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第6話(2)


 夜中に怒鳴り声と大きな音がした。屋敷にいた奥さん、かえでと主人の弟、勇樹ゆうき、それに20歳を過ぎた息子、大智だいちが二階から降りてきたら、既に絶命した被害者、深浦義春が倒れていた。残念ながらいち早く逃げてしまった連中の姿を見ることは誰も出来なかった。


「寝ぼけてたし、降りていくまで一、二分はかかったと思います。主人のベッドは空になっていたので、何か恐ろしいことが起こったのかと、ビクビクしながら降りたもので……」


 これは遺族である奥様、楓の話。息子や義弟の部屋に向かって声をかけても寝入っているのか返事がない。迷いながらも明かりの点いた一階のリビングへと降りていき壮絶な現場に遭遇した。


「僕も酔っ払ってて……」


 前の晩、たまたま遊びに来た弟、勇樹は元々の自分の部屋でぐっすり眠っていたらしい。音には気付かず、楓の叫び声でようやく目が覚めたと言う。同様に酒に付き合った大智も勇樹の後から階下に降りてきた。


「兄さんは、深酒するタイプじゃなかったので、僕らが勝手に酒盛りしていました。こんなことなら、飲まなければ良かった」


 資産家の家族は高級そうなパジャマを身に着けている。男性陣はその上にパーカーのようなものを、夫人はカーディガンを羽織っていた。みな一様に青ざめ、床を睨むように俯いている。

 テーブルの上には高価そうな朱色の湯飲みに入れられたお茶が湯気を立てている。事件の一報を聞いて駆け付けた長女、桃子が淹れたものだ。彼女は母親の隣に座り手をしっかりと握っていた。


「金庫には土地関係の書類や通帳、印鑑などが入っていて……現金はタンスに置いてあった生活費だけです」


 だんだんと声が細く小さくなっていく。その夫人に代わり、桃子が後を追った。盗まれた現金はタンス預金と勝手に思っていたが、深浦家の生活費だったらしい。


「泥棒が入って来ても、まずは金庫に向かうのではと考えて……登記書や印鑑は盗まれてもすぐ対応できますし」

「現金はどのくらいの被害があったんですか?」

「恐らく150万ほど……」

 150万が生活費? 大体そんな大金を置きっぱなしってどういうわけだ。応接室に微妙な空気が流れたのを受け、弟の勇樹が繋いだ。


「昨夜は特別です。明日、もう今日ですが、兄と一緒にお社に寄贈することになっていて。百万ですが。だからいつもより高額なんです」

「寄贈……それって日にちは決まっていたのですか?」


 俺の隣にいた佐々木さんが尋ねた。俺と同様寝起きなのか、後ろの毛が立っている。


「はい。それはもう。氏子がみな集ってやるものですから。今年は本殿建て替えのために額も大きくなりました。兄は氏子総代なので、奮発したんです」


 勇樹が続けて応える。それならば、今夜、その金がこの屋敷にあることを連中が知っていても不思議ではない。彼らがどこから情報を得ているのかは不明だが、今までの空き巣事件においても事前の下調べがしっかりとされている印象があった。

 件の150万円は、リビングボードの隠し引き出しに収まっていた。リビングにはテレビボードや食器棚、オーディオセットなどの箱ものがあり、どこの引き出しも開けられていたので、一直線に隠し引き出しに向かったわけではなさそうだ。

 隣の和室は所謂仏間で、神棚もそこに置かれてあり、隠されていた金品(現金と数珠、真珠のネックレス等)も盗まれていた。どれにも似たり寄ったりの隠し引き出しはあるが、こんなものはプロからしたら子供だましに過ぎない。


「指紋は出そうにないですね。普通に手袋嵌めてるでしょ」


 鑑識が都並さんに耳打ちするのが聞こえた。今までもそうであったように、犯人を示すものは何もなかった。凶器の花瓶についてもだ。突発的な犯行であっても、盗みに入っているのだ。髪の毛を落とすことにも注意していただろうし、ましてや指紋など残るはずもない。





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