第22話 美月の本気
「で、結局お昼はどうするんだ?」
今まで話していて気づかなかったが、二人ともまだ昼ごはんを食べていない。
「お兄さんと一緒に……ってもう時間がありませんね」
近くの教室の時計をちらっと確認すると、12時50分を指していた。昼休憩は13時10分までなのでもう時間がない。
「しょうがないですけど、一緒の昼ごはんは明日にお預けっていうことにしましょうか」
「分かった。楽しみにしてる」
「はい!」
満面の笑みを浮かべながら、美月は中学棟へと帰っていった。
「これが本当に『気持ちを受け取る』ということなのかな……」
この謎が解けるのはもう少し先のこととなる……。
☆
放課後、部活や委員会とかにも入っていない俺はやることもないので一人で帰る準備をしていた。
「さーて、そろそろ入り口が騒がしくなるぞ……」
その予想は的中し、10秒も立たないうちに騒がしくなってきた。その原因は……もちろんあいつだ。
「お兄さん。帰りましょう」
「はいはい……」
荷物を持ち、美月の方へ向かう。……いやまじで人多すぎな!?
「よいしょっと……」
「お、来ましたね。じゃあ、帰りますよ」
「おっと、そんなに引っ張らないで……」
腕を強引に引かれながら昇降口へ向かう。
「今日は帰ったら話があります」
「話って……今日の朝のことか?」
「はい」
どんな話か想像を膨らましていると、ふと後ろから声がした。男の声だ。
「……きちゃーん」
「美月ちゃーん!」
その声の正体は、今日の朝に美月が苦手だと言っていた男だった。
その男は髪こそは黒のものの、制服のシャツは出し、ボタンは第2まで開け、いかにもチャラ男のような男だ。
「美月ちゃん、探したよー」
「……何の用ですか。何もないなら帰ります」
くいくいと袖を引っ張り、帰ろうとする美月の手首をその男は掴んだ。
「待って! 用はちゃんとあるからさ」
「何ですか? 早くしてください」
「うんうん、そんな素っ気なさもいい……じゃなくて、一緒に帰りたいなーと思って」
「見て分からないのですか? もう先客がいるんです」
そして、ギュッと俺の腕にしがみつく。いろいろ柔らかいものが当たってやばい……!
「そんな男放って置いてさ、俺と一緒に帰ろうぜ」
「は?」
あ、これ地雷踏んだなと思いながら美月の方を見るとほんのり笑顔で、でも目つきはめちゃ怖い美月が。
一方、男の方を見ると地雷を踏んだことに気づいてないのかヘラヘラと笑っている。
「『そんな』ってなんですか?」
「え? いや、そんな陰キャより俺と帰ろって話」
「私は陰キャと帰ったらダメなんですか?」
「いや、そんなわけないけど……」
「あと、早くその手を離してください」
「あ、はい……」
美月は全く表情を変えず、男をさらに追い詰める。
「一つ言っておきますが、お兄さんは陰キャでも根はすごくいい人です。誰にでも手を差し伸べてくれ、優しく包み込んでくれる……そんな人です。お兄さんをバカにする人と一緒に帰るなんて言語道断ですから」
「う……! てか、あんたお兄さんだったのか?」
「そうだよ。陰キャで悪かったな」
完全に美月に圧倒されたのか、そのまましっぽを巻いて逃げていってしまった。そんな根性ないなら最初から誘うな。
「さ、帰りましょ。お兄さん」
「お、おう……」
美月が本気で怒ってるところは兄の俺でもあまり見たこともなかったが、正直怖かった。美月もあんな威圧感出せるんだな。
後……嬉しかった。美月があんな風に俺のことを思ってくれて。
――何も取り柄のない俺だったけど、一つ長所が出来たかもしれない。というか、気づけたかもしれない。
「今日のご飯は何でしょうね?」
「んー俺は唐揚げが良いなー」
「唐揚げ! 良いですね」
そんな他愛のない話をしながら俺たちは家へと帰っていった。
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