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2.出会った運命への

やけに太陽の眩しい日だった。

暮泥十愛はカタギの女と一緒に住んでいた。

あの暁月一貴を返り討ちにした女の名前は羽衣瑞稀。

はごろもみずき、あいどる?なる仕事をしているらしい。


十愛は憎むべき存在だと思っていたが何をしようかは考えていなかった。

会えば銃が教えてくれるだろう、位の事しか考えていなかった。

それが私の運命を決めてしまうとも知らずに。


あまりにも真っ白でひどく儚い、それが暮泥十愛、私の運命の終着点だった。

手元の銃は私に何も教えてくれなかった。何もしなかった。

私は何も出来なかった。話しかける事すら出来なかった。

私は私の運命を呪った。

真っ黒な椿は真っ白な十愛に触れる事すら出来なかった。

私は私の運命に初めて感謝した。

触れる事すら許されない輝きは確かに存在する、

その輝きの影に私もいるのだという事を。


十愛の為に何かをしたいと思った。何かが出来ると思った。

十愛の為に何かを成す為に私は生きているのだと、

根拠もなくそう思ったのだ。


ウジ虫の仕事を止めるつもりは無かったけれど、

一方で十愛と、ついでに羽衣瑞稀の身を守りたいと思った。

なんせヤクザの若頭を殺してしまい警察にも頼れないときている。

誰かが二人を守らなければならなかった。

そこにちょうどよく銃を持ったウジ虫がいるじゃないか。


…しかし数週間でそれも終わってしまった。

羽衣瑞稀が燃え尽きて天に帰ってしまったのだ。

はっきり言ってしまえば歌ったり踊ったりは私にはよく分からなかった。

けれども十愛には何かが伝わったらしい。

手折られるまでもなく風で折れそうだった十愛に背筋が通った、ように見えた。

なので私は羽衣瑞稀にも割と感謝している。


それから十愛は養護施設「月が島」に引き取られた。

私達とは違う、何処かにたどり着ける子供達の行き先。

これでもう大丈夫だろうと思った。思いたかった。



しかし出来損ないの運命は私達を逃してくれなかった。

生まれる前に決まっていた変えられない運命は目の前に横たわっていたのだ。

知らぬは私ばかりなり。どうして私はこんなにも非力なのだろう。

五年が経ってやっと私も気付いた。目を向けるしかなくなった。

十愛の体の成長が明らかに鈍い。短命の呪いを押し付けられた私よりも鈍い。

私を作った技術は出来損ないだった。ならば十愛を作った技術も。


考えたくもなかった最悪の運命。

カウントダウンは既に始まっている。

希望なんて無いだろうとは薄々私にも分かっていた、

けれど細い糸を手繰れば十愛の運命を変えられると思い込むしかなかった。



小笠原組にも手伝わせて私は「組織」を探り当てた。正確にはその残骸だが。

私は「組織」の施設でいくつかの人体を蹴転がしている。

護衛もいたが私にとっては無いような物だ。

人間は死体にして機械はガラクタにした。

目の前には殺戮人形が踊っていたのに、

嫌になるくらい冷静な「組織」の科学者ども。

いや、違う。あれはずっと前から何かを諦めているかのような。


「アーキタイ」

銃爪。銃声。口を開いた女の頭が弾けた。

「その名前で呼ぶな。私の名前は櫛奈田椿。いくつか聞きたい事がある」

「私達が質問に答えたとしてもどのみち皆殺しだろう?」

「答えによっては私の気が変わるかもしれないな」

「なるほど。まぁ、それはどうでもいいが」

いくつか覚えている顔もある。あの時は誰も名乗らなかったから名前は覚えていないが。

銃口を首に押し付け、拷問のように問う。どのみち他のやり方も知らないのだ。

「一つ。暮泥十愛は何年生きられる?」

「結論から言えば君より短い。長くて14年といった所か。あのアルビノを見て分からないのか? あれは単なる我々のミスだ。完成度は君より低」

銃爪を引きそうになったが歯を折るに留めた。こいつらが必要なものを持っている可能性もまだ全くの零では無い。

「二つ。暮泥十愛の遺伝子は治せるのか。長く生きる事は出来るのか」

「出来る訳が無いだろうそんなもの。そんな技術があるなら世界が我々を守る、まして君が近づける筈もない」

銃爪。銃声。燃えるゴミが一個増えた。

想像はついていたが言い切られると膝から崩れ落ちそうになる。

何とか堪えた。まだ聞きたい事がある。

「…三つ。暮泥十愛は自分の運命を知っているのか」

「君と一緒だ。特に隠す理由も無かったので全てを話している」

「そうか、もういい」

「我々が泣き叫ぶ所は見なくていいのかね」

「お前は害虫の羽音に耳を傾けるのか?」

人数分の銃爪を引いた。

死体を撃ち抜くのと一緒で特に感動も覚えなかった。

喜びも悲しみも無く全てを燃やしたがこれでは焼き尽くす捧げ物にもならない。

炎とはこんなにも虚しいものだったのか。


事が終わって帰ってきたのは、誰もいない部屋の誰もいない布団。

湿気ったシーツに身を投げ出したのは何も出来ない私。

どんどん体がきしんでいくのが自分でも分かる。

普通の人間はほんの少しづつで老いていくのだろうが。

残り数年の私はいつまで歩いていられるのだろうか。


一人ぼっちの暗闇の中で思う。

運命は最初から決まっていて誰にも変えられない。

私も十愛もあと数年も残っていない。

私はどうすればいい。私は十愛に何が出来る。何も出来ない。

全てが閉ざされた末にやっと私は「望む」という概念を理解した。

いつか死ぬ前にどうしてもやりたい事。

地べたを這い回るウジ虫には許されない事であったとしても。


私は十愛に会いたいと思った。

散々人を殺して恨みも買った私と接触してしまえば、

十愛の身にも危険が及ぶのは最初から分かっていたが、

もうそれもどうでもよかった。

「望む」からには行動しなければ。

私は私の為に願いを叶えるのだ。

ぼんやりと伸ばしていた右手を握りしめて決めた。

やりたい事をやるんだと。

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