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オレ専用暴走父性・佐々原くん  作者: 廣野 あられ
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第二話 「友愛と悩める父役」

前回は重めのモノローグ中心でしたが、今回からは重め:軽め=1:9ぐらいの、あんまり気負わずに読めるものを目指します。

幸祐が若返った理由とは一体……?

 小さいころから大人になることにはっきりとした抵抗があった。でもそれは、描けない未来予想図に怯えた心情からくるものではなく、狭い世界の中でも自由でいられるあの頃への憧れに近いものだった。小さな体躯でもいい、足りない頭でもいい、至らないなりにオレを受け入れて認めて『よくやったな』って頭をなでてくれる。そんな世界が永遠に続いてほしかった。それでも、大きくなれないことはいつしかコンプレックスに変わった。日に日に周りから人が立ち去っていった。自分の欲しかったものをくれた手は枯れていき、言葉は心を温まらない動揺だけを生み出していった。オレの心だけを置き去りにして体が、家族が、社会が姿を変えていく。それはただの、何でもない時の移ろいであるにも関わらず、今も昔もオレにとっては理不尽なものに他ならなかった。

――― 


窓に映った自分の顔をペタペタと触る。柔らかい、すべすべとした子供の肌。毎朝の様に剃っていたひげは見る影もない。

(…ひょっとして、これはまた夢の中なのでは?)

オレは、あの時…奏汰に『子供でありたい』という本心を見透かされた時から頻繁に、子供になる夢を見るようになった。しかしタイムスリップというよりは転生などのそれ…、まったく関係のない人の少年期を追体験しているような感覚だった。でも、目の前の窓に映っているのは間違いなく10歳ぐらいの自分。それなら、ここは現実…?いやどうして…?


“ガチャ”


思考が纏まらないでいるまま自分の顔とにらめっこを続けていると、部屋のドアが開いた音がした。


「やっと起きたか。」


振り返るとそこには…そこには男がいた。…誰だ?部屋が薄暗いせいで顔がよく見えない。だが、それなりに背の高い事はわかる。


とにかく、知らない人の家なんだから不法侵入になるよな…なんて誤魔化そう…本名を答えるのはまずいか?でもここまで連れてくる人だからやっぱりいい人…いやでも子供になってるのはどういうことだ?


「え、えっと、えーっと…!」


パニックになったオレは身振り手振りで言い訳を始めようとするも口が上手く回らなかった。それは端から見れば、悪戯がバレた幼い子供の様だろう。あたふたしていると、男が口を開いた。


「名前は?それから年齢、あと職業も、かな。」


男はそう言いながら近づいてくる。顔を見るには首をほぼ真上に向けなければならないほどの距離感だ。いやいや、待て。今の質問、子供相手にする内容じゃないよな…どっちかっていうと職質…あれ、それじゃあ俺の体が子供に見えてるのって実は幻覚で本当は街中をインナー1枚で歩き回る大人のまま!?(※パニック中)


「どうしたの?答えられないのかな?」

「あぁえっと…あぇっと…!」


こ、ここはとにかく適当にごまかさないと…!


「い、いがらし こうすけ、です…。」




しょ、正直に答えてしまったーーー!何やってんだオレーッ!

まずい、まずい・・・!でも相手はこれが本名だって知ってるわけないんだし、まだ誤魔化しは効くか…?


「年齢と職業は?」

「えっと…28さいで…やくしゃ、です…。」




また正直に言っちゃったーーーー!アドリブ下手かよオレはーーーー!?

もう最悪だぁ…多分この幻覚が消えたら豚箱直行だな…神様正直者でほんとごめんなさい(※再度パニック中)



「…なるほど、ね。良かった。」

「・・・・・・え?」


だが、オレの焦りとは裏腹に男はなんだか安堵しているように見える。


「あの…良かったって、あなたは一体…うわっ!?」

言い終わらないうちに顔が近づいてくる。その聞き覚えのある声の正体に気づいた時と同時だった。


「ここまで近づかないとわからないか?相変わらず背の高いやつに苦労させるなお前は。」

と、屈んでわずか数十cmの距離まで顔を近づけられて嫌味を言われれば嫌でも認識してしまう。




「そ、奏汰…?」

「その様子だと記憶自体はしっかりしてるようだな。」

「…え?…っと?」


また頭がショートしてしまった。つまりオレは、酔っぱらった後、介抱されて奏汰の家まで担ぎ込まれたってことか?え、それじゃあ服が脱がされていてインナー1枚なのはそういう…いやまさか。


「お、オレ、お前に変なこと、してない…よな?」

「…やっぱり記憶ないか?」

「いや、あるにはある、けど、優成の結婚式の後、お前と二人で飲みに行ったのは覚えてるんだけどそのあとはさっぱり…。」


そういうと、奏汰は露骨に嫌そうな顔をした。


「な、なんだよ…やっぱりオレ変なこと…。」

「まぁ、酒が入ればすごく口が回るというか面倒くさいというか…。口を開けば“エリート良いなぁ”とか“人生やり直したいー”とか、愚痴聞かされるのはもう勘弁してほしいかな、と。」

「そ、そっか…。」

良かった、酔った勢いで告白…とかはしてないみたいだ。


…ってそんなことよりも、だ!

「なぁ、オレが誰なのかわかってるってことは、やっぱりこの状況は、お前が…?」

自身の置かれている状況の原因、その一端が好きな人にあるとは到底信じたくはない。と、震えた声で奏汰を見る。

「……はぁ。」

奏汰は気だるそうにため息をついて立ち上がった。急に顔の距離が離れて不安になる。思えば今の今まで屈んでたんだよな。


「まぁ、詳しくはあっちで話すから。ついてきて。」

そういうと奏汰はそそくさと部屋を出てしまった。

なんか…まどろっこしいな…。はっきり言ってくれればいいのに。



それにしても、酔いが覚めたからはっきりとわかる。あいつ…ちょっと痩せてないか?

――― 


開きっぱなしのドアを抜けると、そこは見慣れた場所だった。中学時代、よく奏汰の家で遊んでいた居間だ。外での運動が得意でない俺にとって、他人と遊ぶ術はゲームぐらいしかなかった。部活の後、空いている日に駄々をこねて遊ぶ約束を取り付け、一緒に家庭用ゲームで遊ぶ…俺の家はそんなに余裕があったわけじゃないから、最新のゲーム機はいつも羨ましかった。

それにしても、あの寝室ってここに繋がってたのか。


肝心の奏汰は、テーブルに両肘をつき手を顔の前で組む…いわゆる偉い人の姿勢で座っていた。

「まぁ、そこに座ってくれ。」

「それで…なんだよ、話って。」

「あぁ…話というのは、幸祐…俺と…」

まるで告白のシーンのような緊迫感があたりを包む。神妙な面持ちで組んでいた手をほどいて膝に置き、背筋を伸ばして目をこちらに向ける。目線が若干下がり気味なのが身長差を感じてイラっとくる。

「幸祐、俺と…」











「―――養子縁組を組んでくれないか。」











「よ…。」

予想のナナメ上だ―――――…!


「養子縁組ってあの…あれか?血縁関係のない大人と子供を法的になんやかんやするアレ…。」

「組んでくれないか。」

奏汰は声色一つ変えずに迫ってくる。


怖ああああああ!?秘かに思いを寄せてたやつから養子縁組を申し込まれるなんて思わなかった!同年代とかなら結婚とかじゃないのか!?そもそも同性だから難しいと思うけど…。いや、まさかだからこそか…!?

「っ、な、なんで…養子縁組…しかもオレ?」

落ち着かない思考でとりあえず一つの疑問を口にする。


「…俺が昨日、新事業のリーダーになって異動になるって話をしたのを覚えているか?」

昨日…そうだ、確か喫煙所でそんなことを言われた。

「あぁ…これからは気軽に会えなくなるって話をして…。」

「その新事業ってのが、“若返りの薬”なんだ。」

「若返り…。」

なんてファンタジーな、と言いたいが、実際に若返っている自分の体を見て実感せざるを得ない。

「…幸祐、お前…多分覚えてないが、その治験に参加することになったんだ。」

「…は?」

「泥酔して覚えてないな、これは。…それじゃあ、昨日のことを順を追って説明するよ。」


――――― 

昨日 居酒屋にて

「おまえは良いよなぁ~?高校も良いとこ出て、大学も出て、んで製薬会社では新事業のリーダーだろ~?」

「幸祐、少し飲みすぎなんじゃないか?」

「その点、俺はさぁ~…。高校も妥協を重ねて?バカのくせに自分よりレベルの低いところで満足して?演技の学校出てからも鳴かず飛ばずで親の脛齧って生きてるようなもんだし…?」

「幸祐……。」

「はーぁ……、もう嫌だなぁ……。なぁ~そうたぁ~、オレのこと養ってくれよ~……。」



「それじゃあ、……幸祐、人生をやり直せるとしたら?」


「やり直す、ねぇ……。奏汰にしては、非現実的なことを言うじゃん?」

「……やり直したいか?」

「そりゃあ?今みたいな自業自得クソボケな生活をやりなお…いやリセットじゃだめだ。それこそ来世に期待…みたいな、まったく違う環境で新しい人生を歩む、みたいなのじゃないとな。……あー、でも前世の記憶はやっぱあれば便利だよなぁ。異世界転生モノが流行るわけだ。」

「……これ。俺が携わることになる新事業……のサンプルだ。」

「ほ~?小っちゃいカプセルに収まってまぁ……。んで?それとこれに何の関係が?」

「これ、若返りの薬なんだ。」

「ふーん…わ、か、が、え、り…?」


「今の時代、若さというのは一定のステータスだ。若ければ将来の有望性から働き口も増える。若ければ恋愛も比較的自由にできる。」

「……。」

「だが人間はいずれ老いる。肌や髪の艶は消え失せ、骨は隙間だらけ…。そうすれば生活は不便になるだけだ。」

「……。」

「それに、よく聞くだろ?『あー若いころに戻りたい』とか『昔の自分はモテモテで…』とか。老いれば老いるだけ、若さへの渇望はより強いものになる。つまり、若返りたいと願うようになるんだ。」

「……。」

「ウチの会社はそういった願望を叶えるためにこれを開発した。もちろん、世界中の人がおいそれと手を出せる代物ではない。…金額的にもな。」


「そ、それで?そんなお高いもののサンプルを見せびらかしちゃって何が言いたいんだよ。」

「これの治験をする人を今、社員自ら探しているんだ。作ってしまったとはいえ、こんな自然の理に反するモノを大々的に試すわけにもいかないからな。ある程度信頼のある人間にしかこの話は持ち掛けないようにしている。」

「へぇ~、しんらい、ふぅ~ん…。」

「何嬉しそうにしてるんだよ。で、話は元に戻るが、幸祐。お前、人生をやり直してみたいんだろう?…試してみないか、この薬。」


――― 

現在

「で、今に至る。というわけだ。お前は二つ返事で承諾した。本来なら数日開けてから行うつもりだったのが、俺が席を立ったのを見計らってお前が勝手に服用。体に変化が起きる前に連れて帰れたからよかったものの、タイミングを間違えれば大騒ぎになっていたはずだ。」

「そ、そうなのか…なんかごめん。」

「俺も俺で、会社からすれば“まだ社外秘”の薬を勝手に服用させた横領者だ。一応企画の上司…責任者には話を通したがしばらくは謹慎だそうだ。まだ話の分かる連中だから、治験として準備が始まるのは時間の問題だろう。」

奏汰は落ち着いて話しているが、声の端々に圧のようなものを感じた。

「……。」

なんか、本当に悪いことがばれた子供の様に、居たたまれない気持ちになってしまった。目の前の同級生が、なぜか怖い大人に思えてくる。


「それで、養子縁組を組むってのは…?」

「簡単な話だ。若返ってしまえば元の生活には戻れない。実年齢は変わらなくてもはたから見れば児童労働だ。それによって立つ風評や被る被害はそうそう何とかなるものじゃない。。しかし、実年齢二十歳越えのいい歳した大人が働いていないとなるとそれはそれでよくない噂が立つ。であれば、誰かの手を借りて生活しなければならない。……ここまで言えばわかるか?」

「……それで、俺を子供と見立てて養子縁組を組むって?お前も言ってたけど、見た目はこれでも戸籍上は純然たる28歳だろ?同年代で養子縁組って成立するのか?」


「それについてはもっと簡単だ。戸籍をカイザンすればいい。」

「は!?」


かいざん…いま戸籍を改ざんするって言いましたかこの人!?


「ウチの会社、そういうの得意だから問題はないだろ。」

「問題のあるなしじゃなくて……お前、なんかやばい会社に勤めてるんじゃ……!?」

「そうか?100%クリーンな会社の方が珍しい気がするけど。」

「そうだけど、お前のは100%汚れてるっていうか……。」


「そしてその改竄だけど、もう終わってるんだ。」

「テンポいいな!?」


「もう養子縁組は組んだという体で名前は『佐々原 幸祐』。誕生日はそのまま、生まれた年だけ本来より22年後になってる。」

「本来の生年月日は1993年12月27日でその22年後……えっ、オレ今6歳ってことになってるのか!?」

「戸籍上はね。幸祐がほんとは28歳なのを知っているのは両親と俺たちしかいない。」

「オレ、この見た目10歳ぐらいだと思ってたんだけど……。」

「あ、そうなのか?背が低いから本来の年齢がわからなかった。」

「……そっか。」

「……いつもなら『子ども扱いするな』って怒ってくるところだろ。」

「扱いも何も、今まさにオレは子供じゃねーか。」

「案外すんなり受け入れるんだな。」


「しっかし、いきなり戸籍改ざんだなんて……。劇団もそうだしバイトのことも、どうしよう……。」

「どちらも承認済みだ。」

「はやっ!?」

どちらもよくOKだしたな……?劇団員あるいはバイトが一人減るって相当だと思うんだけど……。

「っていうか、それ以前にどうやって許可取ったんだよ。オレが入ってる劇団とか、教えたことあったか?」

「それはまぁ……企業秘密ってことで。」

「……。」


……もしかしてアイツ、製薬会社に勤めるサラリーマンの皮をかぶったスパイとかじゃないよな?


――――― 

俺、佐々原 奏汰は危機に瀕していた。

それは薬の横領がばれて謹慎になったこと、ではなく目の前の元同級生に対するモノだった。


(すっげえ可愛がりたい。)


いや勘違いしないでほしい。俺は別に、同性にも子供にも興奮する人間ではない。

この感情は所謂、そう。『庇護欲』というものだ。


本人は気づいていない(というか気づいてるのが俺しかいない)かもしれないが、幸祐は非常に甘えたがりだ。

面識は部活と塾でしかなかったが、その中で何度も他人に甘えているのを見てきた。

ある時は棚の上部にある本を取るためだけに他人を呼んだり、授業中に居眠りした時に隣の人に起こすよう頼んだり、と。これだけなら甘えたがり、というよりは甘ったれなのだが、幸祐がそれらとは一線を画していると思うわけがあった。

幸祐は他人に頼ってばかりだが、自分にはできないことを知っていて頼っていた。自分に足りないものを補うことができるほどには賢かった。協力してくれた人にはいつもお礼をしていた。


そして、その頼る相手の選択肢にはいつも俺がいた。

普段から身長が低いことをイジったり年下扱いしたりしていることへの仕返しだったのかもしれない。でも、そのあとの彼の

「ありがとう」

という素直な言葉と屈託のない笑顔だけで十分おつりが来ていた。

一人っ子だったため小さいころから何かと親に甘えることはできたが、甘えられることには不慣れだった。その分、幸祐に頼られている間は、弟ができたようでなんだか嬉しかった。


……話が逸れてしまったが、つまり、だ。


俺をまっすぐ見つめる大きくて綺麗な目、手入れがなくともサラサラな髪、あまりにも華奢な体躯、柔らかそうな肌……それらはどれ一つとってもその他凡百より優れているわけではない。が、しかし!

……今、目の前にいる保護対象(こども)の姿の幸祐が可愛くてたまらない、ということだ。



「おーい、聞いてるのかー?」

「……ってくれ、いやしかし……でも……。」

「おーいなにぶつぶつ言ってるんだよ?」


「幸祐。」

俺は改まって背筋を伸ばし、幸祐を見つめる。

「え、え、なに急に……いや話しかけたのはオレだけど……。」

まずは何から始めるべきか……食事、呼び方、それともスキンシップ……?

「おーい、()()()()()|?」

「え、お、おと……!?」

激しく動揺したのを見て、幸祐はにやりと笑った。

体が子供とはいえ同級生にお父さん呼びされるなんて……しまった、思ったより破壊力あるぞ……。




……ダメだ、いざ年下だと意識してしまうと緊張してしまう!(※本来は同い年)






―――こうして、歪な友愛の元に不思議な親子が誕生した。

次回からはもっと軽く……というか恋愛色もっと強めに出していきます。覚悟しておいてください(?)

5月……いや、6月ぐらいには出したいな。

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