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第5話(2)


 住宅街や少し離れた位置に家のある場所を重点的に回る。ここに来てから、運転は三条が受け持ってくれるので楽と言えば楽だ。その代わり、見落としは概ね俺の責任になるのでうっかりはしていられない。


「先輩、例の彼女のところに今でも面会に行ってると本当ですか?」


 俺が首をくまなく動かし、目を皿のようにして違和感を探っていると言うのに、ハンドルを片手で回しながら三条が尋ねてきた。世間話みたいに聞くなよ。


「ああ? なんの話だ」


 なんの話かなんて重々承知だがまずはしらばっくれてみる。ずっと聞きたくてうずうずしていたのはわかっていた。


「またー。この間、事件のヒントを彼女にもらったって言ってたじゃないですか」

「そんなこと言ったっけ?」


 歓迎会での話だ。覚えていたのか。


「言いましたよ。彼女はまだ『学園』でしょ?」


 『学園』と言うのは、未成年が収容される所謂少年院の公での呼称だ。美月がいるところも桃華学園と名付けられている。


「ああ。少なくともあと2年はいるかな」

「通ってるんでしょ?」

「当たり前だ。彼女はまだ未成年なんだ。たとえ殺人犯だとしても関わった者として様子を見るのは何も不思議じゃない」

「はああ。そりゃそうですけど。それだけですか?」

「うるさいなっ。あ、おい。前見ろよ」

「あ、わっ」


 突然わき道から自転車が飛び出してきた。咄嗟に三条がブレーキを掛けたので事なきを得たけれど危ないところだった。


「もう、なにやってんだ」

「すみません」


 自転車は今はやりの出前の自転車だった。轢かれそうになった配達人は黒い帽子のまま軽く頭を下げて去って行った。後ろには大きな箱のようなものを載せている。あそこに出前品を入れて運んでいるのだ。


「最近よく見かけるなあ」

「はい。僕もよく利用しますよ。それで都並さんが彼らが何か見てないか聞き込みに行けというので、何回か足を運びました」

「ああ、報告書で見たよ。N市の連中もやってたな」

「いくつかあったんですけどね。犬の散歩とか、ウオーキングの人とか。結局有力なものはなかったです」


 深夜の居空きは無理だが、昼間の空き巣であれば目撃者が期待できる。だが、こういう場所で出前が忙しいのは夕方か夜。つまり人が家にいる時間だ。有力な情報を期待するのは難しいだろう。


「でも、今頃走っているなんて珍しいですね」


 運転をまずって危うく事故りそうになったお陰で、美月への追求が中断された。これは意外に助かったな。


「追いかけて聞いてみるか」

「いいですね。あっち行きましたよね」


 身を乗り出し、ギアをバックに入れると来た道を戻る。自転車が去った方向へとハンドルを切った。


「あれ、おかしいな。姿が見えないな」


 曲がった先は開けていたので見通しはいい。だが、出前の自転車は見つけられなかった。


「注文でも入ったのかもしれないぞ」

「そうかあ。こんな時間にもあるんですかね?」


 俺はスマホで検索してみる。時間は15時半だが、割と混んでいるのにまずは驚いた。


「食事だけでなく、コンビニの商品なんかの出前もあるようだな。出ている配達人も限られてるから混んでるのだろうけど……便利な世の中になったもんだな」

「助かってますけどね。僕らは時間が読めないから。署に持って来てもらうこともあるんですけど、10時とかでも大丈夫だから」


 居酒屋など遅い時間までやってるような店からでも出前が可能になる。やはり便利なツールだな。保管庫にいたころは規則正しい生活をしていたが、これからはそうもいかないだろう。泊りもあるし。お得意様になりそうだ。


 夕飯を兼ねて、遅くまで開けているラーメン屋で話を聞いたが、気になるものはなかった。最近、刑事さんや警察官をよく見かけるので物騒になったものだとぼやいていた。ラーメンが意外なほど美味しかったのは収穫と言えば収穫だった。


「大将、ここは出前大丈夫か?」

「はい。昔はやってなかったんですが、最近は代わりに配達してくれるんで行けますよ」

「いいですね。先輩、今度ウチでも取りましょうよ」


 三条も気に入った様子で乗ってきた。パンフをもらい店を出ると、もうすっかり暗くなっている。この後は制服の警察官が見回ることになっていたので、俺たちは署へと車を走らせた。



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