1-7 隊長達に会いに
母はそう言っていたけれど、少しでも不安要素を取り除く為に警備隊長、治安維持隊長、雇われ傭兵隊長の三人に会いに行くことにした。
「警備隊長!タークスが会いに来ましたよ」
「おお、待って居ったぞ。奥様から息子が来ると言われておったから楽しみにしていたんだ!まだ坊主じゃねぇか?一体何の用だ?剣を教えて欲しいっていうのなら何時でも指導してやるぜ」
「ううん、今日はそういう目的じゃあないんだ!今日は聞きに来たの。戦争が起こっても僕たちの領地を守ってくれるっていうのは本当なのか」
「俺たちは領主を守るために雇われている精鋭なんだぜ。当然戦争が起きても、お前たちを守るのが仕事さ」
「どうして?皆逃げ出しているでしょ」
「俺たちは仕事に誇りを持っている奴ばかりなんだぜ。誇りを失って逃げるくらいなら、ここで命を散らしたほうが良いと思っている奴らばかりだ。安心しな」
「男の矜持って奴だけで残ってくれるとは思えないよ…何かあるんでしょ?」
「まぁな…お前の父さんに皆借りがあるんだ。それを返さないのは男じゃねぇ。そういうことさ」
「そっか…じゃあ戦争になったら母さんを是が非でも守って欲しいんだ。頼んでもいいかな…何が何でも領館に物置小屋に連れて帰って来るって約束できる?」
「物置小屋?いいぜ。俺の命に掛けて誓ってやろう。それが父から貰った恩を返すことになるなら」
「ありがとう!じゃ、僕は治安維持隊長に会いに行ってくるよ」
「ちょっと待ちな、俺も付いて行ってやるよ!」
僕たちは並んで歩きながら駐屯所に向かう。
「警備隊長は、ここに勤務して長いの?」
「そうだな、もう十年は越えてるかな。『辺境のゴックズ』と言われて久しい」
「治安維持隊長にも二つ名が?」
「『奇衒』と言われておるなぁ奇抜な様に自らをひけらかすという意味だ。あ奴と戦った奴は、その面妖さに気を取られて敗北を喫するという。普段は話し易い良い奴なんだけどな」
駐屯場は犯罪者が数多く収監されている牢獄の上に立てられている。地下から仮に犯罪者が脱獄しても、訓練場で戦っている治安維持部隊を倒さない限り娑婆に戻れることは無い。
「ゴックズだ、隊長のスティッキィに会いに来た。門を開けてくれ!」
「今日は領主の息子さんと一緒かい?珍しいこともあるもんだな。おーい、門を開けてやれ!」
駐屯場では兵士たちが日課の訓練を継続して開始していた。隊長は看守室で牢屋の様子を見ていた。
「おや、こんな所まで一体何の用かな?なにか治安維持上で問題でも起きたかな?」
「会いに来たのは僕だよ。おじさんは戦争が起きてもこの領地に残るか聞きに来たんだ」
「この子は領主の息子さんだ。答えてやんな。この子なりに心配して来たんだろうよ」
「そうだね…次の戦争で確かに負けるかもしれない…そうしたら全力で逃げるよ。けれど、戦ってもいないのに逃げるなんて面白くないこと僕がするわけないだろ?」
「治安維持部隊の他の全員がいなくなっても、こいつだけはいなくならねぇ。そしてこいつの実力はこの領地随一だ。だから、安心しな」
「うん、ありがとう!少し安心できたよ」
次に僕が雇われ傭兵隊長に会いに行くことを提案すると、ゴックズは物凄く反対してきた。
「あいつらは物凄く柄が悪い奴らの集まりだ。金次第ではどんなことでもやる。坊ちゃんをそんなところに連れて行くわけにはいかねぇなぁ。教育によくねぇからな…てなわけで今日の冒険はここまでだ。大人しく屋敷に帰んな」
「うん、僕帰るよ。ありがとう警備隊長さん」
収穫が得られた良い散歩だった。少なくともこの領地の治安維持隊長と警備隊長は僕の味方だと分かってよかった。雇われ傭兵隊長はどんな人かまだ分からないけどね。
「この街が敵国の攻撃を受けたとして、どのくらい耐えられそうかな?ティミィ。僕の予想では、外壁は脆く崩れ去り市民は全員皆殺しにされてしまうと思うんだ」
「その予想は正しいでしょう。この街は壁も老朽化していますし、容易に防壁を突破されるでしょう。堀もありませんし、時間稼ぎする事すらできないでしょう。今までは全て野戦で決着が付いてきたのでしょう」
「ティミィ、僕が防壁と掘りを作るの手伝ってくれないかな…?」
「そうですね。領主の息子として領民を守ろうとすることは素晴らしいことでしょう。ですが、すべて一人でやることではないでしょう?領民全ての問題なんです」
「どうして?」
「外壁は、私達だけの土地ではないからです。母様に相談するのが良いでしょう。それに、この地は外壁に守られているのではなく『森』に守られているのです」
僕は何だかこれ以上深く考える事を放棄して、走り込んで体力を鍛えることにした。ティミィの言う通りなら、あとは戦力さえあればなんとかなるかもしれない。いざという時の避難場所も作ったし、僕は僕なりに戦えるようにならないと。
まず僕に足りないのは、身長と体重だ。その為、攻撃に重みが出にくく速度も半減する。魔力を身体強化に当てても、元々が軽いので効果は半減する。魔法攻撃は減衰しないが、継続的な戦闘には向かない。
拳に魔法障壁を覆い、体術の練習に明け暮れた。爪ほどの魔法障壁の中に雷を発生させ、それを一方向に解き放つことで相手を痺れさせる【雷撃】を練習し完全に敵に当てることができるようになった。至近距離から浴びせられる雷は強力な威力を発揮するだろう。
「相手に接近を許してもらえるでしょうか?それでは速さが足りませんよ」
中庭で、ティミィと戦闘訓練をするが軽くあしらわれてしまう。
「タークスは近接戦闘の才能が全くありませんね。いっそのこと、足に魔法障壁を作りそこから空気を発射してホバー移動すればどうでしょう?そうすれば高速に移動できるようになるでしょう。空も飛べるかもしれませんよ」
「分かった。やってみるよ」
それから僕は起きている時間は常に重りを付けながらホバリングしている状態で暮らしていた。最初は移動する事すら困難だったので、メイドに手を引いて貰い移動していた。
「面白い練習をしてるわね。空を飛ぶなんて、物凄くトリッキィーね。それって戦闘に役に立つの?」
「わかんないけど、練習してるの。姉さんもする?」
「止めとく。なんか、抵抗感を感じりゅ」
一月経って漸くふらふらと飛行できる程度になり、二カ月して歩く程度の速度で飛び回れるようになり、3カ月して走れるようになった。6カ月すると逆立ちして走れるようになった。まるで無重力状態のように体を回転させて移動できるようになるまで、丸丸一年の月日を要した。
隣国との戦争の時期が迫り、領民は殆どの人が絶望していた。数多くの人がこの地を去り、殆ど商業が成り立たなくなっていった。ただ食料の供給だけは自給自足で十分やっていく事が出来ていたので、戦争には特に影響が出ることは無い。人間食料さえあればなんとかなるものだ。
「そろそろ隣国が攻めて来るんでしょ、母さん?」
「ええ、相手の宣戦布告があって中央平原で開戦されるでしょうね…ただ今回は勝てるかどうか」
「隣の領地に援軍を頼めないの?」
「それは、どうだろう。きっと応じてくれないでしょうね…お金がないもの。送られてくるものと言えば、不要になった人間位の者よ。彼らには否応なしに戦争に参加してもらう事になるわ」
「そっか、だからこんな辺境なのに五分と五分の戦争ができるんだ?じゃ今回も負けないんじゃないの?」
「囚人の数は前回と同じくらいでしょうけど、…私は父さん程戦争が強くないの」
「平原で負けても、私達がいる!敵を皆誅殺してあげりゅんだから!」
「まぁ、それは頼もしいわね」
戦いの足音はもうそこまで迫って来ていた。
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