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節分前

神世は表面上は穏やかに回っていた。

節分の行事は龍の宮の大きな行事の一つで、それに合わせて年始最初の会合も行われるので、今年の会合は如月の二日に行われ、その後次の日に節分の祭りが執り行われる事になっていた。

しかも、その時に上位の王達が、龍の宮蔵見学ツアーをしたいようなので、維月は臣下と共に蔵の整理は行き届いているのか、確認を怠らなかった。

誠は、公林と栄加と共に相変わらず調査を続けているようだったが、維月は何も聞いていなかった。

維心は時々報告を受けているようだったが、基本的に誠に任せていて、何も話してはくれていない。

事がハッキリしたら維月にも教えてくれるだろう。

それよりも、維月は節分の準備やら蔵ツアーの準備やらで、そっちの方が忙しかったのだ。

いろいろあった睦月ももう終わりで、明日からは如月になろうとしていた。

維月は、居間へと戻って来て、維心に頭を下げた。

「只今戻りました。」

維心は、頷いた。

「維月。これへ。」と、手を差し出す。「明日から如月であるが、二日は会合ぞ。鵬も準備が整ったと報告に来ておった。節分と重なるので、面倒であったようだの。」

維月は、苦笑した。

「はい、確かにやることは多かったのですが、臣下達がよう頑張ってくれまして。なんとか節分の準備も整いましたわ。特に此度は、皆様蔵を見ると仰っておるのでしょう。」

維心は、頷く。

「炎嘉が楽しみだ楽しみだと、珍しく私的に文を送って参るほどぞ。仕方なくそれは良かったなと返したが、明日にでも前倒しで来るのではないかと案じるわ。」

そんなにか。

そういえば、志心も結構楽しみそうにしていた。

他所の蔵を見るなど、滅多にできるものではないし、特に龍の宮の蔵となると、珍しい物の宝庫で、美術館にでも来る心地なのかもしれなかった。

維月は、頷いた。

「はい。それなら早めに準備が終わっておって良かったですわ。」

維心は、頷いて維月の手を握った。

「…維月。落ち着いて聞いてはくれぬか。」

維月は、何やら真剣な顔の維心に、思わず頷いた。

「はい。何でございましょう。」

維心は、続けた。

「洪が進めておった精査だが、それが終わった。実は数日前に、義心に命じて洪達と共に務めを怠っておった者達を捕らえ、一人ずつ話を聞いておったのだ。そして、回りにも聞き合せてその怠っておった度合い別に分け、本日沙汰を下して、処罰を受けさせるように義心と洪に命じた。今頃、処刑の決まった奴らは訓練場に、拘留するものは地下牢に、その他宮追放などいろいろあるが、真面目な者達以外を全て排除した格好ぞ。」

「え…もう?!」

維月は、仰天した顔をした。

睦月、つまり1月の4日に命じられて、今は31日だ。

この規模の宮の臣下達をよくその短期間で調べたなと感心しきりだった。

「それは…つまりは、処刑に値するような者達も、中には居たと。」

維心は、頷く。

「洪の話によると、しばらくはおとなしゅうしておったようだが、鵬達筆頭が興味もなさげに通常業務にばかり勤しんでいるし、誠は若いしで油断したようだの。ものの七日ほどで尻尾を出したと申しておった。それから泳がせておき、他にもそんな輩が居らぬかと、公李達と宮の中に目を光らせておったら、すぐに皆いつもの調子に戻って参って、警戒しておった奴らも真面目に務めておる者達に務めを押し付けて、中抜けして行くようになった。つまりは、点呼の時と、終業の時以外はどこやらで遊んでおったわけであるの。」

気付かなかった。

維月は、思った。

ここのところ忙しくしていたのもあるが、いつも皆真面目に励んでいて、サボっている者が居るなんて、思ってもいなかったのだ。

「…なんということ。私の目は何を見ておりましたことか。いつも真面目に励んでおる者達しか、目にしておらずで。」

維心は、苦笑した。

「それはそうだろう。主は点呼の時から居るわけではないし、その時励んでおる者達が、当番だと思うて見ておるのだから、そこに居らぬ者達は目に付かぬ。相手は目に付かぬように隠れておるわけであるしな。現に、それらが捕らえられておるのに、全く気付いておらなんだだろう。」

そういえばそうか。

維月は、頷いた。

「はい。ということは、本来ならもっと多くの神員が居たはずなのに、少ない神員で皆、励んでくれていたのですね。そう思うと、此度の節分の準備も間に合ったのは奇跡ですわ。残った者達には労いをしてやりとうございます。」

維心は、頷いた。

「ならば多めに何か下賜してやるが良い。そこは主に任せようぞ。」

維月は、頭を下げた。

「はい。では早速に準備を。」

維心は、慌てて言った。

「待たぬか。」維月は、動きを止めた。維心は続けた。「まだあるのよ。宮の精査が終わり、宮に召していた臣下が9628人から、8984人に激減した。減った約700人を新たに召し上げねばならぬ。それに伴い、序列制度を改定し、維明に作らせていた試験を現職も合わせて実施しようと考えておる。いつまでも少ないと、会合などの度に面倒も出て参るだろうし、弥生にでも実施しようと思うが、主はどう思う?」

え、700人?!

維月は、試験よりもそっちの方に驚いた。

つまりは、それだけの数が務めを怠っていたということだからだ。

「そんなに多くの者が務めを怠っていたのですか?!」

維心は、頷いた。

「その通りよ。宮はまずい方向に向かっておったことになるの。他の宮の王達は、昔からそんな事があるゆえ軍神に見張らせて対応しておったが、うちはその辺りがそもそも有り得ないと思われていたので、対策できておらなんだ。これよりは義心も見張ることになるし、洪も居る。知識だけでなく性質でも侍従の段階から弾き、宮を綺麗に整えるつもりぞ。」

…本当にヤバいところまで来ていたのだ。

そもそも、筆頭に近い親族からそんな輩が出ることから、その下はもっとであったと想像もできたはずだった。

維月は、息をついた。

「…誠に申し訳なく…。私が維心様が厳しくなさっておるのを、止めたりしておったばかりに。過ぎてはこのような事になるのですわ。あのままならば、それらも無駄に命を落とすこともなかったでしょうに。」

維心は、首を振った。

「遅かれ早かれであるぞ、維月。そういう性質なのだ、いつかはやらかしておった。今分かって良かったのよ。洪が戻ったお陰で、宮の隅々にまで目が行き届くようになっておる。これからはこのようなことはないゆえ。案じるでない。」

もう、口出しするのはマジでやめておこう。

維月は、身に沁みていた。

多くの臣下を抱え、それらを効率的に支配し、動かしていた維心は、あのやり方が一番良いと考えて、そうしていたのだろう。

弛むと、良い事などないのだ。

維心は、維月を気遣うように言った。

「過ぎたことは良い。それより、試験のことは。」

維月は、ハッとして頷いた。

「維心様の仰る通りに。維明は問題を改定してくれましたし、あれならば解けない問題が一問も無いなどということもなく、とりあえずは末端まで序列をつける事ができましょうし。新たに召し上げる臣下の件は、鵬達と誠に任せましょう。試験でふるい落としてから、これまでと同じように面談で決めて参ったら良いのではないでしょうか。」

維心は、頷いた。

「ならばそのように。我もそれで良いかと思う。」

宮が大きく動いて行く。

維月は、今度こそは間違えないと、気持ちを新たにしていた。

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