第7話 彼女のカンペキな作戦
※第6話のまえがきにも追記として書いてますが、理学療法士と担当医の名前がかぶっていたので、理学療法士の名前を渡辺から枝川へ変更しました。混乱させてしまい、申し訳ございません!
――次の日の朝、窓から差し込んでくる太陽の明るい光で目覚めた俺たちは朝食を食べ、リハビリテーションエリアに移動していた。
ちなみに、昨日から紫宮さんは義足を装着し、一人で歩けるようになっている。
「はあー……またあいつと会うのか……」
「まあまあ、そう暗くならないで……」
「どっかの誰かさんは前、助けに来てくれなかったからなー」
「それはまじでごめん」
やばい……絶対根に持ってる……
と、今日の夜を覚悟して足を進めていると隣を歩いていた紫宮さんの足がピタリと止まった。
どうした? と思って振り返ると、
「今度は……助けてくれるよね?」
と、紫宮さんが上目遣いで頬を赤らめながら言ってきた。
……最近の紫宮さんがかわいすぎて困る。俺が幼馴染だと気づいたからか……?
「ねえ、返事は?」
おっと、少し考えすぎてしまったようだ。
「はい」
「ならよし!」
と、紫宮さんは上機嫌になって足を前に出す。顔には満面の笑み。そんな紫宮さんを見て朝から心を癒やしつつ、リハビリテーションエリアに向かった。
そしてリハビリテーションエリアに到着した俺たちはもう見たくない顔を見ることになる。
「おはようございます。今日もよろしくおねがいします」
表はこんなに丁寧にしているが、裏の顔はとんでもない変態だ。
「よろしくおねがいしまーす」
気分を切り替え、挨拶をする俺たちだが、確実に昨日より元気がない。
「じゃあ、山本くんは今日も見学で。多分明後日くらいからはできるって渡辺先生が言ってたよ」
「あ、そうですか。ありがとうございます」
そう言いながら俺はエリア内の椅子に腰掛け、紫宮さんと枝川の様子をしっかりと監視する。
(いまのところは……大丈夫そうだな)
と、思いながらずっと紫宮さんの方を見ていると、紫宮さんがおもむろにこちらへ振り返り、満面の笑みでピースしてきた。
俺はほほえみながらピースし返したが、鼓動がどんどん早くなってくる。
(なんだよ……あの小悪魔は! 俺を殺す気か!?)
――そこから昼までずっと監視していたが枝川がやけにキョロキョロするくらいで特におかしなところはなかった。
一旦昼食ということで俺たちは病室に戻った。
「今はまだ大丈夫そうだね」
「そうだねー多分山本くんの監視があるからだと思う。あいつやけに周り気にしてたし」
「そうだろうな」
そこから少しの沈黙があった後、
「じゃあさ、あいつを罠にはめてみない?」
「どういうこと?」
俺が聞き返すと、彼女が「こっち来て」と手招きしてきたので自分のベッドから出て彼女のベッドに向かう。
すると彼女の顔が近づいてきたので急いで横を向く。
(距離近けぇ……)
心臓をバクバクさせながら彼女の話を聞く。
「…………が……と思うから……して……して……」
「わかった。そうしよう」
そして昼食を食べ終わり、俺も紫宮さんも真剣な表情になりながらリハビリテーションエリアに向かった。
――午後のリハビリが始まった。
午前と同じように紫宮さんと枝川の様子を監視する。
1、2時間ほど監視したがやはりあいつが紫宮さんになにかすることはなかった。
よし。作戦開始だ。
俺はおもむろに席を立ち、その場を離れる。向かったのは……トイレ。
これが作戦? と思う人もいるだろうが、立派な作戦だ。
このフロアはトイレの入口がリハビリエリアから見えるようになっていた。
それを利用して枝川の気を緩ませ、触らせる作戦。
しかし、枝川がこっちを向いた状態だとトイレを出たことに気づかれてしまうので、俺がトイレの死角から様子を見て、向こうを向いた瞬間トイレから出る。そして確保。
……どうだ、見事な作戦だろ? まあ考えたの紫宮さんなんだけどね。
俺はトイレに入ってすぐに洗面台のスペースに体を滑り込ませ、二人の様子を見る。まだ枝川はこっちを向いている。
それから数十秒後、やっと枝川があっちを向いた。手は……紫宮さんの腰の近くにあった。
すぐにトイレから出て気付かれないように静かに二人の元へ近寄る。
……気づかれずに枝川の背後に来た。そして、枝川に声をかける。
「おい。おまえ結構危ないとこに手、置いてないか?」
枝川は肩を震わせ、手を自分の足に持っていってからこちらへ振り向く。
「どういうことです? 僕は自分の足にしか手をおいてないですけど?」
「じゃあ、これはどういうことなんだろうなー?」
俺はそう言ってスマホの画面を見せた。画面には、紫宮さんと紫宮さんの腰付近に手を置きにやにやしている枝川の姿が映し出されている。
そう。俺はトイレで二人の様子を見ながらスマホで二人を撮影していた。これも彼女の作戦の一部。
「う、いつの間に……」
「紫宮さんの腰付近に手を置き、にやにやしていながら自分の足にずっと手をおいていた? おまえいいかげんにしろよ。渡辺先生から聞いたが、おまえ院長の息子らしいな。それで何やっても怒られなかったようだが……これを院長が見たらどうなるかな?」
「う、うおー!」
これで終わりかと思っていたが俺のスマホを狙って走ってきたではないか。しかし相手の動きは亀のように遅かった。すぐに羽交い締めにし、ノックアウト。周りでは拍手が起こった。
紫宮さんが驚きの表情を浮かべながら近寄ってくる。
「山本くん、すごいじゃん! 柔道かなんかやってたの?」
「まあ、少しだけ……」
(千歳が帰ってきたら千歳を守るために柔道やってたなんて口が裂けても言えない……)
その後、すぐに警備員の方が来てくれてダウンしている枝川を運んでいってくれた。じゃあな。枝川。
「じゃあ、やることなくなったし病室戻る?」
「うん!」
病室に帰る間、二人とも興奮していたのか会話が途切れることはなかった。
病室に着き、中へ入る。扉が完全に閉まったところで何か引っ張られる感触があった。
後ろを振り返ると、真っ赤にした顔を下に向け俺の服の裾を引っ張っている紫宮さんの姿が。なにか言いたそうにしている。
「あ、あのさ、さっき言いそびれちゃったけど……えっと、その、かっこ、良かったよ」
「あ、ありが、とう」
今日二回目。なんだこの小悪魔は!
照れながらかっこいいと言ってくれる美少女……こんなに良い状況があるか? いやないな!
「また、なにかあったら助けてね」
「ああ、もちろん」
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