表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/44

第8話(4)


 三条の祈りが通じたのかどうかはわからないが、翌日、俺は通常勤務後居酒屋へと向かった。三条は当直明けで午前中で引けていたので現地集合だ。俺の赴任初日に二人でパトロールした繁華街にある小綺麗な店の前に三条が立っていた。


「おまえの行きつけか?」

「まさか。班長のおススメですよ。僕も初めてです」


 都並さんも隅に置けないな。どこかの刑事ドラマで出て来そうな店構えだ。そこまで高級じゃないにしても、カウンター席と椅子席が四つの小料理屋の雰囲気。まさかここの女将は別れた奥さんじゃないだろうな。


「いらっしゃい。都並さんのご紹介の方ですね」


 カウンターの向こうにいたのは中年の男性だった。なんだかホッとしてしまった。


「奥のお席にどうぞ」


 店主の奥様かバイトかわからないが、モノトーンのパンツスタイルの女性が俺らを一番奥の特等席に連れて行ってくれた。


「都並さんは高校時代の同級生なんですよ」


 自ら水とメニューを持って来た店主はそう言った。まさかと思うが、ここで俺が三条に話したことが、そのまま都並班長に行くってことはないよな? 三条ももちろん信用ならんが、テーブルに盗聴器とかあるんじゃないかと疑ってしまった。


「都並さんが、ここの料理はなんでも美味しいって言ってましたよっ」


 だが、当の三条は、メニューにある料理を見て興奮している。確かに写真に写る料理はどれも美味そうだ。


「ホントだ……。よし、お勧めコース頼もうぜ」


 酒もビールでは勿体ない。俺もただ酒が飲めるとあってテンションが上がった。

 滅多に飲まない清酒とともに、彩りも鮮やかなうえに美味の料理を食べる。1時間もしないうちに、俺も三条も随分イイ感じに酔っ払った。


「言っとくがな。俺だって殺人犯とわかって好きになったわけじゃないんだ」

「はあ、そうなんですねえ。じゃあ、たまたま好きになった子が犯人だったってわけですか? 先輩引きがいいですね」

「何が引きがいいだ。精一杯引いたわ」

「あははっ。上手いなあ。でも、先輩ってロリコンだったんですね。そこにこそ引きますよ」

「何言ってる。美月はそんなお子様っぽくないよ。てか、ロリコンじゃねえよ。アホ」


 俺はテーブルの下であいつの足を蹴る。


「いてっ。ふううん、そうなんだ。写真とか見たいです」

「それはいくら飲ませても駄目だ」

「ですよねー!」


 何がおかしいのか、そこで二人して笑う。どんなに酔っ払ってもそこは譲れない。俺の箍が外れまくらなくて良かったよ。三条を信じないわけじゃないが、これは絶対に流出してはならないものだ。それでなくても、あの頃、週刊誌記者のみならず、ネットにあげる馬鹿どもが湧いて、それを抑えるのに苦労したんだから。


「あいつはなあ、初めて会った時から他を寄せ付けない美しさっていうのか、特別なオーラがあったんだよ」


 あれはもう、クリスマス商戦が始まる11月の末だった。俺が初めて美月の存在を認識したのは。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ