8 土地神、地域の守護者という怪物も殺す
かつての恋人も処分して。
アユムは再び問題解決の為に歩いていく。
なにせ周りは化け物だらけ。
いずれ怪物に変化する人間ばかりだ。
少しでも早く消滅させねばならない。
そうしていくと、どうしても相手にせねばならない奴が出てくる。
遅かれ早かれ遭遇するだろうと覚悟をしている者に。
それがアユムの目の前にあらわれた。
「おおおおおおおお!」
怒り、嘆き、悲しみ、憤り。
アユムに向けた憎悪を叩きつけてくるもの。
それは町の中を歩いていたアユムの前にあらわれた。
姿形は人型と言って良いだろう。
二本の足で立ち、二つの腕に一つの頭。
全体的な形は人そのものだ。
だが、決定的な違いがある。
相手が肉体・実体を持たない気力の塊である事。
人というには気力が大きすぎること。
その頭にそれと分かる日本の角がある事。
額が光り、それが瞳のように見える事。
鬼。
あるいは鬼神。
そう呼ばれる怪物。
この土地に陣取る化け物。
あるいは、土地神。
地域や場所を守るもの。
それがアユムの前にあらわれた。
理由は言うまでもない。
アユムが行ってる怪物殺しを止めに来たのだろう。
「おのれ!」
怒声を放つ鬼がアユムの予想が正解だったと伝えてくる。
「何をしてる!」
「化け物退治」
そういってアユムは目の前の鬼に念を放っていく。
気力による攻撃だ。
当然、鬼もそれを迎え撃つ。
普通の人間なら苦も無く攻撃を遮る事が出来ただろう。
だが、相手が悪かった。
アユムの力は人間を超えている。
未来における最終的な力には遠く及ばないけども。
それでも、未来の記憶を受け継いだ今は、土地神たる鬼を軽く凌駕している。
立ちはだかってきたとしても敵になるわけがない。
地域の人間が死んでいく。
それを見過ごす事が出来ずに出て来た土地神。
その精神は立派なのかもしれない。
だが、思いや意思、土地神としての使命感。
それらは何の障害にもならずに粉砕されていく。
「本当に邪魔だな」
アユムからすれば、そんな土地神たる鬼が邪魔でしかない。
鬼は地域を守るために出て来たのだろうが。
その守ってる者達が邪悪なのだ。
悪いのを守ってる奴に何の価値があるのか?
ただ、ひたすらに邪悪でしかない。
悪さをする者も。
悪さをしてる者を守る者も。
どちらも等しく邪悪である。
確かに地域の者達を守ってるのだろう。
それが土地神だ。
だが、邪悪な存在を放置している。
そんなものがどうして守護者たりえるのだろうか?
虐げられてる者達を放置してるのに。
かつての未来でアユムは虐げられていた。
それを助けることもしなかった。
そんな土地神に、アユムは憐憫をおぼえない。
ただただ憎くて仕方が無い。
「さっさと死ね」
そう言い切るくらいには。
鬼は切り刻まれていく。
霊魂にまとった気力が吹き飛ばされていく。
肉体があれば、それが千々に切り刻まれている事だろう。
それと同じ事を鬼の霊魂は施されていく。
「なぜだ!」
気力で吹き飛ばされ、霊魂を叩き潰される。
その中で鬼は死を覚悟した。
自分は助からないと。
だが、その前に知っておきたかった。
「なぜ、こんな事をする!」
アユムの行動の理由を。
鬼からすれば暴虐にしか見えないだろう。
なにせ、大量の人間を殺めてるのだから。
しかも、霊魂後と消滅させらられている。
これでは輪廻転生も出来ない。
存在そのものが消滅する。
ここまでの事を何故するのか?
土地を守る鬼には疑問しかなかった。
「ふざけんな」
そんな鬼の考えがアユムを怒らせる。
浅ましい智慧、上っ面しか見ない思考。
そんなものによってどれだけ虐げられてきた事か。
「さっさと死ね、悪党」
土地神の使命は、より多くの命の存続。
これだけを担ってる。
だから、誰か一人二人が死のうが気にしない。
それ以外の多くが生きてるのだから。
土地神からすれば、その場に生きるものたちが少しでも多ければそれで良い。
そこで誰かが苦しみもがいていようとも気にしない。
その為に、被害者の一人二人が死のうともだ。
それによって加害者の十人二十人が生き残る方が大事と考える。
だから、一人二人を死に追いやってる悪人悪党を放置している。
虐待によって人をいたぶってる連中を放置する。
それによって苦しんでる一人を放置する。
被害者を救う事もせず。
加害者を押しとどめる事もせず。
それが土地神である。
「立派な悪人悪党だろ」
アユムからすれば土地神の鬼こそが悪である。
しかも、悪人悪党を殺せば飛び出してくるのだ。
多くの命が死滅しているからと。
悪さをしてる連中を皆殺しにしてるだけなのに。
つまりは、悪を擁護している。
悪を上回る邪悪というしかない。
誰かを虐げてる悪人悪党を放置してるのに。
虐げてる連中を皆殺しにすると出て来て止めようとする。
反撃と復讐を止めようとする。
生き延びるために戦おうとした者を滅亡させにくる。
そんな土地神に存在する理由はない。
生かしておく事は出来ない。
被害を受ける者が続出するだけなのだから。
「死ね」
邪悪の根源を殺していく。
殺したところで悪人悪党が消えるわけではない。
だが、邪魔者は消える。
悪人悪党を処分する事を遮ろうとする邪魔な存在を。
今後は少しは動きややすくなる。
「なん……で……」
土地神はそんなアユムの考えを理解出来ない。
それもそうだろう、理解力がないのだから。
ただ、与えられた役割を守ってるだけ。
生きてる人間を増やしてるだけ。
土地神の鬼にはそんな思考しかない。
だから説明するだけ無駄になる。
理解力のない奴に言うだけ無駄なのだから。
それでもある程度は口にしていく。
声にして吐き出さねばやってられないからだ。
気分が悪くなる。
「死ね」
それでも、最後には短い一言だけ吐き出し。
土地神たる鬼を殺していく。
悪事を見逃してきた邪悪を。
被害者の方が少ないからと放置していた邪悪を。
悪人を擁護してきた邪悪を。
「消えろ」
霊魂ごと消滅させていく。
土地から守護者が消えた。
守る者のない場所が出来上がる。
だが、それは今までよりはマシな状態になる。
少なくとも、悪人悪党を守る者は消えたのだから。
様々な幸運・不幸。
そういう形でもたらされていた悪人の擁護。
それは消えた。
今後は少しくらいは住みやすくなるだろう。
善人がしっかりと反撃していくならば。
ただ、そうなるにはまだ時間が必要なのも確かだ。
それでもきっかけは作った。
邪魔するものはもういない。
それだけでも今は良しとする。
必要なものは、なんであれこれから揃えていくしかない。
それすら邪魔する者が消えたのだ。
今の段階ではこれを良しとするしかない。
「きっついな」
先はまだ長い。
厳しい道のりになる。
それを覚悟でアユムは進んでいく。
やらねばならない事をやるために。
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