第4話(4)
「ダイイングメッセージですか。そんな小説やドラマみたいな事件、本当にあるんですねえ」
ネクタイを外した三条がとろんとした目で口にした。もうかなり酔いが回っているので、多分この話、明日には忘れるだろう。俺の歓迎会を催された居酒屋は、既にいい気分になったおっさんばかりが騒いでにぎやかだ。
「俺も初めてだよ、こんなの。高見さんっていう刑事は俺が知ってるなかでも優秀な人でね。このダイイングメッセージの意味もきちんと整理したかったんだな。で、おまえも推理してみるか?」
「え? もちろんっ。僕、酔っ払ってる方が頭働くんですよ」
……自分の言ってることわかってんのか。ホントに酔ってるな。
「よし、じゃあ……」
俺は目の前にあった割り箸の袋を手繰り寄せ、そこにボールペンで名前を三つ書く。
容疑者一人目は『丸山和樹』。被害者久保田佐夜子の甥で司法書士、『丸山司法書士事務所』の所長だ。残念ながら経営状態は良くなく、被害者に多額の借金があった。
二人目は『三田須美代』。佐夜子とは昔ながらの友人、『ジュエリー三田』の経営者だ。社内では女帝と揶揄されていたが、被害者は言うまでもなく出資者の一人。こちらも最近は資金繰りに困り、金の無心をしていたようだ。
そして三人目は佐夜子の若い恋人、『引田信二』。名前から『天功』と呼ばれている男だが、手品は出来ない。被害者に出資してもらい弁当屋の経営を始めたが、元より半端な男なので上手くいっているわけがない。
「その、ダイイングメッセージはどんな形だったんですか?」
「ああ、俺が絵にしたのがある」
女子収容施設にいる美月とは、面会に行っても会話が弾むわけではなかった。俺はクイズでもするつもりで、証拠写真を絵にした。それを彼女に見せたんだ。考えてみれば彼女も教師を刺殺している。絵とは言え、よくもこんなものを見せたものだ。だが、彼女の反応は意外にもあっさりしていた。
スマホにはその時の絵をデータとして残していた。
「随分、簡略してますね。ううーん。確かに三角のような丸のようなおにぎりのような……」
「だろ? 丸なら丸山、三角なら三田須美代、おにぎりなら引田。引田の弁当屋のアイコンがおにぎりなんだよ」
三条は俺のスマホに顔を近づけマジマジと見ている。刑事の性だろうか。謎を解きたい。実はこれが、この事件を犯人逮捕から遠ざけていたんだ。