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VSジャンゴ!プロの極意を見せろ!!

朝の大人気特撮番組『仮面ファイター・ブシドー』撮影スタッフを乗せたライトバンは、曲がりくねった山道を出せるだけのスピードで走り続けた。

ガタン、ガタンと揺れまくる車内で男たちは小さなモニターに見入っていた。

カメラマンがパソコンで何かを操作し、他のスタッフが後ろからのぞき込んでる。

狭い車内でスーツアクターの二人が身を乗り出してきた。


「おい、どうだ?何か映ったか?」

「せかさないでよ、ブシドーさん。ドローンの操縦は専門じゃないんだから」


通常ならドローンを操作できる距離ではないのだが、電波中継器(リレー)をいくつか積んできていたのが幸いした。

後のことなど気にせず逃げるべきなのだが弾太郎たちのことが気になって、残してきたカメラとドローンの遠隔操作を試みることになった。

山道の途中途中に中継器を置きながらここまできた。


「お、映った。ドローンもカメラも動くぞ」

「おう。で、どうだ?弾太郎君たちは無事か?」

「慌てないで、ブシドーさん、まずドローンを上に……って?なんじゃこりゃあぁぁぁっ!」


カメラマンの素っ頓狂な大声にスタッフ一同、耳をふさいだ。

運転手までハンドル離して耳ふさいだので、崖下にもうちょっとで落ちるとこだった。

とりあえず監督がカメラマンを押しのけてモニターをのぞく。


「ったく、何が映ったってんだよ……ノワアァッ!?」

「って監督まで何を……ヒェェェッ!?」「ウェェェツッ」「ヒャアッ?」


モニターをのぞいた瞬間に誰もが驚きの表情で固まっていく。

固まってしまったスタッフたちの頭の間から、仮面ファイター・ブシドーとキシドー(のスーツアクターたち)ものぞき込んでみると。


「おいおい、皆どうした……オオッ?」

「師匠……か、怪獣ですよ!ホンモノの!!」


やっぱり固まった。


★☆★☆★☆★☆★

「小娘よ。正直、お前を見くびっていたぞ。大したものだ……素人にしては、だがな」


ジャンゴはうっすらと笑みを浮かべ、まだまだ余裕があるかのように振る舞う。

内心ではかなり焦っているのだが、それを気取らせないのはさすがプロというところか。

対するルキィは焦っているのがまるわかりだ。

チラチラと空を、ルパルスが飛び去って行った方角を見ている。


(ルパルス殿下が気になるか)

(目の前の俺様に集中できていないな)

(ならばつけいる隙はある)

(勝負を引き延ばして……)


「ジャンゴさん、すいません!」

「えっ、何……」

「時間がないんでコレで死ん、倒されてください!!」

グオッ!


風を切って鋭い突きが繰り出された。

空手でいえば貫手、しかも指先にはさっきまではなかった黒い大きな鍵爪が出現している。

この爪は地底棲息怪獣であるルキィが硬い岩盤を掘削するためのもの。

当たれば体に穴が開く、どころか大抵の敵は真っ二つになる!

間一髪、後ろに飛び下がったジャンゴは鋭い爪を躱すことができた。


「フッ、なかなかの威力だが当たらねば、そよ風と変わらんな」

(あ、あっぶねー?マジ殺されるとこだったぞ!しかも『死んで』って今、いいかけたぞ?)

「さすがプロですね!()っ……じゃなくて、倒したと思ったのに……」

「プロをなめているな、小娘よ」

(今度は『()った』っていいかけたぞ!警官がそんなんでいいのかよ、オイ!)


ジャンゴは怯えていた。

『殺し屋なのに殺されかけてる』という状況に心底恐怖していた。

それでも逃げ出さないのがプロのプライド、というより意地なのだ。


「いいだろう、本物の暗殺者の神髄をみせてやるぞ、小娘」

「あのですね、ジャンゴさん。ちょっといいたいんですけど」

「なんだ、小娘?」

「さっきから、人のコトを小娘、小娘って……」

(ああ、なるほど。小娘あつかいされたのが頭にきたのか、ならもっと挑発して)


にやりと笑ったジャンゴが口を開きかけた。


「小娘、それがどうし……」

「小娘って……割と小柄ってことですよね!」

「…………ハァッ?」

「私、そんなにおっきくないですよね?体重5万トンもなさそうなくらい小さいですよね?」

「えっ、いや。それくらいはありそう……」


いいかけてジャンゴは停止した。

すがるような目に(お願い、『デカイ』」とか『ごっつい』とか『ウルトラスパーヘヴィ級』とかいわないで)という悲し気な思い。

その裏に潜む恐るべき殺気(もし一言でも言ったブッ・コ・ロ・ス!)が彼を停めた。


「貴様のような、ちっぽけで痩せっぽちで小柄な小娘に見せる技ではないが……」


自分が既に屈していることにジャンゴは自分では気づいていない。

それでもプロの体裁は崩さない、というのだけは立派なものなのだが。

そしてジャンゴの体が白く柔らかく変化した。

しかし……さっき敗れたばかりの超柔軟体への擬態だ。

その体が呼吸の度に、風船のように大きく膨らみ始めた。

たちまち倍以上の背丈と10倍の体格以上の巨体に膨れ上がった敵の姿をルキィは呆気に取られて見上げていた。


「な、何をする気なんです?!」

「我が究極の奥義を見せてやろう。冥途の土産にするがいい」


膨れ上がった肉に半ば埋もれたジャンゴの顔が不気味にニタリと笑う。

さっきまでの及び腰のジャンゴではない。

必勝必殺の自信にあふれた本物のプロフェッショナルの姿であった。


★☆★☆★☆★☆★

走り続けるライトバンの中で、撮影スタッフは怪獣戦争を映すモニターに釘付けになっていた。

仮面ファイター・ブシドーがポツリとつぶやく。


「妙な技使うらしいな、こっちの芸達者の怪獣は」

「うーん、大丈夫ッスかね、師匠?こっちの赤いの、えっとルキィさん……でしたっけ?」

「まぁー、大丈夫だろ?芸達者怪獣も弱くはなさそうだが、あのお嬢ちゃんとは格が違う」


ブシドーと騎士道のスーツアクター師弟会話を聞いていた全員が怪訝な顔で二人を見た。

代表して撮影監督が一応聞いてみた。


「おい、ブシドー?ちょっと」

「なんですか、監督?」

「その……今、そっちの赤い怪獣のコト、ルキィさんて?」

「ん?ああ、監督もさっき会ったろ?弾太郎君にくっついてた赤髪の娘……」

「ちゃんと覚えてるよ!あの娘がこの大怪獣だってのか?」


ブシドーはちょっと首を傾げた。

キシドーの方を向いて、何が通じたのかわからないが互いに頷きあう。


「ルキィさんっスよね、師匠」

「ああ、ちょっとばかし体格変わったみたいだがな」


監督も他のスタッフも開いた口が塞がらない。

逆にブシドーたちは皆が『わからない』というのが理解できないようだ。


「……なんでわかるんだよ、お前らは」

「なんでって……ちょびっと外見変わったくらいで見分けられないんじゃあ」

「俺ら着ぐるみ役者(スーツアクター)なんてやってられませんよね、師匠」


この問題はこれで決着が着いた。

これ以上話し合っても相互理解の可能性はなさそうなので、全員で黙って観戦することにした。


★☆★☆★☆★☆★

ジャンゴが息を止めた。

攻撃がくるのか?

ルキィは警戒のあまり打って出ることをためらった。

この時、ジャンゴの体は直径200メートル近い巨大な風船と化していた。

敵が必勝パターンに嵌ったことを確信し、ジャンゴは最後の一手を差した。


「はぁぁぁッ……ハッ!!!」

ブァッ!


吸い込んだ大量の空気を地面に向かって一息で吐き出した。

地面が深く抉られるほどの勢いで、解放された空気の塊は爆発のように土砂を巻き上げた。

粉塵と化した土砂で全方向の視界が閉ざされるほどに。


「!?何も、見えない?目くらましが狙いですか!」


視界を奪われたルキィは咄嗟に両目を閉じ、耳と肌の感覚に全神経を集中する。

ルキィは地底に棲む怪獣、視界を奪われたくらいでは動じたりはしない。

もし視覚を封じるのが狙いなら完全に的外れな戦術だった、しかし?


「変ですね?動きが全然ありません……」


ルキィの耳は敵の発する音を捉えていない。

肌に感じる振動にも向かってくる気配がない。

暗殺者が完全に気配を絶ったとしても、攻撃の気配があれば絶対に見落とすことはない。

視界を奪う土砂の煙幕はあと数秒で効果を失う、なのに敵の動きがない。


「何を考えて……いない?」


煙幕は晴れた、だがジャンゴの姿がどこにもない。

空を飛んで逃げた?否、空中にジャンゴの姿はない。

物陰に隠れた?否、空気中にはそれらしき音も匂いもない。

地中に潜んでいる?否、地面の下でルキィの感覚を誤魔化すなど絶対に不可能だ。

逃げてはいない、すぐ近くにいる!

それは確信できる。

ならばジャンゴはどこに潜んでいるのか?


(戸惑っているな、小娘……フフフ)

(この状態の俺に気配は存在しない)

(どこにいるのかわかるまい?お前が武術の達人だった、としてもだ)


ルキィのすぐ近くにジャンゴはいた。

逃げたわけでも、隠れているわけでもなかった。

ルキィの堂々と目の前に姿を晒し、それでいてそれがジャンゴであるとわからない。


(それこそが俺の擬態術の真骨頂。体温、心音、生体反応……どんなセンサーにもどんな感覚にも捕捉不可能。擬態術奥義『非在(あらず)』一度として敗れたことのない俺の切り札よ……)


ジャンゴの目の前で、体温も感じるほどの距離なのにルキィは気づかない。

見失った敵の姿を求めてキョロキョロ、ウロウロするばかりだ。

その無様な様子を見てジャンゴはほくそ笑む。


(未熟な小娘よ、生殺与奪の権は俺だけにあるのだ)

(このまま諦めて立去るなら見逃してやろう)

(だが、近づいてきたなら、その時がお前の最期……えっ、何なの?)


ルキィがこちらに近づいてきたのだ。

それも迷いながらではなく、ジャンゴに向かって真っすぐに、だ。


(ば、馬鹿な?俺の完璧な擬態を見破ったはずはない!)

(偶然だ、偶然に決まってる!)

(落ち着け、落ち着くんだ、俺!)

(動揺したら擬態が解けちまう!)


必死に平静を保とうとするジャンゴに、ルキィはズンズンズンと近づいてくる。

そのルキィの表情を見てジャンゴは再びほくそ笑む。

ルキィの戸惑いの表情はそのままだ、見抜かれたわけではない。

こちらへ来たのは偶然に違いない。


(運の悪い小娘だ。気づきもせずに自分から近づいてくるとは)


そしてルキィはとうとうジャンゴの目の前に来てしまった。

ジャンゴが腕を硬化させて突き出せばルキィの心臓を貫ける。

それならコンマ5秒もかからない。


(お前のような小娘の命を奪うのは気が引けるが、これも……なっ?)


殺気も闘志もないまま、ルキィが手刀を頭上に高々と振り上げたのだ。

まるで瓦割新記録に挑戦する空手家のように。


(う、嘘だろ?!見破ってもいないのに?)


そして太く強力な腕から想定外の威力で、空手チョップがジャンゴの脳天に振り下ろされた。


★☆★☆★☆★☆★

ルキィが目に留めたのは、なんらおかしなところのない岩山だった。

大きさはルキィよりちょっと大きい程度、見回せばそこらにいくらでもある無機質な岩の塊だ。

用心して耳を澄まし伝わってくる振動に感覚を研ぎ澄ます。


「何もありませんね……違ってましたか」


生物が化けているなら、見かけは無機物でも心音が、体温があるはず。

この距離でそれら生命反応の数々をルキィが見逃すはずはない。

間違いなくただの岩だ。

だが、ただの岩山にルキィは近づいていった。


「やっぱり、ただの岩ですねぇ?しかし、そうなると……ジャンゴさん、もう逃げちゃったんでしょうか?」


考え込みながらルキィの手が高々と上がる。

指を伸ばし指先を揃えた手の形は奇しくも空手の手刀と同じ。

特に気合を込めるわけでもなく、ただ振り下ろすだけ。


岩山両斬波(がんざんりょうざんは)!」

ゴワッ!


某少年漫画の必殺技の名をパクった、ただの空手チョップだ。

ただし!そのスピードと威力は、超破壊的かつ超殺人(殺怪獣?)的だッ!!。

ただの岩山など真っ二つになる威力に触れる寸前、岩山は脱兎のごとくピョンと跳んで逃げた!

漫画必殺技モドキの威力で、地面スレスレで止めた手刀の下で大地が割れた。

生じた地割れはそのまま数百メートル先の断崖まで伸びていき、ガラガラと崖崩れを起こしていった。

一方、逃れた岩山は2,3度飛び跳ねて着地、その場でブルブルと震えはじめた。


「???なんでフツーの岩が勝手に飛び跳ねるんですか?」


ルキィは不思議そうに岩山だった物を見つめた。

その岩山は今やグニャリと形を歪めて、四肢を持つ別の生物へと姿を変えていく。

側面に浮かび上がってきた顔は紛れもなくジャンゴの顔だ。


「エーッ?!あの岩がジャンゴさんだったんですか?」

「って?お前、気づいてたんじゃなかったのか!!」

「あ、全然わかりませんでした!やっぱりプロってスゴイですね!!」


褒められたジャンゴだが、とても喜べない状況だ。

危うく体を真っ二つにされるところだったのだから。


「わからなかった、だと?な、ならば、なんで?俺を攻撃……」

「なんか岩山が増えてるな、と思ったんで。とりあえずひとつ砕いとこう、って」


ジャンゴの顔色が灰色から青に、そして紫色に変わる

バレるとは思ってなかった。

同じような岩山がここにはいくつもあったからだ。


「そうか、まさか、初めてきた場所の地形を覚えているとは……」

「いえ、全然覚えてませんでしたけど」

「じゃ、じゃあ、なぜ?」

「えっとですね……ジャンゴさんがどこにいるのか全然わからなかったんで……八つ当たり?」

「そんな理由で?そんな理由でお前は環境破壊するのか!」

(この小娘はアホだ!)

(武術の達人かもしれないが、アホだ!)

(常識が通用しないんじゃない、そもそも常識がないアホだ!)


ジャンゴはどういえばいいのかわからなくなった、頭も痛くなってきた。

しかし最も得意とする技を破られたことに変わりなく、勝ち目を失った現実がのしかかってきた。


(だがプロの暗殺者の名に懸けて!敗北は認めん……)

「よかろう、小娘。最強の奥義を見せてくれる!」

「って、さっきの岩に化けるのが奥義っていってましたよね?」

「さっきのは『究極の』!で、これから出すのが『最強の』なの!」

「ナルホド……」


なんとも見苦しい言い訳だが、ルキィは納得したようだ。

……全然わかっていないらしいが。

ルキィがとる構えは、最大の破壊力を持つ打技『竜巻』……


「では、こちらも今使える一番の技でお相手を……」

「フフフ、よかろう。存分に来るがよい……」

(ひょっとして俺、自分で自分の死亡フラグを立てた?)


地球人風にいえば『目の前に死刑台が見えた』状態のジャンゴ。

だがプロは決して諦めたりしない。

彼にはまだ、たったひとつだけ試していない手段があった。


(アレだ、アレをやるしかない!!!)

「では冥途の土産……」

「あ、冥途の土産ならさっき頂きましたけど……」

「冥途の土産パート2だよ!黙って見てとけ!」


今度のジャンゴの肌は赤く、岩のようにゴツゴツした感じに変化していく。

体格はさほど変化しないが……擬態したその姿を見たルキィは驚愕した。

赤い目、ずんぐりした体格、太い腕と足、細長い尻尾……


「その姿は!?」

「そうだよ、小娘……お前というわけだ」


擬態したジャンゴの姿は、ルキィ自身の姿であった。


★☆★☆★☆★☆★

「師匠!この変な怪獣、ルキィさんに化けましたよ!」

「うーん、確かに化けてる……つもりなんだろうな。どう思います、監督?」


後ろから見ていた監督たちにブシドーは一応、意見を聞いてみた。

といっても答えは最初からわかっていたが。


「どうって。まあ、偽物のセオリー通りかな?」

「うん、やっぱ偽物はこうでなきゃね」

「いや、偽よりメカの方がいいと思うぜ」

「うーん、メカルキィたん?フィギュア化してみてもいいな」


……違う方向へ話が進んでいた。

感覚が世間様とズレているのはブシドーたちだけじゃなかったようだ。


★☆★☆★☆★☆★

怯んでいる、己自身の姿を目前にしてルキィは明らかに怯んでいる。

ニセルキィ(ジャンゴ)が一歩前へでれば、本物のルキィが一歩下がる。

その表情は困惑と怒りに満ちている。

ジャンゴは心の中で成功を確信する。


(戸惑っているな?)

(自分自身と戦う、なんて普通は考えもしないもの)

(どこをどう攻めれば、どう守ればいいかわかるまい)

(お前は完全に俺の術中に嵌ったのだ!)


実はジャンゴの擬態はあくまで外見を真似るだけのもの。

相手が持っている能力や、身に着けた技までコピーすることはできない。

つまり…………ハッタリなのだ。


(バレたら一巻の終わり。だからこそ大胆に思い切って、だよ。小娘)


思い切って、ずいッと顔を近づけた。

生暖かい息がかかるほどの距離でルキィは顔をしかめる。


「さぁ、どうする?小娘……アギャッ?!」

ズドォン!


ルキィの強烈掌底がニセルキィの顔面に炸裂していた。

『顔に手形がつく』なんてカワイイものではない、頭蓋が手の形に陥没している!

半開きになった口からいくつもポロポロと落ちるのはへし折られた牙だ。

血だか唾液だかわからない液体を口から垂れ流しながら、ニセルキィ、いやジャンゴはフラフラと後退する。


「な、なぜ、どうして?躊躇いもなく……」


ダメージ以上に動揺したジャンゴはルキィを見てギョッとした。

凄まじい怒りを感じた、さっきまでの混乱と躊躇いはまったくない。

100%の怒りだけだ。


「…………私の目は、そんなに……吊り上がってません!」

「えっ?あ、あれ?」


慌てて顔を触って目元を確かめてみる。

確かに目つきが本物より悪くなってる。


(ど、どうして間違えた?あっ!この小娘ずっと俺を睨んでるから?目つきの悪さ強調しすぎた!)

「それに目の下に変な隈、これ見よがしに!」

(目の下に隈?ああっ、ルパルス殿下に振り回されて、ここんとこロクに寝てないから!)

「私はそんなブサイク面だってワケですね……」

「違う!これは!」

「それから……」

ドゴォッ!ミシミシミシ……×2


ジャンゴは左右の耳に同時に響く不快な打撃音と、何かが潰れていく嫌な音を聞いた。

恐る恐る目をやると、ルキィの両手が肩口に振り下ろされ、鎖骨を叩き折っていた。

打ち下ろされたパワーの衝撃で、ジャンゴの足の下の大地が大きく陥没している。

やがて、筋肉が潰れ、足首・膝・腰・背骨の関節が破損する激痛が5秒遅れで襲ってきた。

絶叫が喉を突いた。


「アンギャァァァァァ…………ッ!」

「私の肩はそんなに尖ってません!」


本来なら大量の筋肉で丸みを帯びているはずの肩が反り返って尖っていた。

どうやら再現すべき筋肉量が多すぎて、ジャンゴ自慢の変形細胞が足りなくなったらしい。

まともに立っていられなくなり、膝をつくジャンゴをルキィが傲然と見おろしている。


「ウッウウッ……」

「そして、これは……」

「ウウッ、まだ、なにか、あるの……か?」

ブァキィィッィッ……ギリギリギr。


ジャンゴの爪先をルキィの足が踏んづけた、いやいや、踏み潰し踏みにじった。

立体から平面にされた自分の足を見ながら、ジャンゴは今度は声を立てなかった。

正確には息もできない激痛に、声など出せなかった。


「そして最後に、これは……」

腰を落とし右腕を後ろに引いて正面掌底突きの発射体勢。

照準は胴体、いや心臓のあたりか?とどめを刺すつもりだ。

ジャンゴはハッとして自分の胴体を見る。


(さ、最後は何が?あ、こここ、これは!)


胴体にリベットっぽいブツブツが規則正しく並んでいた。

これは擬態に失敗した……のではない。

他の暗殺者と組んで仕事をする時、暗殺対象に擬態した場合に仲間に撃たれないよう、本物と違いをひとつだけ作っておくのだ。

その癖が無意識に出てしまっていた。


「これは、これは…………ふとっちょさん呼ばわりされた私の怒りです」

「え?いや、肉付きは結構リアルに……い、いや、今のナシッ!」


手遅れだった。

ルキィから噴き出す怒りのオーラが炎から業火へと拡大した。

ジャンゴへの『制裁』が『死刑』へたった今、確定したのだ。

ルキィの輪郭が霞んだ。

デフォルメされた真っ赤な影が自分の胸板に収束するのが、ジャンゴが最後に見えたものだった。

次の瞬間にはルキィの影が、錐もみ状態で自分から急速に離れていくのを見た。


(あ、そうか。俺の方が、超スピード回転しながら吹っ飛んでいってるんだな)


自分でも驚くほど冷静だった。

車輪のように回転する手足が、頭が、地面や岩肌に触れるたびに削り取っていくのを感じた。

背中に岩山が触れた、触れたとたんに肉体は岩山を貫通していた。

その調子でいくつの岩山を貫通しただろう?

最後にひときわ大きな岸壁に激突した。

ジャンゴの体は硬い岩にめり込み、ほとんど平面になるほどひしゃげて停止した。

もしジャンゴのような柔軟な細胞の怪獣でなければ、確実に即死していただろう。

今度こそ完全に動かなくなったことを確認して、ルキィは駆けだした。


「やっと終わりましたぁ……早くダンタロさんに追いつかないと!」


★☆★☆★☆★☆★

モニター越しに決着を見せられた男たちは感嘆の情を禁じ得なかった。


「すっげぇーな、あの赤い怪獣……」

「あれがホントにルキィちゃんなのか?」

「モノホンの必殺技ってあーゆーのをいうんだなぁ」

「ああ、『必ずブッ殺す技』としか言いようがないぜ」

「おい、それより弾太郎君はどこだ?」


ブシドーに言われてカメラマンが撮影ドローンを飛び回らせる。

だがルキィ以外は誰も見つからない。


「ダメです。飛ばせる範囲にゃ誰もいません」

「そうか。避難できていたならいいんだが」


ブシドーは腕組みして考えた。

といっても彼らにできることはない。

そうしているうちにキシドーがとんでもないことを言い出した。


「師匠、巻き込まれて踏みつぶされちゃった、なんて」


全員の顔から血の気が引いていく。

怪獣同士の戦いの場に普通の人間が巻き込まれれば、どうなるか。


「いや、それはないだろう……多分な」

「なぜ、そう思うんです。師匠?」

「…………俺のカン、だ」


そういってブシドーは傍らに置いてあったタバコを手にし、スーツ(着ぐるみ)を着たままじゃ吸えないのを思い出して、ちょっとしょんぼりした。

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