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第9話(1)


 事件が起こってから既に4ヶ月が経とうとしていた。警察は被害者の数学教師、森崎の職場や学生時代の知人、友人、それに親戚といったありとあらゆる人間関係を捜査した。もちろん日ごろ接している中学生にもだ。だが、およそ殺すほどの動機を持つものはなく、実は自殺だったんじゃないか説まで出ていたのだ。


「君はいつも一人でいるんだね」


 そんな時だ。俺は年齢が近いからというアンニュイな理由で中学校の捜査を任命された。藤井班長にどんな意図があったか知らないが、正直、役立たずの厄介払いに思えた。ここまで捜査してきて、中学生が犯人とは誰も思っていなかったからだ。


 俺は帰路を一人急ぐ美月に話しかけた。今まで調べた中学生のリストには載っていなかった。少年課が上げてきた要注意人物でもない。もしいたら、写真を見ただけでも覚えてしまっただろう。それほどに中学生として異質だった。もし、セーラー服を着てなければ、誰も中学生と思わないんじゃないのか。


「いつも? なぜ? 私はあなたに初めて会ったと思うけど」

「いや、何度か見かけてたんで。帰宅時はなるべく複数で帰ることになってるだろ? 妙だなと思って。あ、申し遅れたけど、俺は県警の刑事だ。森崎先生の事件を調べてる」


 この中学校に来るようになったのはここ一週間ほど。リストにある生徒の調書と今の様子を調べる。そこに変わった様子があれば、さりげなく声をかける。と言ったものだ。

 仮にも殺人犯ならば、何らかの変化はあってしかるべきだ。より凶暴な性格になったり、逆に大人しくなったり。だがそんな生徒はいなかった。


「ああ……そう。なるべく、だもの。近いから平気。誰も何も言わないわ」

「君は髪も伸ばしたままだね。確か校則では肩より長い髪は縛ることになってると思うけど」

「近頃の刑事さんは生活指導もするの? 少年課でもそんな細かいこと言いそうにない」


 怒るでも責めるでもなく、歌うように美月は言った。少し高めの大人っぽい声質。しっかりとした発音は聞き取りやすかった。


「いや、そういうわけではないけど」

「私のすることに、誰も文句なんて言わない。もういいかな。家に帰るわ」


 長く艶のある髪をふわりとなびかせ、彼女は踵を返す。暮れなずむ校庭に差し込むオレンジ色の夕日が彼女の背に覆いかぶさる。どこか別次元に入り込んでしまうような感覚が沸き起こった。


「待って、君、名前は?」


 慌てて追いかけ、俺は彼女の隣を歩く。美月は真っすぐ前を向いたまま応えた。


「橘美月」


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