コント「医者と中二病」
医者と中二病のコントです。
医者の台詞は
医者「」
中二病の台詞は
中二「」
と書いています。
白衣を着た医者が椅子に座りながら独り言つ。
医者「はあ、面倒だな。僕はコロナのワクチンの説明を、あと何回すればいいんだろう? ずっと同じことしてると飽きてくるから、なにか変化がほしいな。……よし、次で今日は最後の患者さんだ。次の方どうぞ」
全身を黒い服で、腕に包帯を巻いた少年が入ってくる。
中二「……ここが、病魔を滅するための機関か?」
医者「中二病が来たー! これ、どうしよう? 変化はほしかったけど、こんなのは望んでないんだけどな。……てか、名前は……えー、百手さん」
中二「それは現世における名。我の真なる名はヘカトンケイル!」
医者「……おーおーおーおーおー。とんでもないの来ちゃったよ。真なる名、絶対名字からとったじゃん。……これどうすれば? ん? てか中学生だよね? 保護者の方は?」
中二「父は配下の者の不始末のため、死地へと赴いた」
医者「ファーターって、シューベルトの魔王くらいでしか聞かないんだけど。てかお父さん大丈夫なの?」
中二「無論だ。父の心は、契約が失われようとも折れぬ」
医者「……もしかしてお父さん、部下のポカのせいで仕事が大変になってるってこと?」
中二「神秘は解き明かされた」
医者「あ、正解ってことね。……うーん」
医師は白衣からボールペンを出して、中二病に見せる。
医者「クーゲルシュライバー」
中二「同志」
医者「やっぱこれで、心つかめた。……なんかドイツ語とか格好いい言葉使えばいい感じか? あ、ところで体のどこにも異常ありませんね?」
中二「無論だ。数多の植物を内包せし混沌を飲んでいるからな」
医者「ん? あー……青汁飲んでるんだ。健康なのはいいですね。はい、じゃあ、説明するね。ワクチンの副作用で熱が出たり、頭とか痛くなったりするから安静にしておいてください」
中二「例え我が身を地獄の業火が焼こうとも、耐えて見せよう」
医者「あ、熱には強いんですね」
中二「と、とと、ところで、頭の痛みはゼウスがアテナを生み出すほどか?」
医者「自分の頭を斧で割りたくなるほどではないです。てか頭痛には弱いんですね」
中二「ふっ。涙が滝のように出ようぞ。まさに滂沱!」
医者「よくその内容を格好よく言おうとしたね? じゃあ、ワクチン打ちますね。……あ、腕にぐるぐる巻いてる包帯、取ってください」
中二「否! これはただの包帯ではない! 古の魔王の封印だ!」
医者「でもそれ取ってくれないとワクチン打てませんよ?」
中二「古の魔王よ! 今、ヘカトンケイルの名において解き放つ!」
医者「取るんだ? めっちゃ時間かかって巻いた感じだったのに。てか、ワクチン接種で魔王解き放ってもいいの?」
中二「安心するがいい。清めの儀式は済んでいる。刹那の開放などでは、魔王は逃れられん」
医者「……あー、もうお風呂入ってきたんだ? べつにワクチン打ってもお風呂入って大丈夫ですよ? 強く擦るのはいけませんけど」
中二「なん……だと……? それはまさか秘奥図書館に飲み込まれし禁断の叡智!?」
医者「違います。秘奥どころかネットにあります。じゃあ打ちますね」
中二「この、我が腕に生じた漆黒の腫瘍の付近に頼む」
医者「あ、このほくろの辺り? ……ふむふむ。ここら辺ならいけるね。じゃあ打ちますね」
医者がワクチンを打つ。
中二「くううううう! わ、我の体を大いなる病魔の尖兵が蝕む!」
医者「いや、これ病原体打ち込んでるわけじゃないから」
中二「なん……だと……? それはまさか秘奥図書館に飲み込まれし禁断の叡智!?」
医者「違います。これもネットで調べられます。じゃあ、あと十五分待ってくださいね。それでなにもなければ、帰ってもいいですよ」
中二「ふっ。長き時の針が十五の遷移をせしとき、我は再びこの地に来訪し、白き賢者と相まみえん」
医者「十五分後にまた来るってこと、めっちゃ難しく言うね。てか白き賢者とか、照れる」
十五分後。
中二「悠久の時を経て、我は舞い戻ったぞ」
医者「たった十五分だけどね」
中二「知恵の実が刻まれし我が端末は、聖域に封印されん」
医者「あ、スマホ家に忘れてきたんだ? 暇だったんだね? なにしてたの?」
中二「ふっ。世界樹の香りを浴びておった」
医者「観葉植物見てたんだ? あれ、結構評判なんだよ」
中二「生命の根幹の歪曲が雅なり」
医者「そうそう。根っこの曲がり方がいいんだって。あ、そう言えば、異常ありませんね?」
中二「審判の時、来たれり。……我は……選ばれし者!」
医者「体には異常なし、と。よかったよかった。はい、じゃあ、もう帰ってもらっていいですよ」
中二「さらばだ。礼を言う」
医者「はい、さようなら」
中二「くくくっ。左手が……疼く!」
中二病が立ち上がって、病室から去る。
医者「そう言えばあの子、魔王の封印解きっぱなしで帰ったな。……はー。これで今日はお終いかー。……いやー……面倒だったな!! 解読めっちゃ大変だった! うん。やっぱ普通が一番だわ! 変化なんていらないわ!」