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第21話 『妹』ではなく『一人の女の子』へ


れんが退院して一日。私は病室のベットに横になっている。


つい昨日まであった温もりはどこへやら。今となってはただ一人だけの冷たい部屋となってしまった。


「やっぱ……寂しいな」


電気は消えていて、明かりは窓から差し込んでくる太陽の光だけ。


スマホを取り出し、写真フォルダを開く。そこにはれんがまだ入院していた頃にこっそり撮ったたくさんの写真が。


私の前を歩くれんの後ろ姿。

私の好きなれんの笑っている横顔。

眠そうにあくびをしているれん。

すやすやと気持ちよさそうに眠っているれん。


たった一ヶ月の思い出でも、これは私の一番の宝物。


もっとこの宝物を増やしたい。こっそりではなく堂々と、真正面から写真を撮りたい。


「せめて学校がれんと一緒ならな……」


そんなこと、そう簡単に叶うことではない。私が住んでいるところかられんの通っている学校は結構な距離がある。相当な理由がないとれんの学校に通うことは出来ない。


そんなことを夢見ているとがらりと病室の扉が開き、誰じゃが入ってきた。


その正体は――私のお母さんだった。


「全く……こんなに部屋を暗くして何してるの?」

「ちょっと考え事をしていて……」


今日は月曜日。いつもならこの時間帯は仕事のはず。なんでお母さんがここに来てるの?


「お母さん、仕事は?」

「今日は休みをもらったわ。千歳に言わなきゃいけないことがあってね」

「言わなきゃいけないこと?」


私がそうお母さんに問いかけると、お母さんは一呼吸置いて口を開く。


「私たち、引っ越しすることになったわ」

「え? 引っ越し?」

「うん。お父さんの仕事の関係でね」


お父さんは銀行員をしていて転勤による引っ越しは多々ある。ただ、驚くことが一つあった。


「今回はどこ?」

「あずま市よ」


あずま市って……れんが通ってる学校の近くじゃない!?


「じゃあ、学校はどうなるの?」

「私たちは星乃高校に行ってほしいかなって思ってるけど……」

「星乃高校……!」


『星乃高校』そこはれんが通っている学校だ。


「まあ、いやなら他のとこでも……」

「行く。そこに行く」

「わ、分かったわ……」


私からただならぬ気配を感じたのか、お母さんは一歩後ずさった。


「星乃高校ね。一応転入試験があるみたいだから、それを受けましょうか」

「うん。でも、退院は……?」

「あ、まだ聞いてなかったの?」


そして、お母さんの口から嬉しい数字が聞こえてくる。


「明日で退院って先生が言ってたわ」

「え? ほんとに!?」


明日からまたれんに会える……! それも夢見ていた学校で! え? これ夢じゃないよね?


「じゃあ、そういうことだから。また明日くるわ」

「うん。ばいばいお母さん」


そして、病室は再び一人になったが、今度は前とは違い、冷たさは一切なくなり、れんが隣りにいるような温もりが感じられる。


「明日で退院、しかもれんと学校で会えるなんて……えへへ」


残り少しで来る大きな幸せに向けてやる気を無くしていたリハビリも頑張ろうと思えてきた。


「絶対、美月ちゃんには負けないから!」





昼休憩を迎えた。今までの授業は、正直言うと全く集中することが出来なかった。


朝に言われた『思いを受け取る』ことが頭から離れず、先生に少なくとも10回は注意されてしまった。


「はあ……さすがに集中しなきゃな」


そして、机に弁当を広げ、昼食を食べようとしているとやけに教室の入り口が騒がしくなっているのに気づいた。


「お、おい……お前の妹さんが……お呼びだぞっ」


何をそんなテンパってるんだ……


そして、教室の人だかりの方に目をやるとひょっこりと美月が顔を出している。


「あ、お兄さん! こっち来てください」

「はいはい……」


そのまま席を立ち、人混みをかき分けてこっちこっちと控えめに呼ぶ美月のもとへ向かう。


「お兄さん! 昼ごはん一緒に食べよ!」

「えっと……なんで?」

「え、だって私たち付き合ってるでしょ?」

「は?」


周りが騒がしくなってくる。


「おい、ちょっとお前こっち来い!」


そのまま美月の手を引き、人目のないところまで連れて行く。


「はぁはぁ……なんの真似だ。美月」

「え?」

「とぼけるな」

「……ごめんなさい」

「なんでこんなことしたんだ」

「……お兄さんのもっと近くにいたかったから。お兄さんを取られたくないから、あそこで宣言しちゃえば誰もお兄ちゃんに寄り付かないかなって」

「もう、美月の気持ちに振り回されてばかりだな」

「ほんとにごめんなさい」

「でも、ありがとな」

「え?」


そして、俺は美月の頭にぽんと手を置く。美月の頬がほんのりと紅くなっている。


「俺は、今まで美月の気持ちをないがしろにしてきた。ちゃんと真摯に向き合ってなかった。でも、気づいたんだ。美月が俺に寄せてくれている気持ちは本物なんだって。だから、ありがとう。こんな俺に好意を寄せてくれて」

「今までそんなふうに思ってたのちょっとショックです……」

「それはごめん……」

「でも……」


次の瞬間、俺の上半身に人の体温ほどの温もりと柔らかい感触が襲った。


「今そんな風に思ってくれてるなら許します!」

「ん、ありがとな」


美月を今まで俺は『妹』としか見ていなかった。けど、この出来事でちょっぴり『一人の女の子』として見れるようになった気がする。

このお話を読んでくださりありがとうございます!


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