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最凶の同窓会!深海の忍者と不運四つ葉

ズッ、ドォ――――ン!


コゲコゲにされたパルタが凄まじく高い水柱を上げて海中に落ちた。

それっきり浮かんでこない。

後を追ってきた鷲羽機が海面スレスレで機首を上げて、低空飛行で旋回に入った。


「くたばったか?違うな……くそぉ、見失ったか!」


海面には血痕どころか泡一つ浮いてこなかった。

それ相応の深手を負っているはずだから、死んでいたとしても痕跡が皆無というのは考えられない。

位置を気取られないよう海中に隠れたと考えるべきだろう。


「あんにゃろー、コソコソ隠れやがって。ま、いいか?あとはお前に任せるぜ」

『了解でゴザル、鷲羽殿』


どこからか、えらく古風な返事が返ってきた。


★☆★☆★☆★☆★

水深300メートル、ここまで潜れば太陽の光はほとんど届かなくなってくる。

真上こそ青い光が見えるものの、周囲は暗くて鼻先を泳ぐ奇怪な魚やダイオウイカの気配を感じるのもやっとだ。

その闇の海底に身を潜め、呼吸も心拍すら抑えて潜むパルタ。

追っ手を振り切ったものの、もう余力はほとんどなかった。


(ううっ、不覚!あんな連中相手に、ここまで深手を負うとは)


全身を撃たれ焼かれて傷と火傷だらけ、痛みだけで気を失いそうになる。

冷製に考えて行動していれば、こうも一方的にやられる相手ではなかったのに……

敵を過小評価していたのは確かだが、何もかもが裏目裏目に出たような気がする。


(まるでツキに見放されたような。それともあっちがツキ過ぎてるのか?)

(そんなことを考えている場合じゃないわ!この場は何としても逃げ延びねば)

(気配を断ってやり過ごすしかない。敵が去るまで少なくとも一昼夜は……)

(どうか、どうか発見されませんように……)


力を使い果たした今のパルタにできるのは、こうして海底の砂の中に隠れることだけだ。

あとは見つからないことを願うしかない。

だが、その願いは叶えられなかった。

突然、頭の真上に強力な光源が二つ、浮かび上がったのだ。

そして暗い水中に響く、陰気で冷淡な男の声。


『貴殿でゴザルか?我が盟友・弾太郎殿に不埒な行為を働いた不逞の(やから)は?』


パルタは血が凍るのを感じた。

どうしてここがバレた?

彼女が張り巡らしたシールドはあらゆるセンサーを妨害または中和する、探知されるはずはない。

着水地点からおおよその位置はわかるだろうが……


(だが、こんな短時間で見つけられるわけがない!)

(ハッタリだ!引っかけだ!)

(私の居場所を見つけられないので騙そうとしているのだ)

(慌てて飛び出してくるのを待ち構えているのだ)

(馬鹿め、宇宙最強くのいちである私を見え透いた手で……)

『拙者の真下の砂の中に潜んで居る貴殿のコトでゴザル。聞こえてないなら、爆雷投下……』


怪しい目玉のように輝く光源から、黒いドラム缶みたいなものが落下してきた。

水の中をゆっくり沈んでいく物体はやがて海底に達し……ドンッ!爆発した。


「ぐぁぼぼぼぉっ!」

ブクブクブクブクブク……


パルタは肺の中に溜めていた空気を全部吐き出す羽目になった。

そうしなければ肺が水圧で潰れるところだった。

水中での爆発の威力は空気中とは比較にならない。

爆風と炎はないものの、体を包む大量の水が全方向から体を打ち砕く巨大鉄槌と化す。

既に深いダメージを受けていたパルタには致命傷となりかねなかった。


「よくもやってくれたわね……それにしても、なぜここが?」

『着水地点から移動できる範囲で身を隠せるのは、この砂地だけでゴザルよ。そのように鷲羽殿に追い込んで頂いたのでゴザル』


パルタが睨みつけた相手は透明な耐圧ガラスの顔を持つ熱帯魚(エンゼルフィッシュ)……の形をした単座戦闘潜水艇だった。

巨大な目玉のような二つの光源はサーチライト、その光の間、耐圧ガラスの内側に痩せた男らしき人影が座っている。

防衛警官のパイロットスーツではなくピッタリと身を包む黒装束、そして背中には日本刀らしきものを背負っている。

黒覆面で顔はわからないが、鋭く冷たい眼光は宇宙くのいちを名乗るパルタに通ずるものがあった。


『申し遅れたでゴザル。拙者、防衛忍軍・水軍の棟梁・深見 仙水(ふかみ せんすい)と申す者でゴザル』


一応、注釈をいれておくが!

防衛警察に忍軍だの水軍だのという部署はないし、棟梁なんて階級もない。

正しくは機動性の高い小型潜水艇で構成された機動潜水艇部隊『わだつみ』小隊長だ。

ただし『深見 仙水』というのは駄洒落のようで本名、ニックネーム『忍者オタク』、二つ名は『時代錯誤』だ。

ちなみに両親ともに普通の公務員共働き夫婦で、忍者の末裔などということもない。


「貴様も忍者か……」

『おぬしも忍びでゴザルか。お互い闇に生きる者ということでゴザルな』


忍者?同士の対決、一言も発することなくにらみあい、互いの隙をうかがいあう。

先に動いた方が不利、しかし時間がたてばたつほど消耗の激しいパルタの方が不利になる。

絶体絶命の危機の中でパルタは冷静だった。

窮地が彼女に暗殺者の本能を取り戻させたのだ。


(さっきの爆雷攻撃のせいで、肺の空気が残り少ない)

(しかもここは敵地、すでに罠の中と思って間違いないわ)

(やはり増援を待っているに違いない)

(今、動くしかないか……ならば)


パルタの右手が動いた。

しかし水圧のせいか、それとも受けたダメージが深すぎたのか、いつもの素早い動きには程遠い。

そんな好機を逃す忍者オタクではなかった。


『お命、頂戴でゴザル!』

「くくっ、甘いわ、地球人……」

バッ。


潜水艇の真下、海底の砂が弾けた。

砂地の中から輝く十字手裏剣が真上に向かって飛び出した!

狙いは当然、潜水艇!避ける暇など与えない。

手裏剣は船艇に突き刺さり、操縦席ごと黒装束の男を貫いた!


「忍法秘奥義・操剣術!最初に砂に潜んだときに仕込んでおいたのよ。田舎忍者ごときには荷が重すぎ……?!」


命中した潜水艇がグニャリと歪み、そのまま大量の泡を噴き出して萎んでしまった。


「な、なに?これはデコイ(おとり)?じゃ、じゃあ本物は……」

『ふははは、忍法・変わり身の術!いかかがでゴザルか?田舎忍法の味は』


驚くパルタの背後から、深見小隊長の高笑いが呪いのように聞こえてきた。

反射的に振り向こうとして、パルタは動きを止めた。

振り向いた瞬間に殺られる、そんな確信があった。


(落ち着け、落ち着いて敵の位置を確認するのよ……)


パルタの両手の巨大カニバサミには様々な忍者道具が仕込んである。

そのひとつ、手鏡に背後の様子を映して敵に気づかれないように探る。

なお、この手鏡は忍者道具ではなく普通の化粧道具である。

実は隠し持っているのは忍者道具よりも、ブランド物の化粧道具の方が多かったりする。


(もう少し右、いや上か……いた!)


手鏡の角度を変えると、海面からの青い光に逆光となった潜水艇の影が見えた。

熱帯魚モドキの潜水艇は、ほぼ背後の斜め上にいた。

魚雷発射管を開いて既に攻撃態勢に入っているようだ。

もし振り向いていれば、その隙を突かれて勝負はついていただろう。

右手の手鏡を戻し、左手で密かに手裏剣光線の発射体勢をとる。


(背後を取って油断しているのか、甘い、甘いわ!このままでも狙いはつけられ……)

『甘いでゴザル。拙者がただのんびりしていた、とでも思ったでゴザルか?』


その瞬間、目の前から別のサーチライトに照らされた。

いつの間にか新手の敵潜水艇が間近に接近していた。


(しまった、もう援軍が?しかも気配がなかったわ?まさか……)

『左様、全員我が配下の忍びでゴザル!』

(え、全員って……)


そのとたんに前後左右全方向からサーチライトの光がパルタを照らした。

同型の戦闘潜水艇7機、乗っているのも全員黒装束の忍者だ!

……フリーダム過ぎないか?防衛警察って。


『我ら防衛警察忍軍、深海7人衆!』×7

『よくぞ参ったでゴザル。こやつが我らが盟友・弾太郎殿に仇なす曲者!皆の者、討ち果たすでゴザル!』

『心得ました、棟梁!』×7


咄嗟にパルタは身構えた、打って出るのはもう無理だ。

本来は地上戦専門の自分と水中特化型の敵とでは地の利がなさすぎる。


(逃げるしかない!しかし……どこに逃げれば?)


もう水中にも空にも逃げ場がない。

そんなことを考えて迷っているうちに、取り囲んだ潜水艇がパルタの周囲を旋回し始めた。

動けないでいるうちに潜水艇部隊はスピードを上げ、海水が渦を巻き始めた。

静かだった海中が激流渦巻く嵐の海へと変わっていく。


『忍法・大渦(おおうず)……弾太郎殿に破廉恥行為を働いた報いを受けるがよいでゴザル』

「って私、暗殺犯じゃなくて痴漢容疑なの?いや、そんな冤罪……ググッ?」

ゴゴゴゴゴォッ。


恐ろしい轟音を上げて渦巻く猛烈な潮流が、パルタを渦の中心に完全に封じ込めていた。

しかも巻き上げられた海底の土砂が、周りから襲い掛かってくる。


(痛い、う、動けない!マズイ、このままじゃ逃げ切れな……)

『とどめでゴザル。魚雷、発射!』

バシュゥゥゥッ。


濁った潮流の中から発射音だけがいくつも聞こえた。

そして急速に接近してくる危険な気配!パルタの命もあと数秒でお終いか?


(これしかない!)


パルタは両手を全開にして海底、自分の足元に向けた。

残り少ないエネルギーを全てつぎ込み、十字手裏剣光線を放った。


パアァァァッ!ドォゥン!


パルタの手裏剣光線の閃光と魚雷の爆発が同時に起こった。

パルタの自爆が魚雷の爆発とぶつかり巨大な大渦を消し飛ばした。

深見小隊長以下の潜水艇部隊は狂ったように暴れる潮流に翻弄され、退避するだけで精一杯だった。


『ぬうう!自爆とは……皆、無事でゴザルか?』

『大事ありませぬ、棟梁!』×7

『それにしても、なかなかやるでゴザルな』


荒れ狂う潮の中で、押し流されそうな船体を押さえつけながら、深見小隊長は水中レーダーに移る画像に目を細める。

巨大なノイズに占領されたモニターで、ノイズの中から大きな塊が分離して浮かび上がっていく。


『あの爆発では自身も相応のダメージを受けたであろうに、その覚悟、敬服いたすでゴザル』


巻き上げられた砂で何も見えない海中だが、深見棟梁、違った小隊長はパルタに向かって敬礼した。

片手で敬礼しながら、もう片方の手でスイッチを三つばかり次々に入れていく。


『しかしそれとこれとは別。弾太郎殿に働いた不貞行為の報いはキッチリ受けてもらうでゴザル』

バシュッバシュッバシュッ!


潜水艇上部から真上に、水中発射式ミサイルが打ち上げられた。

直接にはミサイルの航跡は見えなかったが、他の潜水艇から放たれたミサイルと合わせて21基が水面に達したパルタの影に向かっていくのがモニター上で確認できた。


『3,2,1……』

パァァッ。


暗い青だった海面が白く明るく輝いた。

モニターでは水面から出た時点でパルタの位置は確認できなくなったため、着弾したかどうかわからない。

だが忍者?のカンは水面から飛び出したと同時に直撃したことを確信していた。

それでもパルタが上空に向かって飛び続けていることも。


『さすがは宇宙くのいちを名乗るだけあって天晴(あっぱれ)でゴザル。武運を祈るでゴザルよ』


★☆★☆★☆★☆★

もうこれ以上はないって程の瀕死の状態でパルタはヨタヨタと飛んでいた。

どこかを目指すというより、ただただ上昇し続けているだけだ。

スピードも大したことはない。

だから付近を旋回していた鷲羽小隊長にあっさり見つかってしまった。


「にゃろー、見つけたぜ!」


標的を見つけた鷲羽小隊長、機体をピタリとパルタの背後につける。

気づいているのかいないのか、パルタはひたすら上へ向かって飛ぶだけだ。


「アイツ何考えて?このまま上れば宇宙に出て……あ、まさか?」


上昇を続ければ大気圏外、つまり宇宙空間に出てしまう。

現在は防衛警察の管轄は大気圏内までで、そこから先は銀河パトロール管轄となる。

しかしそれでは防衛警察の手からは逃げられるが、銀パトに確実に捕らえられることになる。


「……逃げ切れねェと考えて、銀パトに保護してもらおーってわけか!そうはさせ……」

『おい、ツバサ。そいつはもういい。他へ回れ』

「何だと?アタシに指図……その声、キョーコか?!」


突然、水を差した通信の声に鷲羽小隊長の顔色が変わった。

女の声、歳は弾太郎たちと同じ20歳前というところか。

落ち着いた声なのだが、少し不機嫌さが混じっているようにも聞こえる。


★☆★☆★☆★☆★

その声の主はルキィとジャンゴがが戦った採石場の近くに設営されたテントの下にいた。

白衣に肩までの髪、ただし!

あちこち破れて汚れた白衣と、櫛も入れたこともなさそうなボサボサ荒れ髪だ。

寝不足なのか、充血した目の下に大きな隈、肌もかなり荒れている。

……磨けば結構な美女らしいが、全てを惜しげもなく台無しにしている。


「そうだ、私だ。そいつにちょっと用がある。ツバサ、お前は弾太郎トコに回れ」

『あいつは私の獲物……って弾太郎の位置がわかったのか?』

「あー、妨害圏の移動解析が終わった。座標とコースは送った。さっさと行け」


本来の鷲羽なら、こんな横柄な物言いをされたらブチ切れるところだ。

だが一瞬だけ間をおいて、少し怯えた声で返答が返ってきた。


『お前が用があるってコトは……まさか、また物騒な実験か?』

「んー?物騒とは酷い物言いだな。開発中の装置のデータを取りたいだけだ」


キョーコと呼ばれた女性はテントの外に目をやった。

外には郵便ポストくらいの大きな電磁石?みたいな装置が4台、極太ケーブルで大型発電機につながれて四隅に配置されている。

その中心には何故かポリタンクが5個、開けっ放しの蓋の中からガソリンの匂いが漂ってくる。


『全機、全速力で退避―――ッ!じゃなくて急ぎ、弾太郎ちゃんを追うぞ!』


ディスプレイ上に転送されたレーダーで鷲羽小隊が離脱していく様子を凶子、狂咲 凶子(くるいざき きょうこ)は不機嫌そうに見つめていた。

この名前は本名だというが、真偽の程はわからない。

その名前のままで小学生の頃には既に、地球最高学府の研究者の一人として名を知られていた。

まだ地球が銀河連邦と接触したばかりの頃、親善使節の一員として派遣され、そのまま宇宙留学生第1号となった。

数年後に地球に戻り研究を再開するだろうと誰もが思っているところに、防衛警官養成学校に飛び込んできた。

その自分勝手で強引な性格からついたニックネームはそのまんま『マッド・サイエンティスト』、二つ名が『移動型天変地異』。

現在は防衛警察科学分析局の開発主任の座に居座っている。


「さて、これでようやく落ち着いて実験できるな。時間はあとどのくらいだっけ?」

『あと50秒だヨ。キョーコちゃん』

「ん、ジンか?すぐ終わる、待ってろ」

『よく来てくれたネ。君だけはここへは来れないと思ってたヨ』


親し気な声にも不機嫌な声で答える凶子は他人に興味のない冷酷な人物と思われることが多い。

だから知己の要請に応えて現場に出向いてきた、と聞けば誰もが驚くだろう。

それが事実ではないことを知っている人間は同期でも数少ない。

ジンや弾太郎はその数少ない『友人』だった。


「ふん、実戦の場で試せる機会は滅多にないからな」

『間に合うノ?あと20秒』

「すぐ終わる、転送開始っ、と……」


4つの巨大電磁石?が異音を発しながら金色に輝き、紫の放電を放ち始めた。

中心に置かれたポリタンクの輪郭がかすれ、歪んでガタガタと震えだす。

開けっ放しの注ぎ口からガソリンがこぼれ出す、そこへ向かって凶子は……。


「着火。3,2,1……」


火をつけたマッチ棒を放り投げた!

この距離で100リットル以上のガソリンに引火すれば!

すぐ近くにいる凶子自身が危険だというのに?

マッチは狙い違わず注ぎ口に飛び込んで、炎がたちまち噴き出した。

炎は瞬きひとつの間に広がり、直後にポリタンクが爆発した!

凄まじい勢いで広がる炎が凶子に迫る。

殺到してくる死の危険を、凶子はつまらなそうに面倒くさそうに見ているだけだった。

そしてポツリとつぶやいた。


「……転送」


瞬間、目の前に迫っていた炎は消えた。

消火したという意味ではない、いきなり消滅してしまったのだ。


★☆★☆★☆★☆★

「し、死んで……たまる、ものか!ま、まだ、私は……」


パルタは消えそうな意識を必死に維持して大気圏外を目指していた。

ここに至っては暗殺任務は諦めるしかない。

それどころか逃亡も不可能だ。

致命傷には至らなかったが、早く治療を受けなければ間違いなく死ぬ。


「こうなれば、わざと銀パトに捕まって保護してもらうしかないわ。この惑星上にいたら確実に……私、殺されちゃう……」


苦しい息の中で真上を見上げる。

仕事も失敗し、組織に逃げ帰る体力もない。

挙句は敵である銀パトに守ってもらうしかない、となれば暗殺者としての信用は完全に失われるだろう。


「二度とこの仕事はできないわね……でも、その方がよかったのかもしれない」


宇宙忍法と暗殺術を教えた師匠が言っていた。

独り言をつぶやくように「お前はこの世界には向いていない」と。

その時は未熟な自分を戒めたのだと思っていた。

独り立ちして、いくつかの仕事(暗殺)を成功させて、それなりの自信をつけたが、結果はこのザマだ。


「努力だけでは越えられぬ相手もいるのだ、か……」


その時は、口にはしなかったが、師匠も弱くなったものだ、と思い込んでいた。

そして(いつかは師匠を超え、あの伝説の殺し屋も超えてみせる)と密かに誓った。

それが遥かに格下のハズの地方惑星警察に後れを取り、再起できないほど打ちのめされた。


(潮時というやつかしら……傷が癒えたら脱獄して、新しい名前と身分を手に入れて、そして……平凡な人生を……過去を知らない平凡な男と結婚して、子供をもうけて……)


意識が混濁してきたせいだろうか。

今まで考えもしなかった未来を思い描いていた。

その妄想にもう少しで手が届く。


(あと少しで大気圏外、惑星警察の権限外だわ)


今にも消えそうな意識は異常に気付いていなかった。

追跡してきた戦闘機が急旋回して離脱していったことに。


(ああ、体が、凍える。寒い。誰か……温めて)

ボゥワッ!


温もりを求める望みが唐突に叶った。

暗くなっていた視界がオレンジ色に明るく輝き、その光が凍えた体を温めたのだ。


(ああ、なんて暖かい…………じゃなくて?熱い?熱チィッ!熱すぎィィィッ!)


パルタは燃え盛る地獄の業火の中にいた!

寸前まで極薄の冷たい空気しかない高空だったのが、荒れ狂う火の海と化していた!


「ギィヤァァァァァッッッ……!」


長く残る悲鳴を残して、火ダルマになったパルタが大空に咲いた炎の薔薇から落下していった。


★☆★☆★☆★☆★


誰もが驚くであろう現象を凶子は平然と見て……いや不機嫌さが倍になっていた。

モニターに示された数字が想定を下回る結果だったようだ。


「爆発エネルギーの転送位置が27メートルもズレたか。まだ精度が全然足りないな。おい、ジン!終わったぞ、私は帰る」

『エッ、もう?敵は……』

「実験対象は上昇から降下に転じた。後はお前らで片付けとけ」

『…………敵は、死んだのカ?』

「知らん。意外とタフな奴のようだから、まあ大丈夫だろう」

『一応、生きたまま確保したいのだガ……』

「レーダー解析では、そこそこ原型が残っているようだったから心配なかろう……聞いているのだろう、超医師(ウルトラ・ドクター)?」

『あのね、狂咲さん。僕の仕事増やさないでほしいんだけど?』


通信の向こうの声は若い、いや幼いといった方がいいだろう。

どう聞いても小学生くらいの男の子の声としか思えない。

しかし彼はれっきとした弾太郎の同期生、年齢も同じなのだ。

彼の名は陽狩(ひかり)趙七郎(ちょうしちろう)、ほとんどラノベかアニメのヒーローの名前だが、これも本名。

ニックネームは『万年小児運賃』、二つ名は『超医師(ウルトラ・ドクター)』怪獣等島にある怪獣病院勤務の怪獣専門医。

ニックネームは常に小学生に間違われる小柄な体格と童顔のせい、二つ名は即死さえしていなければ瀕死の重傷怪獣の患者でも完治させてきた超人的手腕によるものだ。

本来は平凡な防衛警官(おまわりさん)を目指していたのだが、事情により医師の道へと進まざるを得なかった青年だ。


『最近の僕の残業増やしてる原因って、君らなのかい?』

『えーとっ、違うと思うんだけド』

「私は知らん…………弾太郎ではないのか?」


弾太郎の名を口にしたとたんに3人とも言葉を途絶えさせた。

そのまま10秒以上、誰も口を開かない。

ようやく言葉を口にしたのは趙七郎だった。


『弾太郎君なら仕方ないなぁ……』


続けて凶子も。


「アイツは『女神様』だからな」


ジンもまた同意した。


『全く弾太郎が敵方じゃなくてよかったヨ』


お互いの姿は見えないボイスオンリーの通信だが、同時に頷いたのを互いに感じた。

真榊 弾太郎(まさかき だんたろう)、ニックネームは『はずみ(弾み)ちゃん(源氏名ではない!)』、二つ名は『勝利の女神様(いや、男だよね?)』。

養成学校間の対抗戦などで、弾太郎に応援された者は張り切りすぎて、実力以上のパワーを発揮して勝ってしまうことからついた異名だ。

ちなみに『はずみちゃん』の方は弾太郎自身には内緒のニックネームで、地域交流イベントいわゆる文化祭で男女逆転喫茶で、ウェイトレスに扮した時に広がった名である。


「では、私は撤収して研究室に戻る」

『僕も患者の回収で忙しいから、また後で』

『じゃあボクは弾太郎の援護に……必要ないかもしれないけどネ』


通信を切った後、凶子はしばらく考え込んでいた。

帰るといったものの、弾太郎のことが気になった。

別に恋心とかではない、弾太郎のことで気がかりがあるのだ。


「今回は……殺すのか?それともまた、踏みとどまるのか?」


ぽつりとつぶやき、何度も頭を振り、それから装置を片付け始めた。

片付けながら、寂しそうに言葉を続ける。


「皮肉なものだ。我々、不運(アンラッキー)四つ葉(クローバー)と呼ばれる我々4人のうちで『勝利の女神様』と呼ばれる弾太郎が一番、不幸なのだからな」


ちなみに不幸四つ葉最後の一人、ジン・カイザウェルの異名は?

ニックネーム『女の敵』、二つ名が『超最終兵器(リーサル・ウェポン)』。

歴代最高成績の優秀さと女たらしぶりからつけられた名だが、つまらなすぎて4人中一番地味な野郎といわれているらしい……

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