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師走の会合

師走の会合は、いつもの如く龍の宮で執り行われることになっていた。

他の宮は、年末でその年の締めやら、年明けの準備やらで大騒ぎになるので、臣下が多い龍の宮でやるのが毎年のことになっている。

龍の宮でも忙しいが、会合の宮があるので、全部をそちらで収めてしまえば、本宮はいつも通りの動きで良いので負担は少ない。

あの宮が、なかった時を思うと格段に落ち着いていた。

とはいえ、忙しいには変わりない。

維月は、今回のテーマカラーを紅と決めて、会合の宮と本宮の外宮到着口周辺を、その色で統一するように指示を出し、花を選んで庭師に申し付けておいた。


そうして始まった師走の会合には、多くの神がやって来て会合の宮へと流れて行く。

大会合の時に比べたら大したことはない数なので、いつも通り落ち着いた流れだった。

維心は、それを脳裏に見ながら着替えを済ませた。

「…炎嘉が着いたわ。」維心は、言った。「志心と共にの。」

維月が頷くと、鵬がやって来て膝をついた。

「王。皆様お揃いになろうかと。そろそろ向かわれてもよろしいかと思います。」

維心は、頷いた。

「炎嘉と志心が今着いたの。会合の間に向かって歩いておる。ならば我もこちらを出よう。」と、維月を見た。「行って参る。宴には出て参れ。」

維月は、頭を下げた。

「はい。行っていらっしゃいませ。」

維心は、頷いてそこを出て行った。

…今回の会合には、妃は綾しか来ていない。

維月も、月から見てそれは知っていた。

恐らく皆、示し合わせて連れて来なかったのだろうが、綾だけは維月と話したいと、何度も文を送って来ていたのだ。

なので、翠明も連れて来ないわけには行かなかったのだろう。

維月はため息をついて、侍女達に手伝われて着替え始めた。


維心は、会合の宮会合の間へと入った。

もう全員が揃っていて、炎嘉と志心ももう、席についていた。

維心が席につくと、炎嘉が言った。

「…では、師走の会合を始める。」

皆が、頭を下げる。

そして、炎嘉は目の前に積み上げられた案件を、上から順に読み上げて、処理に掛かった。

…志心の顔色は悪くない。

維心は、炎嘉がサクサクと処理して行くのを横目に見ながら、皆を観察していた。

恐らく多香子が良くなって来ているので、気持ちも落ち着いているのだろう。

だが、代わりに塔矢の顔色が悪かった。

何か懸念を抱えているような、終始難しい顔をしている。

…もしかしたら、聡子か。

維心は、思い当たった。

聡子が月の結界から出て里へ帰り、それからしばらくして寝込んでいるのだと聞いていた。

もしかしたら、あれから半年にもなるし、今ではかなり悪いのかも知れない。

「…であるから、此度は翠明にこの件は任せよう。」と、維心を見た。「それで良いの?」

維心は、ハッとした。

「主がそう思うのならそれで。」

炎嘉は、ムッとした顔をしたが、何も言わずに息をついて頷いた。

「ではそれで。」

聞いていたが、大した案件ではない。

維心は、思っていた。

そうして一時ほど、会合が終わり、維心が年の暮れの挨拶をして、場は解散となった。

やっと終わったか。

維心が立ち上がって炎嘉と共に並んで歩くと、炎嘉が横から言った。

「いつもながら全部我に丸投げしおってからに。せめて聞いておけ。心ここに在らずな顔をして。」

維心は、答えた。

「聞いておったわ。何でも良かったゆえにああ申した。」と、後ろを振り返った。「志心。多香子は改善しておるようよ。」

志心は、頷いた。

「主と維月がよう見てくれておるゆえ、感謝する。」

維心は、首を振った。

「我は何も。蒼があちこち連絡を取ってやってくれておる。我は月に一度明花を行かせておるだけであるからな。」

志心は、隣りの大広間へと入って行きながら、答えた。

「それでもそれが有り難い。そもそも最初に麻耶へ問い合わせてくれたのは主ぞ。お陰であのように少しは希望が見えて参った。礼を申すぞ、維心。」

維心は、壇上へと進んで、そこに座った。

「良いと申すに。それは充分に礼を送ってもろうたわ。」と、脇に控えた誠を見た。「洪、我はもう会合の席で挨拶して参ったゆえ。皆が揃ったら適当に始めさせよ。」

誠は、頭を下げた。

「は!」

炎嘉が、隣りへ座った。

「どうなることかと思うたが、多香子が持ち直して来ておると聞いてうちの治癒の者たちも驚いておった。聞いた症例で、手遅れになってから助かった例は今までないらしい。遅ればせながら薬草にも興味を持ち始めておるようよ。麻耶に文を送っておるようだが、対応は奈々花とか申す若い女神がしておるようで、聞いたら龍であるとか。維心はいち早くあちらへ学びに行かせておると、相変わらず対応が速いと感心しておったのだ。」

維心は、首を振った。

「言い出したのは洪ぞ。明花が行きたいぐらいだと言うておるのを聞いて、ならば若い神を行かせてはと言い出してな。頭の良い奴で、弟子としてかなり励んでおるらしい。あちらから種を送って参って、明花達には最近、庭の一部を与えてそこで薬草を育てるのを許した。あれらは毎日庭師と土いじりまでしておる。」

誠が、皆が席についたのを見て、宴の始まりを宣言している。

維心は、盃を手にした。

「我が口をつけねばならぬのだろう?」と、維心は盃に口を付けた。「これで良いな。」

これまで意識していなかったが、ふと見るとじーっとこちらを観察していた、壇の下の王達も、そこからやっと盃を手にする。

…意識したことがなかったが、皆そうだったのか。

維心は、思った。

焔が、盃を手にして一気に飲み干した。

「…まあ、一応礼儀は弁えておるゆえ。」と、手酌でまた酒を注いだ。「それより、維月はまだか。」

維心は、宮の中を見た。

「…奥から輿でこちらへ向かっておるな。」と、気になっていた、塔矢を見た。「ところで塔矢。聡子はそれほどに悪いか。」

塔矢は、ハッと顔を上げる。

皆が、塔矢の顔をじっと見た。

塔矢は、息をついた。

「…お気づきか。」と盃を置いた。「月の宮から戻って此の方、段々と悪うなる。本来、あちらへ嫁いでおらねばもっと早うにこうなっておったろうし、もう諦めておるが…最近では、ふとした弾みに気を失ったりしてな。出て参る直前にも気を失ったと大騒ぎで、そのまま出て参ったので案じてならぬで。」

炎嘉が、重苦しい顔で言った。

「…それも宿命。記憶も失くして月の宮との縁も切れておるしな。蒼は頼めば診てくれようが、一度天黎の気で記憶を失った聡子が、今度は何を失うのかと考えたらそれも安易である気がする。」

塔矢は、頷いた。

「あの宮へ滞在して、なんともない者の方が多い中、聡子だけが記憶を失くしたりしたのも恐らく生来の弱さからだろうと思うと、また面倒を見て欲しいとも言えぬで。このまま見送るしかないのかと思うておる次第。」

焔が言った。

「ならば、宴など良いぞ?帰ってやるが良い。我らは勝手に飲んでおるから。そんな様子なら、今日明日やも知れぬのだろう。」

塔矢は、頷いた。

「…では、お言葉に甘えて。本日はこれで、失礼する。」

炎嘉も、言った。

「主も気に病むでない。なるようにしかならぬから。」

塔矢は頷いて、その場を辞して行った。

志心は、言った。

「…難しいの。多香子は鍛えた体があったゆえ、まだなんとか。とはいえ、聡子も薬草で何とかならぬかの。」

維心は、息をついた。

「分からぬ。それは麻耶に問い合わせて見ぬことには。だが、それは塔矢の仕事であろう。我が宮の者が薬草の知識があるのなら、幾らでも調合させようが、麻耶は神威の臣下ぞ。多香子のことも、維月がやたらと嘆くゆえにああして問い合わせたが、本来志心がやるべきこと。口出しして申し訳なかったと思うておる。」

志心は、首を振った。

「そんなもの気にしておらぬ。もちろん、奥のことであるのに常なら口出しされるのは鬱陶しかろうが、此度は違うゆえ。有り難いと思うておるよ。維月が案じてくれることを、多香子も感謝しておるしな。」

維心は、息をついた。

「あれはやり過ぎるきらいがある。これ以上はと釘は刺しておいた。良うなって施術の時期などは、主らが考えて決めるが良い。あれこれ脇から口出しするなと申しておいた。」

志心は、頷いた。

「それは己で決める。元々そのつもりであるし、そこまで口出ししては来ぬだろうて。維月も弁えておろう。」

だといいがの。

維心は、内心思っていた。

維心の脳裏では、維月の輿と綾の輿が、会合の宮の入り口付近で行き合っているのが見えていた。

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