第6話(3)
時間は延長されていても30分しかない。俺は用意していた屋敷の見取り図などを見せながら早口でまくし立てた。俺の拙い説明で美月は理解できただろうか。一通り話し終わった俺は、彼女の表情を読み取ろうと覗き見る。
――――相変わらず綺麗だ。
なのにそんな感想しか湧いてこない。しっかりとした眉毛の下に長い睫毛が伏し目がちな美月の双眸を覆っている。シュッとした鼻に薄い桃色の形の良い唇。白い肌に頬紅を付けたわけでもないのに赤みのさす頬が艶々としている。
――――もう、事件なんか、どうでもいいのに……。
わからないようにため息をつく俺。ちらりと彼女が見上げる。慌てて背筋を伸ばした。
「どうかな。何か引っかかることあったかな」
「防犯カメラはどうだったの? 今回も収穫無しなの?」
今までもずっと防犯カメラには裏切られてきた。今回の場合、現場が街はずれにある集落のため、近くに駅もコンビニもなくそこからの情報取得は難しい。だが、こういう場所だからこそ、何軒かの民家には防犯カメラが設置されていた。そしてもちろん、深浦家にも。玄関門に二台、駐車場に一台、それぞれ行きかう人を捉えていた……はずだった。
「いや……駄目だった。奴らは死角を選んでいたのか周りの民家には映っていなかったし、当の深浦家の防犯カメラは壊されていたんだ」
鑑識が深浦家の防犯カメラの記憶媒体をチェックすると、その日の深夜0時過ぎで映像が終わっていた。カメラは稼働してたにも関わらず、レコード機能が壊されていた。
「多少の専門知識があれば可能らしい。今まで、こんな手の込んだことはしてなかったんだがな」
「ふううん……」
可愛らしい唇を少し歪めて美月はそう応じた。何か不服なんだろうか。俺達も、どうして今回は防犯カメラがしっかり設置している家屋に忍び込んだのか。しかも細工までして、という疑問は当然のことながら議論になった。
だが、深浦家には十分な金品があったこと。カメラさえ黙らせれば、生垣が高く隣家との距離があるこの屋敷は、空き巣や居空きにうってつけの場所であること。この2つから危険を冒したのだろうと結論付けた。
何よりも、侵入の仕方や抜け目なく金品を探しだす手口は今まで通りだ。被害額は最高だが、嵩張るものや家電には目も暮れず、現金やアクセサリーなどを盗んでいくことも同一犯と思って差支えがない。
「彼らは何人と考えてるのかな」
「3人かな。多くても4人。2人で物色して、1人は見張りだろう。今回主人に花瓶を殴りつけたのも見張りだと思う」
深浦義春は60代。身長もそれほど高くない。後頭部に喰らった一撃から見て、犯人は少なくとも10センチは高かったろうが、珍しくもない高さだ。
「ねえ、いいアイディアがあるんだけど……」
腕を組み、眉間に皺を寄せる俺に、彼女は悪戯っぽい笑みを投げかけた。まるで、何かドッキリでも仕掛けるかのように。




