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第10話(2)


「きゃあー!」「やめんか!」


 雑踏のなかであっても人の悲鳴というのは耳をつんざくものだ。


「あーあ」

「ほら、ため息ついてないで行くぞ」


 脱力してる三条を放って俺は叫び声のほうに走った。大通りを一本入ったところで、人だかりができている。激しく怒鳴り合う声とアスファルトを擦る音がする。どうやら喧嘩のようだ。


「おい、ちょっとそこどけ」


 遠巻きに見ている野次馬どもを掻きわけると、五、六人の若い兄ちゃんたちが睨み合ってる。殴られたのか道路に尻もちついてる奴もいた。


「おい、そこまでにしとけ」

「なんだよ。てめえ、関係ない奴が出てくんじゃねえ」

「邪魔すんな。おまえも怪我したいのかよっ」


 睨み合ってた奴らが一斉に顔を向け、威勢のいい言葉を浴びせてきた。よく見ると手にはバットみたいなものを持ってる。でもまあカッコつけてはいるが、まだガキだ。高校生かそんくらいだろ。ガキ相手に本気を出すまでもない。余裕だ。


「ガキが吠えてんじゃねえ。俺たちは警察だ」

「すぐお巡りさんも来るから、大人しくしてろ。折角の祭りが台無しじゃないか」


 すぐ後ろから三条が追い付いてきた。既に無線で要領よく連絡したようだ。警察というワードには全員が敏感に反応した。一度や二度はウチの少年課にお世話になったことがあるのだろう。俺は警察手帳を広げて見せる。


「ということだから、大人しくしろ」

「冗談じゃねえ!」

「逃げろっ」


 さっきまで喧嘩してたくせに、俺たちが着た途端仲良くなるんだな。いや、感心している場合じゃない。一応取り押さえなければ。

俺と三条は連中の行く手を阻み、大将っぽいのを見定めると各々で捕まえる。ドラマのように殴ったりできたらいいんだけど、向こうから攻撃してこないとそれも出来ないのが現実だ。暴れるのを抑えるのも骨が折れるよ。そうこうするうちに付近にいた制服組がやって来て、逃げ出そうとしたのも捕まったようだ。ようやく始まった花火のお陰で野次馬もいなくなり、派出所に連れていけばいいだけになった。


「派出所からも花火見えるからよかったな」

「うるせえよ。んなところから見たって楽しかねえっ」


 三条の悪乗りに悪態をつく連中。俺達もこいつらを送り届けたら花火くらい拝みたいものだ。


「あ、ぐぎゃっ」

「どうした!? 大丈夫か!」


 花火に見惚れてわけじゃないだろうが、一人の警察官が膝を折った。俺の目の前を黒い影が走り抜ける。


「おい、なんだよおまえ、待てよっ」


 隙をついた一人が逃げ出したようだ。なんつー面倒な。膝を折った警察官が顔を歪めてふらふらと立ち上がった。無事のようだ。気付いた三条が慌てて追っていく。仕方ないな。放っておくわけにもいかない。


「連中、お願いします」


 残りのアホどもを制服組に任せ、俺は三条を追った。人込みはみな花火を見るために上を向いている。俺たちが走っているのなんかお構いなしだ。大きな音と火薬の匂い。孤立無援のなか、俺は三条の背中を追いながら人の波をかき分けた。



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