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王達の元日

一方、維心は維月と共に、蒼に案内されていつもの居間へと向かった。

いつもの通り、そこには先に到着していた、王と妃達がもう、座っており、ビールを手に話しているところだった。

違う所と言えば、塔矢が居ないことと、志心が一人で座っていて、多香子はここに居ないことだった。

維心と維月が入って行くと、皆が振り返った。

「維心。」炎嘉が言う。「相変わらず遅いな。焔など夜明け共に到着しておったらしいぞ。蒼もまだ起きたばかりであったらしい。」

だから早いのだと言うのに。

維心は、言った。

「これでも起きて臣下の挨拶を受けてすぐに出て参ったわ。主らが早いのだ。特に焔、主一番離れておるのに何故にそんなに早いのよ。」

焔は、上機嫌で答えた。

「昨日挨拶は済ませて今朝は良いと申したからぞ。夜明け前にあちらを出て参った。準備とて着替えるだけだし、時など取らぬわ。」

臣下は大変だの。

維心は思いながら、それを聞いていた。

漸が言った。

「我も早めに参って多香子の顔を見て参った。元気そうで驚いたわ。余命宣告されてから、調子が良くなるとはの。薬草とは馬鹿にできぬな。」

志心は、言った。

「それだけではないのよ。我は直接麻耶に話を聞いて参ったが、やはりこれだけ顕著に効果が出るのは、月の宮であるかららしい。蒼には頭が上がらぬわ。」

蒼は、慌てて言った。

「別に、置いているだけなんで。オレが何かしてるわけじゃありません。でも、治癒の対が一番気が濃いのは確かなんで、ここには連れて来てないんですけどね。本神は、もう息切れもしないしと不満そうでしたけど。」

維月が、言った。

「ならば、茶会は治癒の対でいたしましょうか。」

蒼は、答えた。

「そう言うと思ったから、あっちに準備させてるよ。今は多香子以外、治癒の対には出産間近の侍女ぐらいしか居ないからね。少々騒がしくしてても大丈夫だよ。」

騒がしくって、私達がどれほど普段から騒がしいというのよ。

維月は思ったが、それには言い返さずに、微笑んだ。

「ならば、王。参ったばかりではありますが、多香子様のお顔を見て参ってよろしいでしょうか。」

維心は、苦笑した。

「多香子多香子とうるさかったものな。行って参るが良い。」

維月は頷いて、立ち上がった。

「妃の皆様も。時を見てよろしければ治癒対へお越しくださいませ。」

今一緒に行こうとは言いづらい。

が、綾がすぐに立ち上がった。

「王、我も参って来てよろしいでしょうか。」

翠明は、頷いた。

「ずっと気にしておったものな。行って参るが良い。」

そうなると、他の妃達も王に問い、結局皆で、治癒の対へと向かうことになった。

維月は、紅蘭、恵鈴、楓、綾、明日香、桜、楢を引き連れて、そこを出て行ったのだった。


それを見送って、維心が言った。

「…して。神威は結局こなんだか。」

蒼は、頷いた。

「はい。去年もあちらへみんなで行って、通常の正月ではなかったので、今年は通常通りにしようとなったようで。ゆはただけでも来るかとなっていたのですが、結局直前になって皇子が誰も来ないなら、手持ち無沙汰だろうということで。」

炎嘉が、言った。

「とはいえ義心が来ておるのだろう。珍しく休みで。来た方が良かっただろうにの。手合わせできる絶好の機会よ。」

焔が頷く。

「弦が喜んでなあ。己も休みをとか申して、結局うちは休みの軍神達もついて参って大所帯よ。」

志心が、笑った。

「そちらもか。うちもよ。皆が皆義心と立ち合いたいと大騒ぎぞ。あやつ、休みと言うて休めぬのではないか?」

そんなに皆が義心に教わろうとしているのか。

維心は、眉を寄せた。

「…そんなために連れて参ったのではないわ。あやつがあまりにも休んでおらぬから、無理やりに休ませようと連れて参ったのよ。それに、うちは義心ばかりで次がどうにも心許ないゆえ、あれの甥の義将を育てさせようと考えておる。此度連れて参っておった。ちょうど良いと思うておったのに。」

渡が、言った。

「義将とは優秀なのか?初めて聞く名であるが。」

維心は、頷いた。

「あやつの甥の中では、一番に見所があると思うて見ておるのだ。何しろ、試験でも良い点数を採っておったし、頭も良い。我にとり、義心がもう一人欲しいところなのだ。帝羽はそこそこやりおるが、義心には敵わぬ。とにかく、もう一人義心が居らぬことには、義心にばかり負担が掛かるのよ。」

炎嘉が、言った。

「贅沢を申すでないぞ、維心。あやつが一人居るだけでもかなり楽であろうが。我らを見よ、己の軍神達をまとめて何とか回しておるのに。一人であれこれできるわけであるから、便利この上ないのだからの。」

焔も、盛大に頷いた。

「そうよ。こんなぐらい貸してくれても良いではないか。」

志心が、苦笑した。

「それぐらいで。義心なら、卒なくやるだろう。」と、翠明を見た。「ところで翠明。もうそちらは椿のことでは落ち着いたか。」

翠明は、頷いた。

「直後は宮が暗くなってどうなることかと思うたが、とりあえずは。」

蒼が、言った。

「あの…紡のことでも。」皆が、蒼を見る見る。蒼は、申し訳なさげに下を向いた。「オレのせいで、翠明には迷惑を掛けてしまって。」

翠明は、首を振った。

「良いのだ。蒼の心地は分かるつもりよ。本神が全く覚えておらぬのだし、こちらは何もなかったようなものぞ。かえってそれがあったゆえ、綾もいつまでも椿のことで悩んでおられぬようになったしな。」

維心は、息をついた。

「あの件では、碧黎も引き締めねばならぬと申しておった。変に覚えておるから、ややこしくなるのだと。本来、ゆえに全て忘れて生まれて参るもの。やはり、世に誠に重要なこと以外は、覚えておっても消してしまうべきかと言うておったわ。我もそのように。」

炎嘉が、息をついた。

「確かに、敷居が低くなっているように我も思う。昔はもっと大変だった。力のある王ぐらいしか、記憶など持っては来れられなんだ。洪も言うておったが、やはり普通の神は覚えておらぬ方が良い。そのための黄泉の理なのだからの。」

漸が、言った。

「…そうだの、我らは世に関わっておるゆえに、やはり覚えておった方が都合が良いが、本来一から励むもの。皆が皆覚えておったら世が混乱するだろうて。」

維心は、頷いた。

「誠にな。覚えていたい心地は分かる。が、洪と鵬を見ておっても分かる。子がいきなりに親の記憶で話し始めて、どうしたら良いのか分からぬのよ。関係性が壊れてしまうわ。やはり、記憶はない方が良いのだ。」

皆、自分の親が戻って来たことを考えた。

やはり、面倒かもしれない。

志心が、息をついた。

「…うちの志幡が父だと知っておるが、確かにの。記憶があったら面倒であるわ。とはいえ、公明は公青に思い出して欲しいのか?」

公明は、少し考えて、頷いた。

「は。公青が父上だと分かっている今、思い出して意見を聞きたいと思うてしまい申す。早いとこ、代替わりしてくれぬかと。何しろ何をしていても、記憶もないのにいちいち父上を思い出させて、我より数段優秀なので。」

一度会ってみたいもの。

皆が思っていると、翠明が言った。

「誠に公青ならば、会ってみたいもの。全く宮から出て来ぬな。一度連れて来れば良いのに。」

公明は、答えた。

「我が来ている限りは宮を出ないのではないかと。我が共に参るかと言ったら必ず、宮は誰が守るのですかと顔をしかめよるゆえ。」

炎嘉が言う。

「ならば一度、代わりに行って来いと言うたらどうか。顔合わせも必要ぞ。ここに居る誰もが顔を知らぬなど、あり得ぬのだからな。主は上位の王なのだし、跡を継ぐのに他の王族と顔見知りでないと不都合だろうて。」

公明は、うーんと眉を寄せた。

「とにかく我の言うことを聞かぬ奴で。」と、維心を見た。「とはいえ外から命じてくだされば、恐らく来るよりないのでは。」

維心と炎嘉は、顔を見合わせる。

維心は、頷いた。

「…では、ここへ来るように我が命じよう。」と、脇に控える侍女に頷き掛けた。侍女が、頭を下げて出て行く。「慎也に行かせよう。顔を見せよと我が申して、来ぬわけには行くまい。そもそも正月はどこも暇だろう。言い訳もないゆえな。とはいえ、父王の命に渋るとは、公青らしいことよ。」

公明は、頷いた。

「は。何しろ宮の中は育って来てからあやつに任せきりで。宮の中の粛清も、このほどやっと終わりましたが、あやつが中心になってこなしたので。そろそろ代替わりしたい心地なのです。」

公明は、この中ではまだ若い。

炎嘉が、苦笑した。

「王座が面倒なのは分かっておる。が、今少し励め。ま、公青が来て、誠にできそうならば我らも止めぬがの。」

公明は、頷いた。

蒼は、そんな会話を聞きながら、公青がどんな皇子なのかと楽しみにしていたのだった。

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