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第8話(3)


 少し髪が伸びただろうか。後ろ髪が肩の線にかかっている。また伸ばし始めたのかな。風呂も毎日入れないようだから、ここにいる少女たちの髪はほとんどが短いのだけれど。


 美月がここを出るのはまだ先の話だ。告げられた刑期の半分も経っていない。美月は裁判でも動機をはっきりと言わなかった。いや、本人は説明したつもりだったかもしれないが、到底理解できるものではなかった。

 俺もそうだけれど、裁判官たちはもっとわかりやすい動機を期待してたんだ。教師の森崎が美月に関係を迫ったとか、逆に冷たくあしらったとか、そういう……。だけど美月はそれを毅然と否定した。


『森崎先生に落ち度はありません』


 結局愛憎の縺れみたいな下衆な動機に仕立て上げられ、美月は刑に服した。彼女はその誤解だろう判決にも、何も意義を唱えなかった。


『理解できなくてもいいから。先生が悪者にならなければそれで』


 美月は俺にそう言った。満足そうな笑みを湛えて。俺はたまらなかった。たとえ彼女が罪を償うのが当然のことだとしても、我慢ならなかった。


『俺、毎月君に会いに行くから。絶対、会いに行くから』


 判決が下りて美月が施設に送られる時、俺は駐車場で待ち伏せしてそう声をかけた。渋い顔をした婦人警官に囲まれた君は、俺を見て頷いてくれたんだ。桃色の唇は『待ってる』と動いた。俺は今でもそう信じている。



「先輩、ラーメン来ましたよ」

「お、サンキュ」


 入力が終わり、送信。これで今回の事件で俺がやるべきことの全ては終わった。どんぶりを受け取り麺をすする。美味い。


「あ、セットしてくれたんだな」


 最近、出前の麺類は伸びるのを防ぐため、スープと麺が別になっている。三条は俺に渡す前に食べるだけにしてくれたのだ。やはり気が利く。


「いえ。でも言われてみれば、先輩だけ打ち上げしてないことになりますね」


 まあ、そういうことだ。でも刑事って職業柄、有って然るべきことだろう。


「仕方ないさ」

「一番の立役者なのに……そうだ、明日、僕で良ければ飲みに行きませんか? 今度こそマジで」

「ああ? おまえの下心が透けすぎて丸見えなんだけど」


 俺の『シラフで言えるか』、の切り返しなのは明らかだ。


「まあまあ、先輩も話したいでしょ? 奢りと言いたいところですが、班長に話して功労者を労うための軍資金もらいますから」

「なんだそれは……俺は話すつもりはないからな。それでいいなら、ただ酒は遠慮なく飲ませてもらうよ」

「じゃ、そういうことで。明日、事件起こらないよう祈っててくださいよ」


 ラーメンを啜りながら俺は頷いた。悪い連中が三条の知りたい欲求を満たしてくれるかは知らんが、俺も当分事件はいいや。美月に会う口実とは言え、考えてみればこのところ彼女と事件の話ばかりしている。もっと、違うことを話したい……。



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