第5話(4)
現場は住宅地から少し距離のある一軒家だった。一軒家というのは語弊があるか。数軒の昔ながらの家屋が、ソーシャルディスタンスを取るような間隔で集落を作っている。合間には畑や整備されていない宅地が点在していた。いずれここも開発されるのだろうか、今はまだ取り残された田舎のようにも見えた。
だが、安息地のような場所も今は騒然としている。数台のパトカーと救急車、ちらほら報道陣の車も見える。鑑識と警察官が縦横無尽に出入りを繰り返していた。百坪は優にある昔ながらの日本家屋が朝もやのなかにたたずんでいる。どこか昭和の推理小説の舞台を思い出させるような景色だ。
「お疲れさん」
声をかけてきたのは、本日当直だった郷田主任だ。S市警察署ではベテランの域にある刑事。今年五十歳になったばかりだと先日の歓迎会では話していた。それにしては、スーツをいつもピシッと決めてお洒落なんだよな。都並さんと並ぶと、年取ったあぶないデカみたいになる。
「どうですか。やはり、例の空き巣犯がやったんでしょうか」
「だな。侵入手口が同じだから間違いないだろう。ま、今回は居空きになったわけだけど、盗みの手口はいつも通りかな。被害者の奥さんによると置いてあった財布から現金が抜かれているし、タンス預金してたのも無くなってるようだ」
殺されたのは家主の深浦義春。この辺り一帯を所有する大地主だ。大きな金庫もあるが、タンス預金の金額も普通じゃなかった。連中は金庫など時間のかかる餌には飛びつかない。それにしても、いつもどうやってこのタンス預金の場所を引き当てるのか。まさか、今回は家主を脅したわけでもないだろう。
「もしかしたら、欲をかいて金庫に手を出したのかもしれんな。ぼさぼさしてる間に起きてきた家主に見つかった。ほら、そこにあるのが凶器だ」
白い手袋を嵌めた郷田さんが指を指す。後頭部から血を流し倒れている深浦の横に転がっているクリスタルガラスの花瓶が見えた。薄くひびが入った個所にはべっとりと赤い血液と毛髪が少しついていた。
「防犯カメラはどうなってる? 今度ばかりは情報が詰まってるだろう」
屋敷に入る前、防犯カメラの位置は把握していた。重厚な屋敷にふさわしい屋根付きの門扉が石階段を昇る先にあり、二台の防犯カメラが設置されていた。屋敷にはそこから整備された日本庭園を眺め通う。
「少し待ってください。すぐにお見せできると思います」
被害者の無残な姿を写真に収めている鑑識員が応えてくれた。
「先輩、都並さんが呼んでます。今から深浦家の人に事情聴取するからって」
姿が見えないと思っていた都並さんや他の班員は家族とともにいるらしい。つまりは遺族となるから、聴取と言っても慎重にやらなければならない。俺は小さく頷くと、郷田さんとともに被害者遺族がいる部屋へと向かった。




