第7話(3)
オレオレ詐欺やネット詐欺を担当しているのは捜査二課の斎藤班だ。ネット関係の詐欺を追っているので必然的に詳しい人間が集められている。で、他の課の依頼も請け負わされているのだ。
S市は重大犯罪の件数こそ少ないが、こういった特殊詐欺は珍しくもなく起こっている。もしかしたら、この班が最も忙しい場所かもしれない。
そういう連中に仕事を頼むわけだから、ここは都並班長の出番だ。中年クライシスを地で行くような自信満々な班長を前に、不服そうな表情ではあったが、呑んでくれた。
そして、そこからあれよあれよと言う間に、見えていなかった事実が明らかになっていった。
「N市でやってた頃は、裏掲示板を使ってたんだよ」
出頭した長瀬は話を聞いてもらっているのに満足したのか、自分のことについては洗いざらいを語った。仲間の名前や居場所はなかなか吐かなかったが、それも時間の問題だろう。
「裏掲示板?」
そんなことはこちらでもう調べは付いていた。だが、話の腰を折ってはならない。ベテランのアブナイ刑事たちは、興味津々の体で聞き役に徹した。
空き巣ネットワークとでもいうのだろうか、誰が何のためにそんな掲示板を運営しているのか知らんが、狙い易い場所や家屋、持ち金を貯めていそうな家主の情報がそこには並んでいる。
こういった類の掲示板は所謂闇バイト系のものも当然ある。こちらとしても全国レベルで取り締まっているのだが、うまく潜られて難しく、サイトを閉鎖させても雨後の筍のように再生するので追いつけない。
だからこそ、この近辺で出回っている情報を二課が見つけてくれたのは大手柄だった。そこには主にN市で使われたであろう狙いやすい家情報があったのだ。
「で、最近のはどうなんだ。そこの掲示板を使ったのか?」
「いや、それがさ。ボスのSNSに直接メールが来たんだよ。S市の情報を教えてやるって」
「なんだとっ! おい、詳しく教えろっ」
それこそ俺たちが待っていたものだ。俺と三条は隣の部屋で思わず身を乗り出し、三条は過ぎて、ほとんど窓に頭をぶつけそうになった。それに気付いたのかどうかはわからないが、郷田さんがこちらの方を見て、何か合図をした。多分、長瀬に餌を与えようというのだろう。
「おまえら行ってこい。私らは長瀬が潜伏してたネカフェに行ってくる」
中堅コンビの杉本さんと佐々木さんが譲ってくれた。俺と三条は署内にある自販機に走り、缶コーヒーを3本買う。うまく行けば、そのまま取調室にいることが出来る。俺たちは、のどを潤し益々絶好調になった長瀬の独壇場に立ち会えることとなった。
3人組(長瀬によると、2人は10数年来の常習犯)は、情報を教えてもらうというより、脅迫されていた。言う通りに空き巣に入らないと警察にタレこむと言うのだ。連中の素性も居場所もヤツは知っていた。
「アカウント名は『フォックス』だった。ベタだよな」
長瀬は面白そうに笑う。笑うとこじゃない気もするが。
2人の年長者は怯えて迷うが、とりあえず言われた通りにことを運ぶ。そうしながら、フォックスが誰なのか、狙いは何なのかを暴こうとしたのだ。だが、向こうの方が一枚も二枚も上手だった。フォックスは防犯カメラの位置まで正確に知らせてきていた。
「警察の罠かとも思ったんだけど……ボスたちもプロだし、フォックスの情報の裏は取ってたんだ。それで、用心しながらも仕事を続行した」
裏を取るのに、彼らは出前宅配の変装をして街を走っていたらしい。見回りでよく見かけた出前バイトの中に、長瀬がいたのかもしれない。
結局フォックスの尻尾を掴むことは容易ではなかった。3人ともネットやPCに強くはない。言われるまま、4件目の現場へと向かうことになる。それというのも全ての案件が彼らにとっても美味しかったからだ。居空きという点でも、不都合はなかった。逆に昼間の空き巣の方がボスたちは嫌っていたのだ。それが何故かは長瀬にはわからなかったが、自分にとっても昼間の見張りの方が気を使った。
「あの日、俺たちはフォックスの指示通り、防犯カメラに工作をしたんだ。それは俺にも出来ることだったから、俺がやった。別段困ることはなかったよ」




