年末の業務
維心が維月と共に、正月には何をしようかと話していると、そこに維明がやって来て頭を下げた。
「維明。」維心は、言った。「どうした、報告か?」
維明は、頷いた。
「は。鵬より報告を受け、これは父上にも申し上げておかねばと参りました。」と、報告書を差し出した。「今年の締めの結果でございます。」
維心はそれを受け取って、眉を寄せた。
維月は、横からそれを覗き込んで、同じく眉を寄せる。
「…何故に義心は半分も取れておらぬのですか。」
維明は、答えた。
「は。あれは筆頭である上、試験の結果でも分かるように頭も良く、急ぎの用件などではあやつが一番に対応が速く間違いもないので動かした結果、どうしてもこのように。本神もあまり、休もうという意識がないので、こうなりましてございます。」
維月は、言った。
「そもそも、このように決められたのも臣下に適切な休みを与えるためなのですよ。こうして年末に、多くの品を下賜してそれで終わりではないのです。これでは何のために維心様がお休みを設定されたものか。」
維心が、口を開いた。
「…分かっておったことぞ。義心にはやることが多過ぎるのだ。この規模の宮で、文官の重臣筆頭は三人居るのに、軍神筆頭は一人ぞ。その補佐のために次席軍神が居るが、その次席ですら休みを消化しきれておらぬ始末。あれらが倒れたら、宮の軍務を統括する者が薄い。明蓮が賢しいので、考えることはあれに任せるとして、立ち合いの腕からしたら実行力のあるのは新月、慎也、義蓮、明輪辺り…皆同じくらいの腕前ぞ。たった一人で考えて動ける判断力と胆力があるのは義心のみ、あとは明蓮とまとめて動かねばならぬゆえ、どうしても初動が遅くなる。その時差が命取りになることもある。」と、息をついた。「維月の言う通り、臣下を休ませるために我はこの制度を導入した。が、これでは意味がない。一番休ませたかった者が休めておらぬ。義心と帝羽が休めぬと、あれらが倒れたら宮の機能が格段に下がる。まずは正月…此度も、義心がついて参ることになっておったが、休ませよう。正月から七日は義心と帝羽に休みを取らせよ。もう、我があやつらの休みを決める。余程のことがない限り、それを守らせ取らねば罰する。」
維明が、言った。
「それは、年間の休みを父上がお決めになるのですか?」
維心は、頷いた。
「あの二人に関してはそうよ。そうよな…まとめて取らせる時期を設定しておき、余った分は空いておる所に都度差し込んで行く。まず、正月の七日。後に卯月の花見の時期に七日。水無月は暇であるし七日。文月は七夕があるゆえ忙しいし、葉月に七日。霜月に七日ぞ。それで三十五、残り十三は言わなんだ月に振り分けて取るように。どうしても無理ならそこは考慮するが、とりあえずそれで。」
維明は、頷いた。
「は。ではそのように命じまする。」
維心は、頷いたが額に手を置いて息をついた。
「…とはいえ、これでは根本的な解決にはならぬ。結局は、義心の代わりになるような、軍神が育っておらぬのが問題ぞ。どうしたものか…あれも育てておるようなのだがの。」
維月は、言った。
「皆励んでおりまする。怠けておるような者は一人も。義心の生まれ持つ能力が高過ぎて、一人で同じように対応することを望むのは酷なのですわ。」
それはその通りなのだ。
とはいえ、同じ家系の者たちも、義心に追い付けるような能力はない。
義心に子が居ないとかそんな次元ではないのは、前世の義心の子が連なってまた義心となっているのに、同じ能力の者が居ない事から分かる事だった。
結局、義心一人が突出して優秀なのでこんなことになっているのだ。
維心は、またため息をついた。
「…前世、あれに子を残せと大騒ぎしたものだが、それでは意味が無いことがもう、分かっておる。他の王達にも、義心のことは羨ましがられるほどに稀有な優秀さぞ。もう一人で良い、義心並みに動ける軍神が居れば、義心も楽になろうにな。帝羽もかなり励んで良いところまで来ておるが、義心にはどうしても敵わぬからな。困ったものよ…これでは、また義心が居らぬようになったら、落ち着かぬ宮になるぞ。そこの辺り、今からよう考えておかねばならぬわ。」
維明は、頭を下げた。
「は。我も時があれば訓練場へ降りて、皆を監督するように致します。此度の試験で、文官並みに頭の良い軍神もかなり居る事が分かりましたので。」
維心は、頷いた。
「我も全て任せておったが、来年からは頻繁に訓練場へ参ることにする。少し本腰を入れねばならぬわ。義心が死んだ時に教訓となったはずなのにの。戻れば喉元過ぎたら何とやらで…これではならぬ。」
維明は頷いて、その場を辞して行った。
維心は、維月を見た。
「去年は年末に臣下の不始末があり年始に洪が戻って宮の中を正したが、軍神の方は見ておらなんだ。義心が統括しておるゆえ、滅多なことは軍神の間では起こることはないし、安堵しておったが何でもあやつ頼みではまずいしの。我自ら軍を見て、育ちそうなのは徹底的に育てて序列を上げて参ることにする。しばし訓練場へ行く機会が増えるぞ、維月。内は頼んだ。」
維月は、頷いた。
「はい、お任せを。洪も居りますし、こちらは問題ありませぬから。」
維心は、今度は軍かと正月には、皆がどうしているのか詳しい事を聞いておこう、と心に決めていたのだった。
義心は、維明から呼び出されて休みの件を聞かされた。
…そんなに休めと。
義心は、内心眉を寄せた。
本当なら年に数回で良い休みが、年間48回もあることから義心とて困っていたのだ。
そもそも、休んでいても何かしらの用はあって、誰も彼もが義心の宿舎を訪ねて来る。
その度に指示を出し、休みという感覚ではなかった。
休みならば王からの呼び出しはないので、その間に後進を育てようと、訓練場に立つ事も多い。
表向き、休みを利用した鍛錬だが、全ては若い軍神達のためだった。
なので、結局休みなど、あってないようなものなのだ。
だが、王からの命ならば否とは言えない。
なので、義心は頭を下げて従うしかなかった。
義心が、ため息をついて訓練場へと帝羽を探して行くと、帝羽はそこで若い軍神達に稽古を付けていた。
義心は、言った。
「帝羽。」
帝羽は、振り返る。
そして、こちらへ歩いて来た。
「義心。どうした、何か?」
義心は、頷いた。
「王からの命を維明様より賜った。我ら、正月は七日休まねばならぬ。」
帝羽は、え、と驚いた顔をした。
「…月の宮には誰を同行させるのだ?」
義心は、息をついた。
「まだ決めて居らぬ。今命じられたばかりであるからな。それだけではない、卯月に七日、水無月に七日、葉月に七日、霜月に七日は必ず取れと言われておる。王命なので、取らねば罰せられるそうぞ。」
帝羽は、呆然とした。
「そんなまとまって休むなど…回るのか、軍は。」
義心は、息をついた。
「回さねばならぬ。とはいえ我は屋敷に帰らず宿舎におるゆえ、何かあれば聞いてくれたら良いがの。王は、その月に七日休めと言われただけで、二人同時にとは申されておらぬ。ゆえ、別に取ろう。さすれば何とか。」
帝羽は、息をついた。
「一人の負担が増えるだけぞ。下位の奴らならいざ知らず、我らが年に四十八回は多過ぎるのだ。王が会合にお出ましになる時など、どちらかがついて参ってどちらかが宮を守るのだぞ?それを避けて七日か。」
義心は、考えたら不可能な気がして来たが、仕方がない。
なので、息をついた。
「…落ち着け、帝羽。その場合、我が休んでおったら宮に残って皆に指示を出す。何かあったら対応できるし、なんとかする。避けぬでも大丈夫ぞ。とにかく、休みであるという事実だけあれば良いではないか。何かあったら出動する許可は与えられておるしな。休んでおるように見えたら良いのよ。」
確かにそうだが、それで本当に良いのだろうか。
帝羽は思ったが、仕方がない。
とりあえず、休めと言われているのだから、休むしかないのだ。
義心と帝羽は、これからの事を思うとため息が出たのだった。




