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第8話(1)


 勇樹がようやく全てを自白してから数日後、俺はまた美月との面談へと向かった。既に季節は夏。駐車場から歩くだけで、汗が滴り落ちた。


「美月のお陰でまた事件が解決したよ。いつもありがとうな」

「私は思い付いたことを言ったまでだよ。風間さんたちが根気よく調べたから解決したんだよ」


 そう言ってくれるのは有難いけど、美月の助言がなければもっと時間がかかっただろう。そのうちに逃げられでもしたら終わりだ。


「でも、5年前の事件も解決できてラッキーだったね」


 いつになく、今日の美月は機嫌がいい。と言うか、来るごとに表情が明るくなっているのような気がする。気のせいだろうか。


「そうなんだよ。まさか勇樹が犯人だなんてね。捜査線上に全く浮かんでなかったそうだよ」


 深浦勇樹は、5年前に管区で起こった強殺事件の一味だった。殺しの実行犯ではなかったが、この時も標的にする家屋の選別をしていた。5年前、勇樹は兄から譲られた財産分与の資金で会社を興したが、それはわずか半年で赤字に陥ってしまう。そこでこの仕事に手を染めたのだ。

 さすがに殺しは予想外だったろうが、その時奪った金と情報を売る稼業を始めたお陰で会社を立て直すことができた。仲間とは既に切れていると言うが、今回の事件を足掛かりに逮捕が進むはずだ。


「兄の義春は、勇樹があの事件に関わっていることに気付いたんだな。あいつが言うにはそれをネタに脅されたって言ってるけど、それは違うだろうと俺たちは見ている」


 義春は深浦一族からも氏子繋がりの者からも、実直そのもの人物だと聞いている。長身で派手好きな次男、勇樹とは全く性格が違うとのことだ。恐らくだが、義春は勇樹に自首するよう命令したのだろう。今の裏稼業に気が付いていたのなら、それも止めるよう言ったはずだ。


「元々、長男と次男の地位の差が面白くなかったんだ。手っ取り早く殺してしまおうと思ったんだろうな」


 乱暴な推理だが、要約すればそういうことだ。勇樹は義春の息子、大智とウマがあったようなので、いずれ深浦家の財産を思い通りにする算段もあったのだろう。


「あの間抜けな三人組は、勇樹が情報を売ってた相手なんだ。ネットの掲示板でさ。彼らは盗みの腕はあったがネットなんかには弱かった。うまい具合に釣られたってわけさ」


 連中は脅迫してきた相手を特定することが出来なかった。それを見越して殺人の片棒を担がされたわけだ。


「風間さん、これで居場所できたね」

「え……あ、ああ。うん。本当に」


 三条が『見返す』なんて言ってたが、確かに俺がいくら頑張っても、『不祥事刑事』という汚名はいつまでもついて回ってた。結果が出なければ努力なんて意味がないんだ。

 それが今回の事件を解決し、おまけの5年前のまで完結させた。もう色物扱いはされずに済むだろう。あ、でも……まさか。


「ねえ、君。もしかして気付いていた? 今回の犯人が5年前の事件に関わってるって……」


 俺は目の前にいる美少女に問うてみた。本当の答えが聞けるとも思えなかったけれど。


「まさか。私、5年前の事件なんて聞いてないよ」

「あ、そうか」


 それはいくらなんでも無理だ。


「でも……動機なんて、当人しか理解できないものだから。どこかで利害が一致しないことなんてあると思ってた」


 美月は俺を見据えて言った。今してるのは、解決したばかりの殺人事件の話だろうか。彼女の黒曜石のように潤む瞳からは、それを読み取るのが難しい。


「そうだね……人の心は言葉ですら伝わらないって思うよ」


 けれど、時に人の心は行動に現れる。言葉は後からいくらでも誤魔化せるけど、やってしまったことは覆らない。



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