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第7話(4)


 屋敷の中に、百万を超える現金があることはわかっていた。これも既に裏を取っている。どこにあるかまでは勿論指示はなかったが、これに関してはどこの家も同じだ。長瀬も最初は驚いていたが、ボスたちは隠し場所を探り当てるのに、いつも苦労しなかった。


「俺らはその日も全く問題なく盗みを終えたんだ。誰にも気付かれなかったはずだし、誰も起きてこなかった」

「本当か? 家主が起きてきたんじゃないのか。それで見つかったことに驚いたおまえが……」

「違うっ! 違うよ! マジでやってねえよ。てか、その、主人とかいうのにも会ってねえし!」


 長瀬は興奮して立ち上がると机をバンバンと叩きながら叫ぶ。こめかみに青筋が立っている。ベテラン刑事は再び顔を見合わせる。そして徐に俺の方を見た。


「風間、この若いのに何か聞きたいことあるか?」


 卒倒しそうな勢いで否定しても、前のおっさんたちは口をへの字に曲げるくらいで反応が薄い。はあはあと息を整えていた長瀬は、ふいに振られた刑事の方を振り向いた。


「はあ?」


 壁にもたれる俺と三条を見て、長瀬は明らかに態度がでかくなった。さしずめ、さっき缶コーヒーを持ってきたついでに入ってきた二人はどう考えても下っ端だ。つまり、立ち位置は空き巣一味の自分と同じってわけだ。とかなんとか思ったんだろうな。


「そうですね……。殺人事件の後、フォックスから新しい指令は来たのかい?」


 それならそれでもいい。油断してもらった方がいい時もある。俺はわざと下出に出た。


「ないよ。それどころか、アカウントまで消えちまった。ボスたちが言うまでもなく、俺らは嵌められたんだよ」


 仲間に愚痴る感じで応じてきた。言っとくが仲間じゃねえからな。三条が隣で鼻を鳴らした。


「なるほどね。ま、何とでも言えるよね」

「なんだとっ!」


 背もたれを握って、今にも立ち上がりそうな長瀬。全く人が変わるとこうも態度が変わるかね。


「そもそもなんで君だけ出頭してきたんだよ。ボスたちには断ってきたのか?」

「は、まさかっ。ボスたちはフォックスの罠だと気づいた途端、雲隠れしたんだよ」

 

 要するに、これまたスケープゴートにされたわけだ。


「ふうん。見捨てられたんだ。それは気の毒に」


 と、三条。


「違うっ! なんにも知らないくせに言ってんじゃねえよ。前科があるボスたちは、俺と一緒にいない方がいいって思ったんだよ。ちゃんと金も置いてってくれたし……」

「お目出たい奴だな。おまえに全部罪をかぶせるつもりだったんじゃないのか? 足手まといだしな」


 都並班長が長瀬の背中に投げ捨てる。痩せた背中がぴくりと反応した。その可能性にこの男も気付かなかったわけじゃないらしい。


「それで? さっきの質問に答えてくれないかな。なんで君だけ出頭してきた?」


 班長達と俺たちの間に視線を移動させながら、長瀬は今までで一番小さな声で答えた。


「それは……殺したのは見張り役の男だって、そんな噂が出回ってたから……そんなはずはないのに、見てきたことのように書いてあって。おまけに俺が知りもしない5年前の事件まで俺らのせいにされて」


 5年前の強殺事件だ。これは俺たちが意図してない事態だった。SNSで撒いた偽情報は、その後尾ひれはひれが付き、今回の殺人事件は5年前の強殺事件と同一犯かもという噂まで流れたのだ。これは俺達にとって予想外の収穫だった。


「俺、このままでは犯人にされるかもと……それに……」

「それに?」

「もしかしたら、ボスたちが俺を嵌めたんじゃないかって。ずっと怖くて逃げてたけど、こんなことがいつまで続くのか。俺は、隠れ場所みたいなの、ないし……」


 益々声が小さくなる。揺らいだ信頼関係を完全にぶち壊すタイミングがやってきたようだ。こうなったらベテラン陣に落ち度はない。長瀬は二人の先輩泥をあっさりと吐いた。


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