第16話 ついに迎えたお別れの日
午前10時。
「千歳ーちーとーせー、起きろー」
「……」
10時になったので千歳を起こすため千歳のベッドに居るのだが、全く起きる気配がしない。
……こいつ朝は強いのに。
しかたなく掛け布団を引っ剥がすと、ようやく大きな目をあけた。
「ん……んぅ」
「やっと目覚めたか……」
ようやく目覚めてホッとしていたが、千歳がベッドをぽんぽんと叩いている。
「ん? ベッド? あれ? 足は?」
どうやら、今自分が寝ているところが俺の足の上ではなくベッドの上だとようやく気付いたらしい。
「もう足はないぞ」
「え!?」
完全に目を開け、こっちを見てくる千歳。
「……なんで」
「えーっと……あのまま寝たら首が痛くなるかなー? って」
「……そっか」
よしうまく説明できたようだ……ん? 本当に出来たのか? めちゃくちゃ不満そうな顔してる……
「……もう一回膝枕する?」
千歳の思っていることはだいたい想像がつくので聞いてみると、今まで全くハイライトが入っていなかった目がぱぁっと輝き始める。
「いいの!?」
「いいけど、もう寝るなよ? 次寝たらもう2度とやらないからな」
「分かったって」
その返事を聞いて、俺は1時間前と同じように千歳のベッドの端に腰掛ける。
「えへへーれん、太っ腹ー」
「お前がなんか足らなそうな顔するからだろ?」
「……! まあ、そうだけど」
こんな自分、幸せだなと思いながら、千歳に聞きたかったことを質問する。
「俺、1週間後に退院するけどお見舞いとか来たほうがいい……」
「うん。絶対来て」
「せめて俺が言い終わってから答えろよ」
俺が言い終わる前にはもう答えていた千歳。そんなに来てほしいのか?
「頻度とか、どれくらいが良い? 1ヶ月に2回とかさ」
「うーん……」
顎に手を当て、考える仕草を5秒ほど続ける。
そこから手を離したので答えが出たのだろう。
「えっとねー1週間に7回!」
「え!?」
な、7回!? つまり毎日来いということですか千歳さん!?
「……嫌?」
俺の顔を下から覗きこみ、頬をほんのり赤らめてねだってくる。それ、やめてくれ。なんでもしてあげたくなっちゃうから。
「いいよ」
「やったー!」
……退院した後もいろいろ大変になりそうだな。
☆
1週間後。
俺は1ヶ月前からお世話になったこの病院から、そしてこの部屋から去るため自分の荷物をまとめていた。
「よし。これで全部かな……」
事前に親が持ってきてくれたカバンに自分の物を詰め終え、親が迎えに来るまでベッドに座る。
千歳は今リハビリを頑張っていることだろう。
今日の朝なんか「リハビリなんて行かないっ!」なんて子どもみたいな駄々こねてたな……
「それにしても、今までの出来事すべて夢みたいだな」
思い返してみると、今までの出来事は普通の人生では絶対に体験しないだろうことばかりだった。
俺は車に轢かれそうになっていた千歳を助けようとしたが一緒にはねられた。
最初は千歳が全然目が覚めず、先生からも可能性は低いとか言われてたっけな。
そこから奇跡的に目が覚めた千歳といつもとは全く違う生活を送った。
途中、幼馴染だってことが判明したり元カノの綾乃と再会したり妹の美月が千歳に宣戦布告したり。ほんと、怒涛の1ヶ月だった。
「なんだかんだ、楽しかったな」
そんなこんなで時間は過ぎていき、親が迎えに来た。美月は今学校でいない。
1階の受付で退院の手続きや精算をやって病院の大きな自動ドアを通る。
久しぶりに吸う外の空気。病院内の空気と全然違う。
……これからどんな日々が待ってるのかな。
これから始まる今までとは違う新たな生活に思いを馳せながら俺は1ヶ月お世話になった病院の方を振り返る。
「先生、そして千歳。本当にありがとうございました」
ここまで読んでくださったみなさん、このお話を読んでくださりありがとうございます!
このお話が良いと思ってくださった方はブックマーク登録・評価のほうよろしくおねがいします!




