1-8 ジェイドーとの出会い
僕がミッシェルと裏路地を探索している間、数多くの浮浪者がその行く手を阻んでいた。食べる物もなく、冬が来ればその寒さから身を守ることもできない人たちだ。彼らはゴミを漁り、当面の命を繋いでいる。
「彼らを何とか雇うことってできないのかな」
「残念ながら、私達の領地にはお金がありません。新しい事業を起こそうにも元手がなければ何もできません」
「そっか、見捨てるしかないのかな…如何しようもならないよね」
裏路地の奥まった場所、僕とミッシェルは恐れ知れずの野盗に襲われた。
「こんな所に何の用だい?お坊ちゃんが来るような場所じゃ、ないぜ!食料を置いて、去りな」
「何者です?姿を見せなさい」
「それは駄目だね。姿を見せた途端、捕まえる気だろう?ここから先は危険だから、立ち去りなといっているんだ」
「危険ってどういう事?何があるの?」
「何てことはない…君らに恨みを持つ者たちが寄り集まって暮らしてるだけさ。静かにしておいてやれよ」
「僕に恨みを?どうして」
「悪いのは戦争さ。辺りの村々から逃げてきた喰うに困った人たちが寄り添って生きているだけさ。直接的な恨みはなくとも、戦争を繰り返さざる負えない国の方針に領主に漠然と不満を持っている者も数多くいるのさ――だから、引き返しな。分かったな」
僕はミッチェルと相談した。ここを引き返すべきか、進むべきか。
「どんな暴漢が現れても、私が守って見せます。タークス様の好きになされば宜しいでしょう」
「じゃ、進んでみるよ…あと、何か食料持ってたっけ」
「いいえ、そのようなものはありません。何か買ってまいりましょうか?」
「二度手間だから、いいよ…離れない様についてきて」
裏路地の奥の更に奥、数多くの気配がこちらを伺っているのが分かる。ハイエナの気配を感じる。油断すれば襲い掛かられそうだ。道路にはゴミが舞い、皮だけの姿の様な人間があちこちで倒れ込んでいる。ここは世界の地獄だろうか?
「私達はアリの巣に飛び込んでしまった蝶々のようですね。あらゆるところから狙われています。早々に引き返したほうが良いでしょう」
「もう少し待って…領主の息子としてこんな悲惨な現状を見過ごしていられない」
僕は近くの飢えている人に近寄って頬を叩き意識があるか確かめる。
「おじさん、大丈夫?」
僕は懐から飴を取り出して、おじさんの口に放り込む。どうやらまだ意識はあったようで、口が動いているのが分かった。言葉が掠れているが辛うじて聞き取ることができる。
「天使が、天使が見えるぜ…とうとう俺にも迎えが来たんだな…」
「いいえ、貴方の前にいるのは天使などではありません。この領地を収める領主の子息タークス様です」
「しっかりして、おじさん」
「どうやら眠っているだけのようです…脈は正常です」
「良かった…死んじゃったかと思った。ここは、飢えている人が沢山いるみたい」
「沢山の気配は感じます。しかし、全員を救う事はできません。この領地には十分な食料も十分なお金もないのです。帰りましょう。これ以上ここにいても無駄骨です」
「さっき声をかけてくれた少年にもう一度会って話をしてみたい。そうしたら、帰るよ」
「分かりました。ですが充分辺りには気を付けてください」
僕たちは廃墟となった街並みをゆっくりと進んだ。建物はところどころ植物に侵され、崩壊を免れている。廃墟の奥には深い森が続いており、どうやら森の恵みで食い繋いでいるようにも見える。
「新入り、には見えないな…あんたら、何もんだ?」
「僕たちは、君たちのボスに少し話があるんだ。良かったら案内してくれない?」
「何の用だ?態々、こんな所に会いに来るなんて酔狂な奴らだぜ。怖くないのかよ」
「話しておかなければならないことがあるんだ…このまま放っておけないよ!」
「ケッ、そうかよ…なら出すもん置いてきな」
「それとも無理矢理奪われる方が好みか?いいんだぜ、どちらでもよー」「へっへっへっ」
僕たちはどうやら囲まれてしまった様だ。僕もミッシェルも逃げようと思えばすぐ逃げられるし、撃退しようと思えば全員を倒すことくらい容易い。だが、仮にも僕の領民。傷つけたくない。【雷撃】の出番だろうか?
「止めな!そいつらはお前たちが何人集っても敵う様な相手じゃねぇ」
「旦那…そいつぁほんとですか!?」
「来るなと言った筈だが…こんなとこまで来て何がしたい?俺たちを見下したいのか?」
「二人だけで話がしたいんだ…どうしても」
「話をしたら素直に帰ると約束するのなら、聞いてやろう」
襤褸の部屋に通され、二人きりで会話する。窓を閉め外から見えなくするアッシュウィン。
「で、話っていうのは何だ」
「僕が君たちに食料を提供する。その代り僕に雇われて欲しい」
「それはどういう意味だ?どのくらいの食料を出せるって言うんだ?」
「幾らでも」
「ふーん…本当に幾らでも?雇われることになれば、俺たちは何をさせられるんだ?」
「簡単なことだよ…戦争が起きる事は知ってる?その時に役に立って欲しい」
「それが本当なら、悪くない話だな…ここでは何より食料が価値を持つ。無暗に持っていても奪われるだけだが、その使い方を俺なら知ってる。食料を幾らでも出せるつう証拠は?証拠もなしに信じるわけにはいかねぇな」
「秘密にして欲しいんだけど、僕は食べ物を生み出せる魔法を使えるんだ」
「本当に?そいつぁすげぇ。だとするなら世界を取れるぜ。じゃ、ちょっとこの手に出してみな」
タークスは魔女っぽいおばあさんから貰った魔道具を使って手の中に飴を作り出しジェイドーに渡す。それを口の中に放り込み、味を評価している。
「なかなか、甘えな…。よし、雇われてやってもいいぜ。一人当たり月に90個用意できるか?それなら契約成立だ」
「戦争が始まったら、命を投げ出してもらうかもしれないけどけどそれでも問題ない?」
「ああ、ここには明日を持生き延びられない奴らが五万といるからな…戦争が始まるまで生き延びられるなら、命を投げ出すことも了承するだろうぜ」
「ここに、幾つかおいて行っても?どうやって持ってくればいい?」
「確かに引き渡しは危険だな…今俺が持てる分だけ、渡してくれるか?」
僕は今持っている袋に詰めることができるだけ詰めて渡した。次の引き渡しはゴックズに袋に詰めて持ってきてもらう事で同意。契約は一か月毎に。もし違反した場合、死よりも恐ろしい制裁が与えられても文句は言わないこと。
「恐ろしい契約だな。この契約書は、法的に有効なのか?」
「そう言う事はゴックズさんに聞いて。有効でなくても、約束を守れない人に容赦をする気はないよ」
「清濁併せ持つって事か…分かった、必ず守らせる」
僕とジェイドーは強く握手をして別れることになった。
こうして僕は、戦争の時に大きな手駒を得ることができたのだ。
次の日、約束通りゴックズさんに大量の袋詰めの飴を持って行かせた。その量に驚いてはいたが、約束通り裏路地ジェイドーの所に届けてくれた。
「あれだけ大量に持っていけば、あそこは襲撃に在っちまいそうだから、スティッキィに警備するように言っといたぜ。はっはっはっ」
ジェイドーは持ち込まれたその量に驚いた。一体どれだけの人を使うつもりなのかという驚きと、飴を作れるというのは本当だったのかもしれないという驚き、二つの驚きが同時に襲い掛かって来たのだ。
「死にそうなやつから、片っ端に声をかけて来い!分かったな」
ジェイドーにとっての激動の一年が始まるのだった。
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