁を凝視し、息を上げている。

公明が、慌てて畳の上に飛んだ。

「公青!気が付いたか。」

公青は、公明を見た。

「え…ここは?」

公明は、言った。

「ここは月の宮。主は十六夜が突然出て来て驚いて、そのまま倒れたのだ。寝ておるだけだとここに寝かせていた。」

公青は、皆を見回す。

炎嘉が、言った。

「あやつの気は大きいゆえな。突然に目の前に出て、驚いたのだろう。」

公青は、額に手をやった。

「…十六夜が…。」

維月は、頷いた。

「我が片割れが申し訳ありませんでしたわ。もう、いきなり出るなと申しておきましたので。」

とはいえ、皆が出るなと言ってある。

それでも出て来るのが、月の眷属だった。

蒼が、言った。

「公青、すまないな。何度もいきなり出るなと言ってるんだが、全く聞いてくれなくて。もう、慣れてもらうしかないかなと思ってるんだけど。何しろ碧黎様だって居るからね。」

公青は、まだはっきりしないような顔をしながら、頷いた。

「いや…気を遣わせてしもうて、申し訳ないかと。」と、公明を見た。「父上、我はこのように慣れぬので、そろそろ宮も気になり申しますし、戻って良いでしょうか。」

公明は、困ったように維心を見ながらも、言葉を選んだ。

「まあ…我は宮も気になることだし、それでも良いかと思うが…。」

維心は、息をついた。

「良い。我が呼んだからであろう。顔も見たしもう良いわ。戻って宮の務めを果たすが良い。」

公青は、段々にはっきりとした顔になりながら、頷いた。

「は。お気遣いに感謝致します。」

そうして、まだ心もとないのかゆっくりと立ち上がり、皆に頭を下げてから、その場を辞して行った。

公明は、それを見送って息をついた。

「…あれも、まだやはり若かったか。十六夜が突然出て参って気を失うなど、しっかりしておるようでまだまだなのやも。」

箔炎が、言った。

「物が分かったようなことを言うておっても、経験が足りぬからの。まあ、顔は見たしこれからであろうて。それにしても、そこまで宮を気にするとは、そんなにまだ落ち着かぬのか?」

公明は、答えた。

「…初め、公青に一切を任せてみたら、確かにサクサクと処理は進んだが、あちこちいきなり斬って捨てて回ってしもうていて。いくらなんでも話も聞かずに斬ってはならぬと諫めたのだが…そこから、遅々として進まぬようで。公青は、甘いと不機嫌に申してそれから、良くなっておるように見えぬで。」

焔が、はあ?と呆れた顔をした。

「任せたのに文句を言うとは何事ぞ。公青には公青のやり方があったのだろうて。王である主が止めてしもうたら、皆皇子のやることは間違っている、で言うことも聞かぬようになるではないか。それなら最初から主がやれば良かったのだ。そうしたら、主のやり方で少しずつでも改善はしただろうて。公青にその任を与えておきながら、それに待ったをかけておいて、結局その後も公青にさせておるのなら、進まぬようになっておっても仕方がない。結局、主のせいで長引いておるのだ。」

焔にしては、まともなことを言う。

皆が、思いながらもうんうんと頷いた。

公明は、眉を寄せた。

「…やはりそうか。まずいことをしたのやもしぬと気づいたのは最近のことで。龍の宮ではとっくに精査が終わっていると聞いて、公青は何をしているのだと太弦に愚痴ったら、太弦が…恐れながら、王が直接に手を下された方が、と遠回しに我が何もせぬからだとも取れる言い方をしおったのだ。よう考えたら、臣下は公青を我が止めるまでは恐れていて、あれが居ったら気を張っていたのに、止めたことで公青のこともそこまで恐れぬようになっておるように見えた。我のことはもとよりそう、恐れてはおらぬ。だからこそ、公青に宮の中を任せたのだと、思い至って。あれの力を、我が押さえてしもうたからなのだな。」

炎嘉が、言った。

「…主の歳は我らより若いが、老害と言われてもしようがない様ぞ、公明。任せたなら丸投げせよ。己ができぬことをさせようと思うのならな。」

箔炎も、頷いた。

「その通りよ。主の初動がまずかったから、ここまでこじれておるのだ。」

公明は、困った顔で皆を見た。

「ならば今更だがどうすれば良いかの。」と、翠明を見た。「主ならどうする?」

翠明は、公明が王座に就いた始めから、面倒を見ていたのだ。

翠明は、息をついた。

「良い歳になっておるのに我か。そうだの、ならば帰ったら皆の前で、公青にいつまでもぬるいやり方では無理なのが分かった、斬らねば収まらぬのならみんな斬って捨ててしまえと怒った風に申してみよ。公青はやりおるだろうし、宮も引き締まる。」

公明は、頷いた。

「分かった。」と、息をついた。「いっそ譲位出来たらなあ…。」

まあそれ、みんな思うんだよね。

蒼は、思って聞いていた。

王座など、面倒でしかないのだ。

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