第7話(5)
それからあまり時間は掛からなかった。被害者深浦義春の実弟、勇樹を殺人の容疑で逮捕するまでは。勇樹はあくまで白を切るつもりだったようだが、証拠は揃っていた。
実は長瀬が出頭するより以前から、俺たちは空き巣と殺人は別の人間の手によるものだと考え始めていた。もちろん美月の一言に俺が引っ掛かったのもあるが、都並さんはずっと、その可能性に気付いていたのだ。
『さすがだな、風間。高見さんが褒めるわけだ』
俺が美月の受け売り通り、空き巣犯が殺しまでしたのは出来過ぎだと言った時だ。都並さんは満足そうに眼を細めた。
『弟の勇樹を探れ。居空きの犯人は、金がその日しかないことを知っていた。に、してもだ。兄貴よりガタイのいい弟が泊まっている日を狙うのは解せん。そのことだって情報は入っているだろうからな』
金と安全を天秤にかけたら、こいつらは危険を冒すとも思えない。それに勇樹はIT関係の会社を興している。必然的にPCやネットに詳しいはずだ。彼らに罠をかけることもできたんじゃないか。
都並さんの思惑通り、勇樹の状況は相当怪しかった。彼の会社は個人宅にワイファイ等ネット設備の設置を請け負っていた。社長自ら出向くことはなくても、報告書などを見れば家の状態が把握できる。家人の不在時間も入手できるのだ。裏掲示板に情報を売っていた可能性は高い。
けれど、動機がわからなかった。勇樹の会社はその裏稼業のお陰もあってか、順調に成長していた。お金には困っていなかったのだ。
『なにかあるはずだ。弱みを握られていたのかもしれん』
長瀬が吐いたことで、前科のあった残る二人はほどなく逮捕された。彼らのスマホを徹底的に調べてフォックスの足跡を探し、確かにこの獣が存在していたことを確信する。姿なき狐を炙り出すのは簡単ではないが、狙いを定めれば突き止めることは可能だ。俺たちに姿を見せたのは、やはり深浦勇樹だった。
そしてずっとわからなかった動機こそ、俺たち捜査一課が予想にもしなかった金星に繋がった。




