第5話 れんの辛すぎる過去
本エピソードは一人称視点から三人称視点に変わる箇所があります。
読者のみなさんが混乱しないように人称が変わる箇所の前には※を置いています。
1,2時間ほどセカステで時間を潰していると、車椅子に乗った紫宮さんが帰ってきた。
「これで今日のスケジュールは全ておしまい。あとはゆっくりしててね」
「ありがとうございました」
先生と紫宮さんが話している中、俺は一番気になっていることを聞いた。
「先生。紫宮さんの検査どうでしたか? 明日からリハビリできそうですか?」
「うーん、検査結果は明日出るから今はなんとも言えないかな。まあ見る限りでは元気だし、多分できるとは思うよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「だいじょーぶ。そりゃ気になるよね。それじゃあとは2人でごゆっくり」
そう言って先生は部屋から出て行った。
――美少女と部屋で二人きり。
今までは彼女が眠っていたので気づかなかったのだが、彼女が目覚めた今、その状況に気付いてしまった。
めちゃくちゃ気まずい。話しかけようにもこんな俺では美少女に話しかけるなど恐ろしすぎて無理だ。
どうこの場を乗り切ろうか考えていると、彼女から話しかけてきてくれた。
「……山本くんはさ、なんで私のこと助けてくれたの?」
「そりゃ誰でもあれは助けに行くでしょ。特に人の命がかかっている時は」
「……そっか、やっぱ覚えてないか」
「え? なんて?」
「ううん、なんでもない。ただの独り言」
彼女が首を振る。
「でも、あんなこと他の人にはできないと思うけどね。私があの場にいたら絶対フリーズして見てるだけになってたと思うもん」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。だから私、れ……山本くんのこと結構尊敬してるんだよ」
ん? 今れ、って言いかけたような……
ま、いっか。気にしないでおこう。
「ありがと。そういってもらえるとうれしいよ。」
「じゃあ、俺からも質問いいか?」
「いいよー」
「なんであの時あんな場所にいたんだ?」
俺と紫宮さんは違う学校に通っていて、普通あんなルートで帰らないはずだ。どうして彼女があんなところにいたのかずっと不思議でしょうがなかった。
「あー……私のバイト場所があの辺りでね、バイトに遅れそうになってたんだ。だから急いでて……」
「そうだったんだ。教えてくれてありがと」
その後も会話を弾ませていた俺たちだったが、気づけば午後10時を回っていたので静かに眠りについた。
※
夜中。れんは過去のことが夢に出てきてうなされていた。
――中学時代、れんは今とは正反対な性格だった。明るくて、面倒見が良く、女子だけでなく男子にも人気があった。
ただ、それを良く思わない輩もいるもんでその例が葛谷明というクラスメイトだった。
彼は、当時付き合っていた彼女に「あいつはヤり目的でお前と付き合った」とか「あいつは〇〇とも付き合ってる」などの嘘を流し込んだ。
さすがに彼女なら信じないだろうと思っていたが、彼女はその嘘を鵜呑みにし、れんを……フッた。
それも、とても人間とは思えないような方法で。
彼女はれんを屋上に呼び出すやいなやれんの意見も聞かずに一方的に罵詈雑言を浴びせ、最終的には蹴ったり、殴ったり。その時だけ屋上は無法地帯だった。
その子のことを心から愛していたれんは、精神を病んでしまいそのまま不登校になってしまった。
そんな時、れんを支えてくれたのはれんの家族と幼馴染の、田辺千歳だった。いつもは家族がそばにいてくれるのだがどうしても無理な時は千歳が家に来て、身の回りのことをしてくれた。
そうして、どうにか生きていたれんだったが精神状態はもっと悪化していき、ついには人間不信となり、家族の言うことしか信じれなくなってしまった。
千歳のことも……信じれなくなってしまった。
「れんくん……」
「……もう帰ってくれ」
そうれんがあしらっても千歳は何度も家を訪ねた。
「れん、」
「だから! もう来ないでって言ってるだろ! お前みたいな陰キャにお世話されて嬉しいやつがいるかよ!」
「……!」
これを機に彼女はもう家には来なくなった。
そして、れんの精神状態が少しずつ安定しだした頃、れんは千歳が遠くに引っ越したことを知らされた。
それかられんは立ち直り、高校生活をスタートさせたのだが、彼女のこと、あの時のことがまだ頭の中に残っている。
――どうしてあんな事を言ってしまったのか。
――どうして謝ることができなかったのか。
――どうしてあんな態度をとってしまったのか。
……大切な人なのに、千歳がいなかったら今の自分はいないのに。
悔やんでも悔やみきれない。
……もう、彼女に謝ることはできない。
※
――気づいたら、俺は涙を流していた。千歳に会いたい。会って、あの時のことを謝りたい。その一心でここまで生きてきた。けど、未だに会えていない。謝れてもいない。
謝る以外で、どうしたらこの気持ちが晴れるのか。その答えは、まだ見つかっていない。
すっかり目が覚めてしまったれんはスマホで現在時刻を確認する。
「3時15分……さすがに早すぎるな……」
もう一回寝ようにも、完全に目が冴えてしまったので寝ることができない。何か音楽でも聞くかとイヤホンをつけようとしたその時、隣からすすり泣く声が聞こえた。紫宮さんからだ。
俺はベッドから体を下ろし、紫宮さんのベッドに近づく。
「紫宮さん、大丈夫?」
そう話しかけると紫宮さんは急に飛び起き、周りをキョロキョロと見渡している。
「あれ? ここは……って病院か……」
「紫宮さん?」
もう一回話しかけると紫宮さんはビクッと体を震わせこっちを向いた。
「え、山本くん? なんで起きてるの!?」
「ちょっと嫌な夢を見ちゃって……紫宮さんはどうしたの? さっき泣いてたけど……」
「実は私も嫌な夢見ちゃって……」
ん?よーく見たら千歳に似てるような似てないような……
いやいや。名字も雰囲気も違うし、絶対違うでしょ。
「てかさ、今、夜中の3時だけど、どうする? 俺、寝ようと思っても寝れなくてさ……」
最初は話しかけることすらままならなかった俺だったが、昨日結構話したおかげで話しかけることはできるようになった。今でも心臓バクバクしてるけどね。
「分かる。私も目が冴えちゃって寝れないわー」
「しー! 紫宮さん声でかい!」
紫宮さんの声が想像以上にでかかったので慌てて制止する。
「あ、ごめん!」
「いま夜中だし、警備員さんに怒られちゃうから……」
それから少しの沈黙があった後に紫宮さんが口を開いた。
「あのさ、山本くんがもしよかったらなんだけどさ……私と一緒にさっき見た嫌な夢、語り合わない?」
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