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天の作業

高彰は、妃の恵鈴の義姉妹に当たる聡子の葬儀なので、恵鈴の里帰りを許して葬儀に参列させたようだ。

塔矢の落ち込みようは大変なもので、恵鈴は師走の晦日までは宮に戻らないことになったらしい。

恵麻と恵鈴の二人で塔矢を慰め、政務は桐矢が代わりに務めてなんとか忙しい年末をこなしているそうだ。

こうなってしまったからには、早く塔矢が立ち直ってくれるのを願うばかりだった。

龍の宮からも他の宮からも、悔やみの言葉と品が贈られ、それは月の宮も例外ではなかった。

一度は長年、こちらの宮で過ごしていた女神なので、蒼からも心を込めた書状と品が、たくさん贈られた。

碧黎は、天黎を訪ねて行った。

「…聡子が流れ通りに黄泉へ渡った。これで良かったのだの?」

天黎は、頷いた。

「その通りよ。これで、歪な流れは正された。主も分かっておったろう、聡子は本来志心に嫁ぎ、志心の子を生んで命を落とすはずだった。多香子は後妻で、志心はあのように多香子を己から望んで娶ったわけでもなく、多香子も好きで嫁いだわけでもなく、あのように良い関係ではないまま過ごすはずだった。が、聡子は生き残りこちらに居て、多香子は後妻ではなく志心に望まれてあちらへ入った。ゆえ…齟齬が生じていた。聡子の代わりに多香子が志幡を生み、体が丈夫な多香子は死にはしなかったが、帳尻を合わせるために胸の病で今少しで死ぬところだった。聡子が流れ通りに黄泉へ渡ったことで、多香子が命を取り留める可能性は上がった。恐らく、これでおかしなことにはなるまい。」

碧黎は、息をついた。

「あちらを生かすとこちらが死ぬ。つまりは、主は聡子が逝くのを待たせるために、維月に入れ知恵してここまで保たせたのか、天黎よ。」

天黎は、答えた。

「その通りよ。あのままでは、流れはそうなろうと多香子が死に、聡子は何も覚えておらぬまま、塔矢の宮で細々と生き延びたやも知れぬ。我は帳尻が合うなら別に、それでも良かったが…そもそもが、聡子から学ぼうと思うた時に、それで良いと考えていたゆえな。が、維月が嘆くゆえ…志心とて、持たなくても良い重い苦しみを胸に持つことになるしな。世を動かす力のある者が、そんなものに苛まれては先が案じられる。ゆえに元に戻した形ぞ。」

碧黎は、眉を寄せた。

「…あちらもこちらもとは無理なのは分かっておるが、なんとかならぬのか。」

天黎は、答えた。

「我とて好きでやっておるのではない。そも、地上に人や神が多過ぎるのだ。主の与えられる気の量は限られておるのに、その範囲で賄わねばならぬ。一度磁場逆転で多くの人が黄泉へと渡り、それゆえ何とか収まったが、あれとて好きでやったことではない。あれからまた、人は増え続けており、神も然り。また災害を起こさねばならぬようにはしたくないゆえ、細かいところで調整は必要なのだ。」

碧黎は、息をついた。

「ということは、定期的に磁場逆転が起こるのは、主がそうしておるからか。我にもどうにもならぬのに。」

天黎は、頷いた。

「その通りよ。とりあえず、賢い人や神は残るように、何年も前からその前兆を知らせて、全てが犠牲にならぬように配慮はしておる。主とてあの折、磁場逆転にかこつけて、地上に面倒な電波が飛ばぬようにしただろうが。数万年に一度ぐらいは、そんな大規模な整頓作業が必要なのよ。そうでなければ、海青の作っておった世界のように、世界ごと閉じねばならぬことになる。これでも昔から、いろいろ考えておるのだ。」

天黎のお陰で、この世界がこうして維持されて来たのは知っている。

が、何やら非情にも思えた。

「…聡子のことは良い。元々あやつ自身も望んでおったこと。まあ、あやつは記憶は残しておいてほしかったようだがの。が、他の神よ。まだ、死なねばならぬ命も出て参ろう。我の気はまだ一時期の事を思うたら余裕がある。そこまでサクサク黄泉へ送らぬでも良いのでは。」

天黎は、息をついた。

「今も申した。あまりに放置しておけば、災害でないと対策できぬようになる。なるべく自然になるように、コツコツと黄泉へ送ってまた、次を待たせるようにせねば、一気に大量に無差別にあちらへ送ることになってしまう。そんなことは本来、しとうない。コツコツと調整しつつ、表面上平穏に過ごさせてやりたいと願う。碧黎、分かっておろう。観も転生して参る。それでなくとも公青、炎真、志幡と大きな気の元は王として君臨した神が戻っておるのに、そんな悠長な事を言うておられるのか。あれらはほんの二百年ほどでまた、次の命を生み出すようになるぞ。油断しておったらすぐ増える。調整は必要ぞ。」

碧黎は、仕方なく頷いた。

「…ならばそのように。」

碧黎は、いろいろと見えて来ているだけに、気が重かったが天黎が言うことはもっともだ。

碧黎の気には限りがあり、自分が充分に生きるための気を残して他を与えているが、それが足りなくなると力を制限されるのを覚悟で皆に気を分け与えねばならなくなる。

そうなると、自分の体さえ満足に調整できなくなるので、今は必死に抑えたり流したりしている地震や噴火などの大きな力も、抑えきれずになすがままになるだろう。

そうなった時の、人世の被害は計り知れない。

碧黎自身に余裕がなくなるのは、なのでかなりまずかった。

天黎は何よりそれを分かっているので、こうして細かく調整しているのだろう。

碧黎はため息をついて、また来る年に心の重い出来事が続くだろう世に、想いを馳せたのだった。


龍の宮では、年末の仕事を必死にこなしていた。

正月には多くの臣下が休みを取り、維心が決めた月に四回の休みを消化しておこうと重臣であるほど正月に休むので、面倒事は全て年内に済ませておく必要がある。

月に四回、年に四十八回の休みは必ず取らねばならないと決められてから、普段から休み返上で働いていた重臣や軍神の上位の者たちは、なるべくこの、やることが少ない正月にまとめて休みを消化して、繁忙期に備えている。

とはいえ不測の事態は起こるので、結局取りきれずに年末にまとめて品物を与えられる事で精算するのが、常のことだった。

その精算作業も、この年末にはしなければならないのだ。

維明は、鵬から提出された、書類を見て言った。

「…此度も義心は消化しきれておらぬ休みが多過ぎる。父上に重用されておるゆえ分かるが、あやつだけ突出して多い。また母上からお叱りを受けそうだの。」

鵬は、息をついた。

「は。義心も休みは要らぬと申すのですが、それでは他の軍神も義心に遠慮してお休みを戴くのを渋る傾向がございます。王妃様にはよく、王に申し上げておられましが、しかしながら義心でないとこなせぬ業務も多く…。試験の結果からも、我は合点が行きましたが。」

維明は、頷いた。

「あやつは頭も良いからの。とはいえ、父上がお決めになられたことであるし、皆が年四十八回の休みは取るべきなのだ。」

そもそもが、月に四回と決めて、毎月締めて取れなかった分を精算する方式にしていたのだが、それだと多くが休みを取れない月も出て、暇な時期に多くの臣下が手持ち無沙汰で宮に上がっているという、非効率な事態になった。

なので、年に四十八回にして、取れる時に取れる者が、まとめて休みを取る方式にしてから、効率的に捌けるようになったのだ。

だが、それだと年末までになんとかしよう、と忙しい上位の臣下は先延ばしにするので、忙しい年末に取り切れない事態に陥る。

ここは、一度相談してまた、形を考えねばならないと維明は思った。

「…父上にご相談して参る。」維明は、立ち上がった。「来年からどのようにすれば良いのか、何か案があればお聞きして参るわ。主らはこのまま今年の精算を済ませ、取れる者は正月に休みを取っておくように申せ。」

鵬は、頭を下げた。

「は!」

維明は、頷いて歩き出した。

奥宮へ向かったのだ。

今頃、維心は居間でゆっくりしているはずだった。

維明は、鵬からの報告書を手に、宮の中を歩いて行ったのだった。

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