第3話 家族との再会
※本エピソードから場面切り替えで☆を置いています。
先生が病室を出ていった頃にはもう日は沈み、外は真っ暗になっていた。
そして、俺はゆっくりとベッドから降りて紫宮さんの横につく。
事故当時は身長が低いということしか覚えていないので、おそらく初めてちゃんと彼女の姿を見ることだろう。
……いや、めちゃくちゃ美人なんだが!?
おそらく一目見ただけで多くの人々は彼女のことを「可憐で美人」と判断するだろう。
隅々まで手入れがされている明るい茶色のボブカットは、光が当たるたびに光沢を放ち今すぐにでも指を通したいくらいさらさらしている。
少し褐色がかった肌はシミひとつなくなめらかでこれもまた丁寧に手入れされている事がわかる。
形が整った鼻や口、閉じていてもわかるような大きな目、つややかな唇、それをまとめている肌荒れなど一つもない丸顔。何もかもが作り物のような美しさだ。
こんなきれいな子に怪我させてしまったのかと思うとまた後悔してしまうが、彼女の下の名前を知るため、ベットにかかっている名札を確認する。
「ふんふん。下は千歳さんというのか……。てか俺と同い年じゃん! それに、誕生日も1日違いって……」
紫宮さんと同い年でしかも誕生日も近いことで親近感が湧いたが、今はそんな気持ちにハマっている場合じゃない。
「紫宮さん、大丈夫?」
俺は紫宮さんに声をかける時は必ず名前を呼ぶことにした。そのほうが目覚める可能性が上がるかもしれない。
それから30分くらい彼女の横に居続けたのだが、彼女が汗をかいている事に気づいた。
「意識がなくても汗ってかくんだな」
俺は、タオルを使って紫宮さんの汗を拭こうとしたのだが……
「ん? ちょっと待てよ……俺、今から紫宮さんの体に触ろうとしてる!?」
そんな事に気づいてしまい、俺の心臓の鼓動が早くなってくる。よし、一旦冷静になろう。
大きく深呼吸して冷静に物事を考える。
「触ると言ってもタオル越しだから直に触るわけじゃないし、なんなら事故の時服越しに彼女の体に触れたじゃないか」
なんでこんなこと意識してたんだろう……と思ってもう一回拭こうとする。
が、一回意識してしまうとそれからも意識してしまうもので、また心臓の鼓動が早くなってきた。
「こんなことで日和ってどうする!」
心臓の鼓動なんか無視して、さっと彼女の汗を拭き取る。タオルをあった場所に戻し自分のベットに戻ると一気に疲れが押し寄せ、そのまま眠りについてしまった。
☆
小鳥のさえずりが聞こえてくる、平和な朝。
昨日、あのまま眠りについてしまった俺は体を起こし紫宮さんの様子を見る。相変わらず紫宮さんは意識を失ったままだ。
「今日で二日目だな」
やることは昨日と変わらない。紫宮さんの横にずっといて時々声をかけ、汗をかいているようならタオルで拭き取る。
一時間くらいずっと紫宮さんの横にいると、病室の扉が開かれた。
「れん! 大丈夫?」
入ってきたのは母さん。
仕事は? と一瞬思ったが、今日は土曜日だ。仕事なんてない。
俺が自分のベットに戻っていると、父さんや3つ下の妹も入ってきた。
「れん!」「お兄さん!」
みんなが安心した顔を浮かべながら俺のもとにやってくる。
「ほんと心配させて……」
「ごめんごめん」
「お母さんたち、警察の方から話を聞いてすぐに病院に向かったのよ。そしたらいつものれんの姿じゃなくて……れんが死んじゃうかもってみんなで心配して夜通し泣いたのよ」
俺の両親、そして妹は本当にいい人だ。どんな話でも真剣に聞いてくれて、アドバイスをくれたり同情してくれたりしてくれる。
俺があることで精神を病んでいた時も絶対に誰かがそばにいてくれて……家族がいてくれたおかげで俺は立ち直ることができた。こんな家族がいてほんとに良かったなって改めて思う。
「お兄さん、なんであんな無茶なことしたんですか?」
「いやー人間の本能というかなんというか……」
俺の妹、山本美月も兄が自分で言うのもなんだが結構な美人だ。
光が当たるたびに艶を放つ黒髪のロングヘア、母さん似の若干の垂れ目がスッキリとした顔にマッチしている。
そこまでくれば、当然顔のパーツひとつひとつも形が整っていて、なにより時々溢れる控えめな笑顔がめちゃくちゃかわいい。
そして、これに物静かというステータスを加えられ、美月にオチた男は数知れず。
そして父さん、山本勝や母さん、山本美香もかなりの美男女だ。
それなら、当然俺も美男子……と言いたいんだが、なんで俺だけ平凡な顔立ちなんだよ。神様教えてくれ。
そうして家族と話していると先生がやってきた。
「はじめまして。れんくんの担当医、渡辺俊一です。これからよろしくおねがいします。それでは、早速ご説明の方、始めさせていただいてもよろしいでしょうか?」
それから、俺の家族に向けて説明が始まった。内容は昨日俺が聞いた説明と同じだったが、先生は俺が紫宮さんの看病をしていることも説明してくれた。
「……というわけなんです。なにか質問等、ございますか?」
「……すこしいいですか」
いつも、こういうことには口を開かない父さんが今回は珍しく口を開いた。
「れんの退院はいつ頃になりそうですか?」
「うーん……紫宮さんの回復状況にもよりますが、もし2日後にリハビリが始まるとするとおよそ1ヶ月後。つまり……11月25日頃になると思います」
「そうですか。わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ。それでは、これで失礼します」
「ありがとうございました」
3人とも頭を下げる。そして頭を上げると、
「れん。これから母さんたち用事あるから帰るね。あ、くれぐれも紫宮さんに失礼なことしないように!」
「わ……わかってるよ」
……母さん、意識させるようなこと言うなよ……顔赤くなってしまったじゃねーか。
そしてみんな病室の扉に向かって歩き出す。そんな3人を見送り、俺は横になろうとしたところでとんとんと肩を叩かれた。
誰だ? と思って見てみると美月だった。
「ねえお兄さん。紫宮さん、結構かわいいけどえっと……その……私のこと……忘れない、でくださいね?」
「え、あ、ああ、もちろんだ。美月」
美月が心配そうな顔を浮かべていたので頭をなでてやると、にへら~と頬をゆるませた。
こんなに可愛い生き物がこの世に存在して良いのか!?
「それじゃあ、また来ますね。お兄さん!」
……なんか美月が結構なブラコンになってしまいそうで怖い。
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