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第7話(1)


 S市警察署に一人の男が出頭してきたのは、美月と会った日から数えて三日後だった。


「先輩、やりましたね。よし、これで見返せる」

「え? なにを見返すんだ?」

「あ、いえ、すみません。他の課の連中が先輩の事……」


 言いにくそうに三条が口ごもる。大方、俺の二つ名、不祥事刑事を揶揄する奴がいるんだろう。目立ったことをすると、何か言いたくなるのが人間ってもんだ。


「見返すつもりはないよ。事件が解決すればそれでいい。でも、気にしてくれてありがとうな」


 三条は照れくさそうに、けど何も言わずに頷いた。

 出頭してきた男は、空き巣事件の犯人の一人だと言った。歳はまだ若く、落ち着きのない様子で目をきょろきょろとさせ取調室の固い椅子に座った。


「長瀬猛、23歳。無職、住所不定。ありきたり過ぎるな」

「そんなこと言われても。事実なんで……」


 正面には都並班長が、その隣には郷田さんが座った。両方とも迫力あり過ぎる面子なので、まだ初犯だと言うこの男には圧が半端ないだろう。

 残りの4名は部屋に入れてもらえず、隣の面通し用の部屋で様子を覗き見ている。何か合図があれば入室できるのだが。


「犯人の一人だってことは、仲間がいるんだろ? なんで裏切った」


 班長から容赦ない言葉が投げられる。隣では郷田さんが腕を組んでニヤニヤしている。こういう場合、役割分担があるのだが、今回はどういうのだろうか。


「俺……怖くなって。このままじゃ、俺が殺人犯にされるんじゃないかって」

「へえ。じゃあ、おまえじゃないんだ。やったのは誰だ? ここまで来て、庇うこともないだろう」


 手もみをするような恰好で、都並さんが体を前に乗り出す。郷田さんは相変わらずニヤニヤしていた。


「違う! 俺らじゃないんだ! 俺らが盗みに入った時には、誰も殺されてなかった!」

「そりゃそうだろ。盗んでるところを見られて殺したんだろうが」

「いや、そうじゃなくて……もう、その、えっと」

「なんだ、早く言え!」

「まあ、落ち着け。ほら、水でも飲んでゆっくり話せ」


 班長に詰め寄られてオタオタする長瀬に、郷田さんがコップに注いだ水を差しだした。なるほど、そういう芝居をしてんだな。と俺と三条は顔を見合わせた。


「誰にも見つかってないよ。俺、てか、彼らはプロなんだ。家主に見つかるようなへまはしないし、もし見つかっても殺すなんてこと絶対しない……。だから、翌朝のニュースで人が殺されてたってやってたんで、俺たちは驚いて……」


 ガラス窓(取調室から見れば鏡)の向こうで、アブナイ刑事二人は顔を見合わせて頷いた。


「先輩、やっぱり僕たちが睨んだ通りでしたね」

「ああ。間違いなかったな」


 こちらでも同様の仕草をする。睨んだ通り。正確には、美月が睨んだ通りなのだけれど。





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