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第10話(3)


「待て、たかが喧嘩で捕まったぐらいでそんな物騒なもの振り回すな」


 路地裏に入り込み、どうやら追い詰めた。安堵も束の間、三条の背中越しに見たチンピラ? は、手に光るものを持っていた。サバイバルナイフか。


「三条、もしかしたらこいつ、面倒かもな。豊島さんのとこじゃないのか」


 俺は腰を低くして構える三条に囁く。豊島班。つまり麻薬関連を担当しているチームだ。

 この男は喧嘩していた連中のなかで少し異質だった。歳も年長で多分二十歳前後だろう。衣服も高級そうだし、金回りが良さそうだ。あいつらは客候補か売人候補だったのか。それとももう、関わってる?


「うおおっ!」


 俺たちがなだめるのも聞かず、ナイフを振り回して迫ってきた。二人掛かりと言え、こっちは丸腰だ(重要な捕物でもない限り、刑事は拳銃を帯同しない。制服組は持ってるんだけどね)。さっきのバット持ってくればよかった。


「気を付けろ、三条!」


 余裕かましてる場合じゃない。三条は相手の足元を狙いタックルに入った。上手い! バランスを崩したチンピラ。俺はすかさず足で手首を蹴り飛ばす。ナイフが飛んだ。


「ちくしょうっ!」


 チンピラが叫ぶと同時に三条が手錠をかけた。やれやれだぜ。頭上でまた花火が上がる。轟音が耳をつんざくその時、俺は一瞬固まった。スローモーションのように三条の背中に忍び寄る影。


「三条! 後ろ!」


 言うよりも速く、俺は前に出た。チンピラに手錠をかけた三条はようやく立ち上がったところだ。俺の叫び声と動きに驚いて後ろを振り向いた。


「先輩っ!」


 黒い影に向かっていた俺。三条を突き飛ばしたまでは記憶にある。だがその後、体が燃え上がるような感覚に襲われた。一体何が起こったのかわからなかった。


「先輩!! おまえ何しやがる!」


 地面が見えた。花火に照らされて明るくなったそこに俺はうつ伏した。


 ――――いってえ……くそ……


 どうやら俺は刺されたらしい。腹に手をやったらぬるりとした感覚。必死で起き上がるが難しい。三条が逃げる犯人を追いかけようとしてやめた。


「なにやってる……追え」

「でも、先輩が……」

「追え、おまえそれでも刑事かっ。こいつは俺が見てるから、早くっ!」

「は、はい!」


 手錠をはめられたチンピラは三条の咄嗟の判断で標識に繋がれていた。逃げようと必死に手錠をガチャガチャ言わせているが外れるはずもない。


 走り去る三条の背中を見ながら、俺は通信機を出し応援を呼んだ。出血をジャケットで抑え、塀にもたれてうずくまる。全くなんて日だ。


「おい、今のおまえの仲間か?」


 未だに金属音を鳴らしている野郎を見上げて声をかける。


「さあね。け、ざまあみろだよ」

「うるせえな。俺に何かあったら、おまえもただですまねえぞ」

「知るかよ……」


 仲間にしては、助けることもなく逃げてったな。ナイフも多分、俺が蹴とばしたやつだ。すぐ拾わなかった俺の失策か……。

 俺が覚えていたのはここまでだ。遠く花火の音が聞こえてくる。地面がやけに冷たかった。




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