第3話(1)
昼休憩。俺は署内の売店でパンとドリンクを購入し、デスクでランチを取った。防犯カメラ映像を何度も止めたりスローにしたりしていたので終わらなかったからだ。
しかし、フレッシュアイと意気込んでは見たが、これと言ったものを発見することはできないでいる。自宅に防犯カメラを設置している家はまだ少ない。ほとんどが周辺の公園やコンビニ前などの映像だ。それぞれの場所で同じ人物や車等が映っていれば犯人もしくは関係している可能性があるのだが、捜査本部は見つけられなかった。
「どうですか? なんか引っかかることありましたか?」
三条が同じようにパンを持って俺の隣に座る。パソコンを覗き込み、付き合ってくれるらしい。第一印象は切なかったが、やはり面倒見のいい奴なんだ。
「なんもない。申し訳ないが、今のところは」
「焦ることはないですよ。僕らだって、何一つここから得られてないんです。1件目の家だけに防犯カメラがあったんですが、これが故障してて。他は近所にあったのをかき集めた格好です。まあ、プロなら防犯カメラがあるところなんか狙わないし、死角を歩きますよね」
諦めたような残念そうな表情を俺に向ける。三条は焼きそばパンを頬張り首を切なげに振った。
「そうかあ。早速お役に立てたらと思ってたんだが。これ、当然だけどハッキングの可能性とかないんだよな」
「鑑識が一通り調べてますね。その点は問題ないようです」
だよな。今時、平和な警察署だって設備だけは整っている。難しければ県警に送ればいいだけのことだし。
「馬鹿馬鹿しいことしか気が付かんよ」
「え? それなんです? 気になったことがあるなら教えてください。聞いてますよ。先輩が向こうで難解な事件を解決されたの」
いつの間にか先輩呼ばわりされている。勤続年数で言えば確かに俺の方が上だが、階級は多分同じだ。ま、不祥事刑事と呼ばれるよりは随分とマシだが。
「それは運が良かっただけだよ。たまたま俺の受け持ってた部署に証拠があっただけ」
ここに栄転になるきっかけとなった事件のことだ。前部署で起きた凄惨な殺人事件。
「またまた。謙遜されるなんてらしくないですよ」
らしくないだと? 会ってまだ数時間しか経ってないないのに俺の何を見てらしいって言うんだよっ。
「あ、すみません」
俺が睨んだのを瞬時に理解したらしい。肩を聳やかし、慌てて謝ってきた。瞬発力は良さそうだな。
「でもその事件のこと、また教えてくださいね。こちらではあまり詳しくは伝わってこなくて。都並さんが感心してたのでどんな内容だったんだろうと気になってるんです」
「へえ……都並さんが」
「ええ。まだ先輩がここに異動になるって決まる前だったと思いますよ。上の方は調書とか見れるんですよね。それで、この発想は凄いなって言ってました」
その辺は俺もよく知らないが、今は全国の刑事たちが調書のデータにアクセス出来るようになっている。内容や範囲は所属や職位によるが、班長や課長クラスだと詳細も閲覧可能だろう。もちろん、少年犯罪なんかはごく一部に限られる。
その調書に俺の名前が出ているなんて初めて知った。だとすると、やっぱりあの事件を担当していた高見刑事のお陰で、俺はあの地下から抜け出ることが出来たんだな。異動の内々示があった時、そうかと思いお礼を言ったのだけど、本人は否定していた。
「ああ、またな」
いい気分になった俺は、そう応じた。
「三条君、午後から、このあたりの場所に連れて行ってくれないか。管区を回るついででいいから。実際に見たら、また何か違うかもしれない」
「喜んでっ。てか、君とかやめてください。前任者からだってそんなふうに呼ばれてませんよ。三条か翔太って呼んでくださいよ」
「そうか……? なんて呼ばれてたんだ」
「翔太です」
前任者は随分年上だったからそれでいいだろうけど。
「三条にするよ」
「はい。どっちでも大丈夫っす」