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第4話 奇跡

「美月のブラコンが進行してる……」

 

 美月が部屋を出ていった後、ベッドに横になりながら美月のことについて考えた。


「きっかけはなんだ? 俺が3日ほど家にいなかったことで寂しくなったか?」

 

 なんとかして美月のブラコンの進行を阻止しねければ。

 そう心に決め、俺はまた紫宮さんの横についた。


 それからというもの、紫宮さんは依然意識を失ったままで特に大きな出来事もなく、紫宮さんの看病生活2日目の幕が閉じた。


 3日目。

 

 窓から差し込んでくる日光で目覚めた俺は隣の紫宮さんの様子を見るが、やはりまだ目を閉じたままだ。

 

 ここに来て、俺の3日前の決意は少しずつ揺らいできていた。

 

 もう紫宮さんは二度と目を覚まさないんじゃないか。そんな考えが浮かんでくるが、急いで振り払う。

 

 が、ずっとその考えは頭の中に残り続け気持ちを抑えられなくなった俺の目にはいつの間にか涙が溜まっていた。


「紫宮さん……! 頼む……! お願いだから……目を開けてくれ!」


 涙が一滴、俺の目から滴り落ち彼女がかけている布団についた瞬間、彼女のまつげがぴくりと動いた。


「紫宮さん……? 紫宮さん!? え? 今まつげ一瞬動いたよね!? 紫宮さん! 目覚まして!」

 

 紫宮さんの肩を持ち、体を揺らすと彼女の大きな瞳が少しずつ露わになってくる。


「う……うーん…… あれ? ここ、病院? なんで私病院にいるの……?」

「紫宮さん! やっと目覚ましてくれた……」


 ――物事は信じれば思い通りになる。

 それがここで証明された。


 紫宮さんが目覚めてくれてどんどん涙がこみ上げてきて前があまり見えない。が、ナースコールはもう押している。もうじき看護師さんたちが来るだろう。


「紫宮さん!」

 

 渡辺先生や看護師さんたちが急いでやってきた。


「回復する可能性が低かったのに、こんなに早く意識が回復するとは……山本くん、なにかした?」

「い……えっ、俺は……何も……っ」

 

 渡辺先生がほほえみながら問いかけてくれたが、まだ気持ちの整理ができていなかったので涙ぐみながら答えることになった。


「ほんとに回復してよかった! あ、自己紹介がまだだったね。私は紫宮さんと彼……山本れんくんの担当、渡辺俊一です。よろしくね」

「よ、よろしく、おねがいします……」

 

 紫宮さんはまだ状況をうまくつかめていないみたいだ。


 渡辺先生が紫宮さんに説明を始める。


「えっと、まず信じられないかもだけど紫宮さんは5日前の午後、交差点で事故にあったんだ。それでこの山本くんは紫宮さんを助けようとして一緒にはねられたんだ。」

 

 そこで一旦言葉を区切り、間をおいてから先生は再び口を開いた。


「で、紫宮さん。これから話すことは少しショッキングなことになるけど大丈夫かな。」

「は、はい」


 ――部屋中に緊張が走る。


「この事故の影響で紫宮さんの右足は、壊死してしまった。つまり、紫宮さんの右足は今……ないんだ。」

「…………」

 

 紫宮さんはひどくショックを受けているようだった。当たり前だろう。俺は骨折で足本体はまだあるからいいけど、紫宮さんの場合足本体がない。つまり、もう自分の足で歩くことは無理だということだ。ショックを受けるのは当然だろう……


「ごめんなさい!」

「え?」

 

 気づけば紫宮さんが頭を下げていてびっくりしてしまった。


「私が、時間をよく見ていなかったから……! 信号をうまく見てなかったから……! だから、私は交差点に飛び出して、挙句の果てに全く関係ない山本くんにまで怪我を負わせてしまって……

 ほんとに、ほんとにごめんなさい!」

「……顔を上げて、紫宮さん。」

 

 何度も何度も頭を下げる彼女に頭を上げるよう促す。

 

 俺も……紫宮さんに謝らないといけないから。


「謝らないといけないのはこっちのほうだよ。」

「え?」

「俺……紫宮さんのこと、助けられなかったし。俺がもっと早くに反応してたら自分は怪我しなかっただろうし、紫宮さんが右足を失うこともなかった。ごめん。」

「でも、」

「紫宮さんを助けようとしたのは俺だから。紫宮さんはなんにも悪くない。そう責任を自分に押し付けないで。そして、少しは自分の心配もしてよ」

「うん。でも、」

「……そこまで責任感じてるんだったら、一つお願い事してもいいか?」

「なに?」


 俺は決死の覚悟で口を開いた。


「……俺と一緒にリハビリ、してくれないか?」

「……?」

「あ、やっぱり嫌だよね。こんな冴えない男とリハビリなんて……ごめん。今のは忘れ……て?」

 急に手が握られる感触があったので見てみると、顔を赤らめながら俺の手を握りながらなにか言いたそうにしている紫宮さんの姿があった。


「嫌なんかじゃない! むしろ……山本くんと一緒のほうが、安心するし……」

「……!」


 ……あぶないあぶない。危うく昇天するところだった。

 

 だってそうだろ?想像してみろ。自分の目の前でめちゃくちゃかわいい美少女が顔を赤らめながら「〇〇くんと一緒だと安心する」って言われるんだぞ。

 

 そりゃ昇天しかけるに決まってる。


 と、一旦気持ちを落ち着かせよう。


「ありがとう。あ、先生リハビリっていつ始まりますか?」

「えっと、紫宮さんの精密検査でなにも異常がなかったら明日からできるかな。」

「わかりました」

「と、いうわけで紫宮さん。そろそろ検査の時間だから検査室に行こうか。」

 

 そう言って、先生は紫宮さんをゆっくり車椅子に乗せて扉まで車椅子を走らせる。その途中、


「山本くん!」

「?」

 

 突然名前を呼ばれ、びっくりして声のした方を向くとかわいい笑顔をした紫宮さんがいた。紫宮さんは、そのままの表情で俺に問いかけてくる。


「私からも一つお願いしてもいい?」

「いいけど……」

 

 そう答えると浮かべていた笑みをもっと深めて


「次、もし私が困るようなことがあったら、その時はちゃんと助けてね!」


……やっばい。まじで殺しに来てるだろあの笑顔。



 ――正直言って、紫宮さんがあんな人とは思わなかった。外見から見るに俺と違う境遇に住んでるし、陽キャなんてみんな同じ性格だと思ってた。

 

 紫宮さんを助けられなかったと聞いて俺をあざ笑うと思っていた。あんなお願い事なんて聞いてもらえないと思っていた。

 

 でも、紫宮さんはこんな冴えない自分を笑うことなんてせず、お願い事もしっかりと聞いてくれて、OKまで出してくれた。なんなら事故のことについてすごく責任を感じていた。


「いい陽キャもいるんだな……」

 

 紫宮さんみたいな人が陽キャの大半占めてたらな……と、ありえない考えを頭に浮かべながら俺はゆっくりと紫宮さんが検査から帰ってくるのを待つことにした。


 紫宮さんとなら、これからも仲良くできそうだ。


 ――そんな裏で、紫宮さんがカウンセリングルームで今後の人生に大きく関わり、ショックを受けることを宣告されていること、そして紫宮さんが部屋から出て行くまでドアの隙間からじっと僕らを見ていた人影がいたのだが、俺はまだ知る由もなかった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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