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第4話(3)


 地主で資産家の久保田佐夜子が殺されたのは1週間前だった。年末にありがちな金がらみの殺人事件だ。佐夜子は非公式に金貸しもしており、家にあった金品も盗まれていたと報じられていた。

 動機もはっきりしていて犯人はすぐに捕まるだろう。防犯カメラは故障していたのか壊されていたのか用をなさず、それを知っている人物だろうことも、容疑者の範囲を狭めていた。


 だが、それからこの事件の報道が立ち止まってしまう。連日久保田家の前に報道陣がたむろしていたのだが、進展が報じられることはなかった。俺も署内にいながら、一課の連中の暗い表情を不思議に感じていた。クリスマスも迫っている。彼らも枕を高くして新年を迎えたいだろうに。


「ダイイングメッセージ。確かにリアリティないですね。そうか……だから魅力的……」

「え? 何が魅力的?」

「あ、いえなんでもありません」


 こんなことで若い刑事が怒られるのは忍びない。


「それで……何が残ってたんですか? まさか名前とかイニシャルじゃないですよね?」


 かく言う俺も興味津々だ。俺だって謎解きが嫌いなわけじゃない。


「三角……それとも丸かな。おにぎりみたいな」


 本来なら、俺みたいな部外者に見せてはいけないものなのに、高見さんはよっぽど追い詰められてるんだろうか。スマホの画像を見せてくれた。


「もう謎解き大会だよ。めぼしい奴に見せてるんだけど、口外はすんなよ」

「わかりました」


 殺害は夜9時から11時頃だが、発見されたのは翌朝の9時。訪ねてきた実妹から警察に通報があった。写真は鑑識が撮ったものだ。さっき見たばかりのモスグリーンのカーデガンの背中に凶器が刺さったまま倒れている被害者が映っている。うつ伏せになってる右手が上に伸び、人差し指が立っていた。

 その指が自らの血液で描いていたのは、角のないおにぎりみたいな三角形。その先に揉みあった時に転がったのか、サイドテーブルと芳香剤、それにタロットカードが撒かれていた。


 血をめい一杯染み込ませたカーペットには、他にも紅茶のカップや雑誌、本も散らばっている。だいぶ暴れたようだ。確かこの夫人は未亡人で一人住まいだった。どう見ても誰かが訪ねてきての犯行なんだろう。


「容疑者は3人いてな。どれもアリバイらしきものはない。それで、誰もがこの三角だか丸だかに関係してんだよ。とんだダイイングメッセージだろ」


 それではダイイングメッセージにはならない。捜査を攪乱したいわけでもないだろうに。


「それ、犯人が書いたのだとか、ないですか?」

「んー。おまえもそう思うか。それもあるんだが、それなら容疑者に加えないようにすると思うんだよな……」

「他にいるとか」

「それはない。3人の他は鉄壁のアリバイがある」

「で、タロットカードってのは?」

「うん。これがもし三角を表してるなら、タロットカードにもその意味があるんじゃないかと考えてみてなあ。単純に三とか丸、つまりゼロならあるんだけど。それもしっくりいかないんだ」


 そう言われても、俺にもタロットカードについての知識は何もない。それに、高見さんも既に詳しい人には聞いているだろう。


「俺も考えてみます。なにか閃くものがあったらお知らせします」

「ああ、頼むわ。期待してるよ」

「ははっ、ご冗談を」


 そんな期待をしているわけがない。でも、言われたら素直に嬉しい。高見さんは話すことで脳内をリフレッシュできたのか、降りてきた時よりも元気に戦場へと戻っていった。



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