蔵ツアーへ
維心は、炎嘉達に知らせをやり、蔵のある内宮の大扉前へ集まるようにと通告した。
それから自分も維月に手伝われて準備を済ませ、維月に見送られて居間を出てそちらへ到着すると、そこには鵬と誠が並んで立っていて、その前にはもう既に王達が打ち揃って待っていた。
「何ぞ、早いの。もう来ておったのか。」
維心が言うと、炎嘉が答えた。
「こっちはもう半時前からここで待っておるわ。主がゆっくりし過ぎなのだ。」
どれだけ楽しみなのよ。
維心は思ったが、鵬を見た。
「鵬。準備は整っておるか。」
鵬は、頷いた。
「は。王妃様の指示の下、全てを整えておりまする。」
維心は、頷いた。
「扉を開け。」
鵬は、頭を下げた。
「は!」と、脇に控える侍従達を見た。「扉を開け!」
途端に、目の前にそびえ立つ大きな扉は、ギギギと重い音を立ててあちら側へと開いて行く。
王達が目をキラキラさせながらそれを覗き込むと、開いた先には大きな回廊があり、その両脇に堅牢な独立した建物が幾つもそびえ立っているのが見えた。
「…これが蔵か。」焔が言う。「なんとの、内宮にこんな物があったとは。」
維心は、頷いた。
「ここはもともと大きな中庭の奥に沿って建てられていてな。それを、蔵が足りぬと手前へ手前へと建て増して行った結果、ほとんど庭などない状態になってしもうて、今回建てた七の蔵がいっぱいになったらもう、それ以上は増やせぬ。ゆえに今、上へ積み上げるために軍神達に構造を考えさせておるところよ。宮は九階建てだが、蔵は七階建てでな。まだ足せるだろうという考えよ。」
どれだけ物があるのよ。
皆は、蔵の外観だけでこの宮の財力を知った。
鵬が、頭を下げた。
「では手前から。最近にできたばかりの、七の蔵をご案内致します。」
これは確かに一日どころか、見て回るのにどれだけ時が要るものか。
皆が思いながら、鵬について中へと向かった。
その背後で、大扉はまたギギギと音を立てて閉じたのだった。
鵬が、七の蔵の前に立って、説明した。
「こちらが七の蔵でございます。他の蔵は王が申された通り七階建てでありますが、これだけは先を見越して九階建てになっております。ほか、順次六の蔵から遡りまして、軍神達により九階へと増築されて参る予定です。」と、七の蔵と対面になる蔵を指した。「あちらが後ほどご案内する六の蔵、その隣りが四の蔵、つまりはこの七の蔵の隣りは五の蔵で。二の蔵、三の蔵となり、奥にこちらを向いて建っているのが、この宮が建ち上がった時からございます、一の蔵でございます。」
言われて見ると、確かに他は真ん中の通路を挟んで向かい合って建っているのに、奥の蔵だけがその通路の突き当りにこちらを向いて建っており、造りもほかと違ってより大きかった。
維心が、言った。
「一の蔵の奥に宝物庫があるのよ。宝物庫に収めておらずとも、一の蔵の中身は年代物が多い。最初はあれだけでやって行けたらしいが、今では考えられぬよの。」
いや、充分大きいぞ。
皆は思ったが、黙っていた。
維心は続けた。
「我は、入るとしたら一の蔵ぐらいで、他の蔵は職人達が作り上げた物を収めているだけなので、まず入らぬ。維月は、鵬達と祝いの品などを選びに参るので、蔵の中身については恐らく、維月の方がよう知っておる。この度七の蔵を建ち上がって、中を整理したのも維月ぞ。なので、維月の方が蔵のことには詳しいかの。」
志心が、言った。
「だが維月は茶会とか言うて。多香子もゆえにここへはこなんだのだがの。説明させたら良かったのではないのか。」
維心は、答えた。
「いつもと違って着物が大層なので動くのが億劫なようぞ。蔵は見ての通り広いゆえ、妃達の足に合わせておったら何日掛けても終わらぬぞ?」
言われてみたらそうかもしれない。
鵬が、言った。
「我が承知致しておりますので。では、七の蔵、こちらは只今、他の宮からの贈り物などを収めておる場所となっておりまする。」
維心は、頷いた。
「扉を開け。」
侍従達が、頭を下げて重そうな蔵の扉を開いた。
扉は、ギギギとまた音を立ててこちらへと開き、中を広く見通せるようになった。
「参ろう。」
維心が言う。
鵬は、頷いて中へと足を進めながら言った。
「ここは、常は王にお許し頂いて、我ら臣下でも開く事が可能でございます。が、一の蔵だけは、王のご許可が都度、必要となっており、その奥の宝物庫は、王の結界に守られているので、基本的に王、王妃以外は立ち入る事は禁じられ、許された場合でも、王族の方と共でなければ入る事はできませぬ。」
一の蔵だけ、特別なのだな。
皆は、それを聞きながら蔵の中へと入って行き、思った。
ここは広くて余裕があり、各宮から贈られた品が、まるで美術館よろしく展示されるように転々と置いてあった。
脇には階段があり、まだ上にもあるのがそれで分かる。
まあ、建物を外から見て九階あるのは知っていた。
鵬が、手前から言った。
「こちらは、鳥の宮から贈られた王妃様の復帰祝いの品でございます。」
最近だな。
皆が思ってフンフンと頷く。
炎嘉は、顔をしかめた。
「この対の花瓶は使うために贈ったのだぞ?良い出来であったから。何故に蔵に飾っておるのだ。」
維心は、答えた。
「知らぬわ。花瓶など維月がその時その時で使う物を決めて蔵から出すように命じて宮に置く。ようけあるのに、主からの物ばかり使わぬだろうて。」
鵬が、慌てて言った。
「王妃様からのご命令があれば、出して参って使う事もございます。これはただ、ここに収めておるだけで、蔵に飾っておるのではありませぬ。」
蔵だものな。
焔が、言った。
「そういえばこの前の会合で来た時、会合の宮の入口でこれがあったぞ。別に使われておらぬわけではないな。」
言われてみたらそうだったかも知れない。
何しろ龍の宮は広くて、あちこちに花瓶など置かれてあって、いちいち見ていないのだ。
「…そうだったかも知れぬ。ということは、維月はどんな花瓶があるのか覚えておいて、都度命じるのか。なんと面倒な。ここは広いのに。」
維心は、苦笑した。
「その通りよ。我がやっておった時は、臣下に丸投げだったが維月はいちいち都度決めておる。此度は外が寒いゆえ、全体的に暖色の花瓶やら花やらを選んでおるようよな。これは鮮やかな紅、そぐわぬと見て此度は出さなかったのだろう。」
そういえば、龍の宮は来る度に印象が違い、今回は暖かい色合いだった。
夏には寒色の花瓶が多かったといえばそうかも知れない。
鵬は、これでは日が暮れてしまうと急いで次の品の説明に入った。
「こちらは鷲の宮から贈られました塗りの盃の一揃えでございます。」
焔は、頷いた。
「別に普段使いで良いぞ。特別な時に出さぬでも、傷が付いたら捨てて良いし。」
鵬は、頭を下げた。
「は。王妃様にはそのように。」
維心が、早くもアクビを噛み殺すような顔をした。
「…時を取るわ。もう良い、好きに見て回らぬか。いちいち一つずつ説明させておったら日が暮れる。まだ九階まであるのだぞ。それに今七の蔵、一の蔵まで行き着かぬわ。」
志心が、苦笑した。
「ならば勝手に見る。」
と、隣りへ見に移った。
渡と仁弥も、それぞれ気になる方向へと見に行き、駿と公明、翠明、樹伊、塔矢も移動して、漸はクンクンと何かの匂いを嗅ぎながら、単身移動して行った。
炎嘉は、残った箔炎と焔を見た。
「…我らも参るか。確かに一つずつ見ておったら時が掛かる。そも、一階でこれだということは、二階から上はどうなっておるのかの。いちいち説明させておったら時が掛かってしようがないゆえ、気になった物だけ鵬に説明させるか。」
二人は、頷いた。
「そうするか。じゃあ、さっさと参ろう。」と、焔は維心を見た。「維心?主は知っておるから見るのが退屈か。」
維心は、首を振った。
「ここは他の宮から来たものだろう。我は、誰が何を贈って参ったのかは聞いて知っておるが、それがどれなのか実際に見ておらぬゆえ本日初めて見る物もあると思うぞ。」
炎嘉が、え、と維心を驚愕の顔で見た。
「待たぬか。つまり主は我らがせっかく吟味して送らせておるのに、己で見ておらぬと申すか。」
維心は、顔をしかめた。
「見ておる物もあると申すに。だが、いちいち全部見ておったら時を取って仕方がないのよ。維月が知っておるのだから良いではないか。」
いくら物に興味がないからと。
皆は複雑な気持ちになりながら、共に七の蔵の中を見て回り始めたのだった。




