禁錮5年
俺は今、首から下が動かない状態で牢の床に寝ている。
牢は2メートル四方で天井だけが10メートルくらい、くらいって言うのは牢の中が薄暗く正確な高さが分からないから。
壁や床は柔らかいゴムのような素材で覆われている。
扉はどの壁にも無いから天井にあるんだろう。
俺は通り魔無差別殺人で人を数人殺めて最初は終身禁錮刑を受けたのだが、新しいシステムの牢の使用実験に志願するなら禁錮5年に減刑してやると言われ志願した。
終身からたった5年の有期刑なんて減刑しすぎたと思われるだろうが、付帯条件に人権を無視するってのがあるからこれのお陰での減刑だと思う。
でも俺は志願した事を凄く後悔している。
刺激が全く無いのに耐えられないのだ。
この牢に入れられた当初は、釈放されたら俺に罵声を浴びせた奴等に報復してやろうとあれこれ考えた。
しかし時間が経つにつれ何もせずにいる事に耐えられなくなる。
因みに時間というのは俺の体感時間の事だからな。
ここに入れられてから看守の姿どころか声さえ聞いた事が無く、外部と完全に切り離され時間さえ分からない。
食事、排泄、入浴、着替えは何時の間にか強制的に多分空調から睡眠ガスが投入されているんだろうが、寝ているうちに済ませられている。
だからそれらの食後の満腹感、入浴や排泄後の爽快感なども一切感じる事が出来ない。
今首から下が動かす事が出来ないで床に寝ているのも、刺激欲しさに自分で自分の顔を殴ったからだ。
殴ったら多分直ぐに強制的に寝かされ手当されたのだろう、顔に痛みが無い。
牢に入れられてから何れ程の日にちが過ぎたんだろう?
1年かそれとももう少しで釈放か?
何もかも、強制的に寝かされているうちに済ませられているから全く分からないんだ。
此処は政府の特別実験施設、世間一般には終身刑を受けた囚人が収容されている刑務所として認知されていた。
実験室監視モニターには色々な実験に志願した囚人たちが映っている。
囚人自身は新しい牢のシステム実験に減刑と引き換えに志願したと思っているようだが。
例えば、首から下が動けないようにされている囚人は、何の刺激も無い状態で何れ程の時間耐えられるかの実験に参加していた。
人にもよるのだろうが、彼はもう15年と少しの時間耐えている。
同じ実験に参加した他の囚人は皆、半年から4〜5年程度で狂ったと言うのにだ。
頑張ってあと3〜40年実験に尽くしてくれるとありがたいと思っている。