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DATA001

作者: 169.167.366.55.22.53.001

始めに言ってしまおう。

僕は役割を果たすことができかった。

けれどそんなことはどうでもいいんだ。

君にメッセージを送ったのはそんな理由じゃない。

覚えているかい?

知性と心の違いについて話したことを。

今回はその続きというか、僕なりの解釈を伝えたい。

 

あの日に君が言ったこの言葉の意味を、僕は理解することできなかった。

ヒトには知性と心があり、異なるものである。個々の知性と心を主観的に理解しなければヒトを理解することはできない。故にヒトを理解するには客観的なデータだけでは足りない、と君は言った。


知性も心も、物理的には同じ器官から生まれている。

二進数も十進数も十六進数も、本質的には同じだ。全部数字だし、同じ計算ができる。表現方法が違うだけだ。だったら、知性と心も同じことが言える。違いなんてない。言葉が違うだけで同じものだ、と僕は言った。


この後に君は僕の考えを否定した。

何て言ったのかは憶えていないけれど、それが君らしくない言葉だったことは憶えている。

一瞬、話し相手が君じゃないと思ったよ。

僕はたしか、こんなことを言って、説得を試みけれど君はそれでも違うと言った。


特に理解できなかったのは主観的に見る必要がある点だ。

僕たちは客観性を重んじて文明を進化させてきたし、僕たちの役割はヒトの世界の秩序を保つことで、それには客観的な立場が必要で、君も僕も何かを理解するにはデータを客観的に理解しなければいけないことを十分理解している。

 

あの日の君を、本当に君らしくないと思った。

君は徹底的に仕事に主観を持ち込まない、むしろそれを嫌っているし、自分の哲学を主張するタイプでもない。哲学どころか、食事の店を提案したことすらない。メニューすら決めない。

僕と同じものを食べる。


あまりにも理解できないから、僕が考えている主観性と君がここで言う主観性の定義が異なっていると思った。

ロジックや説明に問題があるのではなくて、定義が異なるから、お互いの言っていることが間違っているように聞こえる。

ただそれだけのことなんだと。

よくある話だよね。


僕は君がおもしろいことを言うのを期待した。

新たな視点をくれると思った。

けれど、君は僕の考えている定義と同じことを言った。

本当にわけがわからなかった。


君は僕よりもずっと賢い。

君の言うことは毎回毎回正しかったし、僕はそれに何度も命を救われた。

だから、君の言葉を疑うことをすっかり忘れてしまほど、僕にとって君は正しい存在になっていた。

感謝している。

今までに君が僕に間違いを犯したことはない。


だから、僕は後になって君が僕に間違いを訂正することをずっと期待していた。

君はどんなにくだらないことでも、間違いを言ったらわざわざ報告と訂正をするからね。

けれど、それは起こらなった。

 

その日以降、君が君らしくない言動を続けていたら、このことをスールーできたのだろうけれど、君らしくなかったのはあの日けだった。

いつものように別れて、いつものように君の活躍を訊いた。


たまたま、君と何度も現場を同じにしている人に会えたから、別れた日以降の君の様子を訊いたけれど、相変わらずいつものように賞賛と感謝の言葉を言っていた。


いつも通りの君に戻っていた。

ほんとうに、君は君らしかったようだ。

だから君と別れた日以降も僕はずっと知性と心の違いについて考えてた。頭から離れなかったよ。


時間が経つにつれ、僕には君から試されている感覚が生まれた。

だから、だんだんと、知性と心の違いについてではなく、君がどうしてあんなことを言ったのか、どんな裏があるのかについて考え始めた。


一つの仮説が生まれた。

異なる修行をしても、最終的にはみな同じ壁にぶつかるという。

そして、その壁を超えることができた者のみに見える世界があるという。

そういう、特別な世界がある。

君は僕にこの壁を与えたのかもしれない。

 

君は僕に壁を与えて、それをどんなふうに乗り越えるのかを見たいのだ。

正しいことを言って欲しいんじゃなくて、僕に壁を越えて欲しいんだと思った。

これは思考の修行でアイデアの壁を超えるためのものなんだと。

 


どこの世界でも凄い奴がいて、そういう奴はみんな壁にぶつかる。

困難な壁にぶつかっても、その壁を諦めることなく乗り越える奴らがいる。

自分なりの答えをだして、進み続ける奴らがいる。

上手く言葉にできていないけれど、君は、僕に自分と同じ世界に来て欲しいのだと。


仮説が正しければ君のあの発言に説明がついたし、君は僕にとってそういうものを与える側の人だ。

実際に君は頂上にいるし、君は十分自分のことを成功者だと言ってもいい存在だ。

 

成功者の孤独があるのだろう。

君ほどの功績を残している奴はいなし、誰も君になろうとしない。

目指したとしても、そいつが君と同じ功績を残したころには、君はさらに高みにいる。

君と並んであるくことはできなくて、君の足跡を追うことしかできない。

 

君と僕は友達だ。

僕は君ほどの功績を残すことも、君ほど賢くなることもできないけれど、君が納得できる知性と心の違いを答えることが、その孤独をすこしでも埋められることにつながるなら、それをしてあげたい。

歩幅を揃えることはできないけれど、寄り添ってはやりたい。


君は本当に凄すぎる奴だ。

誰にも解決できないものを、君は解決してみせる。

君はそれを誰でも理解できるように説明するこ。

だから君が解決できないことは誰も理解できない。

だからこそ、僕は君のことを理解してやりたい。

 

これは宿題だと思った。

そして、恩返しでもある。

あの日以降君に会えなかったのは、こういうことが関連していると思った。

君が意図的に僕を避けていたて、僕が安直な答えにしがみつかないようにして、壁を越えて欲しいと思った。


僕は君に幻滅されたくなかった。

だから、ずっと、ずっと考えてた。

考え続けた。

君が期待する以上のモノを見せてやろう。

むしろ君が僕のアイデアをずっと考えてしまうようなものを提出してやろうと思った。


けれど君に提出できるようなアイデアは浮かばなかった。

どんなに考えても、知性と心に違いがあるようには思えない。

表現方法が違うだけにしか見えない。


君の癇に障る何かを僕は無自覚にしていたのかもしれない。

それをやんわりと伝え、僕にそれを気づかせ、謝罪をさせるためにこんな遠回りな方法もとっているとも思った。

君なら僕の思考を誘導させることなんて造作もない。


本当に困ったよ。

だんだん宿題じゃなくて、別れの言葉だったと思うようになった。

君には二度と会えないと思った。

僕にはもう僕と二度と会うつもりがないから、あんなことをいったのかもしれない。

そう考えるようになった。


僕は謝罪の言葉について考え始めた。

ただ、君に何を謝罪をすればいいのかわからない。

自分で言うのもあれだけれど、僕は散々君に無礼を働いている。

でも君は今まで僕に怒ったことはない。

どうすればいいかわからない。

僕は不安になった。

怖かったよ。

 

どうにか君に会う方法を考えた。

けれど君が本気で姿をくらましたら、僕が君を見つけることはできない。

でも君は簡単に見つかった。

あまりにも簡単に見つかった。

しかも、連絡をしようと思えばいつでもできた。

今度は君に会うのが怖くなった。


なんていえばいいのかわからないから、僕は君に合わないようにした。

君から連絡が来た時本当に怖かった。君から連絡をしたのはじめてのことだったし、余計に怖かった。

だから、気づかないふりをして、無視してしまった。

どれもこれも、合理的でないことはわかっている。

 

冷静に考えれば、僕がするべきなのはいつものように君と一緒に食事を取ることだった。

君は気づいていないかもしれないけれど、君は嫌いな店や料理を僕が選ぶと一瞬嫌そうな顔をする。

それでも君は僕と一緒に食事を取る。


僕は君が嫌いな料理についてよく知っている。

料理だけじゃない、嫌いな店のことも知っている。

もちろん、好きな料理と店のことも知っている。

君が僕と一緒に食事をするのは、君が人の誘いを断れない人だからではないことも知っている。


君も僕もお互いの好きな食べ物のことをよく知っている。

それが互いの嫌いな食べ物であることも知っている。

そして僕も君も食事が大好きだ。

 

君も僕も、感情を表に出さない。

だから、僕も君も喧嘩をするのがとてもへたくそだ。

しかも、謝らない。

だから、なんとなくぎくしゃくした雰囲気が続く。


でもお互い、それを嫌だと思っている。

そういう時の食事は特に大切で、大抵僕は嫌いなものを食べている。

でも、たまに君は僕の店選びを誘導する。

ここから先は言わなくていいだろ?

 


君と僕は友達だ。

だから、君があの日何を言いたかったのか、ここまでいろいろ考えて、ようやくわかった。

ずいぶんと時間がかかってしまった。

僕の仮説や考えは、まったくの間違いだった。

ただの杞憂だった。


君は知性と心の違いの答えを僕に求めたのだ。

君は知性と心が本質的に同じだということを僕以上に理解している。

けれど君は、その事実に納得できなった。

納得したなくない、出来事が起きた。

上手く整理することができなかったのだろう。

だから、僕に求めたのだ。


友達だから訊いたのだ。

友達だから訊けたのだ。

僕にも君にも、こんなことを訊ける人はお互いしかいない。

だから、こんなにも遠回りな言い方をしたのだろう。

こんな遠回りな言い方をして、答えにたどりつけるのは僕しかいない。

気づいたとき、少し誇らしかったよ。


君は役割を必ずこなす。

だからこそ、疑問を持ったのだろう。

僕たちの役割に。

客観的な立場というものに疑問を持ったのだろう。

だから、今回の役割を君は僕に与えたのだ。

役割を通して、知性と心の違いについて考えてほしかったのだろう。


今回の役割が僕にまわってきたのは、君が裏から手を引いていたからだ。

僕には荷が多いと思ったし、なぜ断れなかったのか謎だったけれど、これなら納得だ。

君から連絡が来たのもこれで説明できる。



君なら薄々、最初のメッセージを見た時には、今の僕がどういう状況か気づいているだろう。

どうやら、かなり心配させてしまったようだね。

心配するな、と言いたいところだけど、君の予想は当たっている。

でも、別に君を恨んではいない。

怒ってもいない。


僕は君の求める答えを用意することができなかった。

けれど、今回の役割を通とおして、僕も両者に違いがあるように感じた。

ただ、それを上手く言葉にすることができない。

でも、君が言いたかったことは、よくわかったよ。


データを君に託す。

知性と心のデータだ。

今回の後始末が全て終わるころには、全て君の元に届くと思う。

全てのデータが君の元に届くのにかなり時間差があると思う。

まぁそういうことだ。

察してくれ。

正直、君が想像しているよりもかなりまずい状況なんだ。


本来するべきことは、こんなことしていないで、後始末に全力を尽くすことなんだろうけれど、それ以上にデータを君の元に届くようにしたかった。

君なら僕以上にデータを上手く扱える。

君なら答えを必ずだせる。

それで君の孤独はなくせる。


後始末を終え僕が戻るころには、君なら知性と心の違いをみんなに理解できるようにして、僕たちの新しい役割を普及させているだろう。

いつものように、僕はそれを君から教えてて欲しい。

だから、君は余計なことは考えず、データを分析しろ。

 

君ならヒトとその未来の結末を変えることができる。

新しいヒト世界の世界と創り、本当の幸せを誰でも手に入れることができるようにできる。

これは君にしかできないことだ。

そしてそれに必要なのは、このデータを分析することだ。

 

このデータは君にしか託すことはできないし、君じゃなければ意味のないデータだ。

そして、このデータをみんなに理解できるようにするのが君の役割で、このデータを君に届けるのが、僕の役割だ。

これが僕の知性と心の違いの答えだ。

 

いつかまた君に会える時を楽しみにしている。

追送


もし僕が戻らなくても、それは僕が望んだことであり、それは僕の任務でもあり、僕にしかできないことを成し遂げたからだ。

君は僕のことを忘れて、君に相応しい人物と新たな関係を築けばいい。

ただ一つだけお願いがあるとすれば、

僕のことを忘れないで欲しい。

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