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男たちの哀歌

大の男が精神(こころ)を打ちのめされ、絶望し、涙を流す。

顔面クシャクシャの衝撃清掃社長の口から意味不明の苦し気な言葉が漏れる。

見ているだけで気の毒になる、悲哀と絶望の顔、そんな顔が18人分もあるのだ。

あまりの悲惨さに弾太郎も思わず声をかけた。


「あ、あの、皆さん。僕が言うのもなんですけど、気を落とさ……」

「ううっ…………あんまりだ……」×18

「?!?!?!!!ッ」


何かがおかしいッ!何かがヤバいッ!

目の前の、うらぶれた中年おじさんたちから考えられないほどの強烈な悪寒を弾太郎は感じた。

思わず身構え、背後のルパルスを庇おうとするが……遅かったッ!


「違う?危ないのは…………僕なのかッッ!?」

「あーんーまーりーだぁぁぁっっっ!!」×18


悲しみと絶望に満ちた視線が集中したのはルパルスではなく弾太郎!

正体不明の悪寒は即座に確信的嫌悪感に変じた、そして同時に圧倒的危機感も押し寄せる!

衝撃組の面々が泣き叫びながら、手にした銃を乱射し始めたのだ。


「う~~ううう あんまりだ…」

「あ、あの、皆さん!少し落ち着い……?」

「HEEEEYYYYあァァァんまりだァァアァ!!」

「なっ?????」


鳴き声、というか何だか擬音めいた発音が混じってきた。

人間の声帯から絞り出したかも疑わしいくらいの効果音だッ!


「AHYYY、AHYYY、AHY、WHOOOOOOOHHHHHHHH!!」

「な、何なの?い、一体?」


もう泣き声じゃねぇッ、鳴き声だ、遠吠えだッッッ!

『俺は人間をやめるぞ!ジョ〇ョ―――ッ!』ってレベルの、正体不明の魔獣の遠吠になっているッ!!


「おおおおおおれェェェェェたぁちぃのォォォォォぱぁんつゥゥゥゥゥがァァァ~~~!!」×18

「って、あなた達のパンツじゃ……うわぁっ!」

バヂィッ!ビシュッ!

「おっ、ととト?」


弾太郎の足元に放電銃が炸裂し、ジンの金髪を熱線が掠めする。

焦げた匂いが鼻を突き、湧き上がる熱風が肌を炙る。

その時、ジャンゴとパルタが衝撃組とルパルスの間に割り込んできた。

獲物を横取りされかけた怒りはすさまじく、物凄い形相で相手を睨みつけている。


「何すんのよ、私の獲物よ!」

「田舎惑星の田舎ギャングがごときが!」

「あー、あんたらもヒットマンなのか?じゃあ、コレでも使いな」


副社長が彼らに手渡したのはサッカーボールサイズの黒く丸い物体。

見慣れぬ物体だが、ジャンゴは頭にクエスチョン・マークを浮かべながら受け取った。


「なんだ、これは?……ん、紐がついているな」

「紐の先に……火ついてるわね?」


紐の先には火花を散らして燃える火がついていた。

地球人だと漫画の類で見慣れた代物だが、宇宙からやってきた二人には未知のシロモノだ。

紐はやがて燃え尽き、火が丸い物体に達した。


どっかーんッ!

「うわーっ!」「ひえぇーっ?」


爆発で天高く吹っ飛ばされた殺し屋二人組はそのままどこか遠くへ消えていった。

押し寄せる爆風と爆煙からルパルスを守ろうとする弾太郎。

その弾太郎の前で盾になろうとするジン。

さらに前に出たのが着ぐるみルキィだ!


「ダンタロさんジンさん!私の影から出ないで!」

「ルキィさ……」

ヒュンッ!ヒュンッ!


熱さで目も開けていられない、薄目がやっとの視界でわずかに見えたのは。

爆炎に向かって目にも見えないほどのスピードで掌底を連打するルキィの姿だ。


ヒュッ、ヒュッ、ヒュッヒュッヒュッ!!


炎も衝撃波も彼女の数十センチ手前で左右に切り裂かれ、弾太郎の両脇を駆け抜けていく!

打技「裂波」の連打。

本来なら数に任せて押し寄せる敵を制圧するための、手数重視の高速技だ。

わずか10秒にも満たない時間。

爆炎爆風が通り過ぎ、静寂の到来とともにルキィの両腕が静止する。


「ヒュゥーウーゥゥゥ……」


肺の中の空気を絞り尽くして荒ぶる呼吸を、ルキィはたった一息で整えた。


「大丈夫ですか?ダンタロさん」

「ああ、助かったよ。ルキィさん」


ようやく一息ついて、弾太郎は立ち上がった。

爆心の間近でありながら、弾太郎もジンも、当然ルパルス王子も無事だった。

少し離れた位置にいたハイエン侍従長だけ爆風の勢いですっ飛ばされて、連絡艇までコロコロ転がっていってしまった。

逆さまの姿勢で情けない声ではあるが、それでもルパルスを気遣う言葉絞り出す。


「だ、大丈夫でございますかぁ?殿下ぁ……」

「ああ、安心して。傷ひとつ、埃ひとつないよ。それより」


ルパルスが晴れてゆく煙の向こう側をにらむ。

そこには衝撃組全員がこちらを向いて整列し、さわやかな笑顔を浮かべているではないか。


「ふーっ、スッキリしたゼ」×18


スッキリ……っていう擬音が入りそうなくらい清々しい笑顔だ。

それがますます不気味さと恐怖心を煽り立てる。

爽やかで穏やかな笑顔を浮かべた社長が一歩前に出た。


「俺たちゃ他の清掃業者と比べるとチト荒っぽい性格でな」

「いや、清掃業者というのとは違うと……」

「激高してトチ狂いそうになると泣きわめいて頭を冷静にすることにしているのだ」

「こんな危険な泣きわめき方がありますか!!」

「お、ちょと見直してくれたか?お嬢ちゃん」

「僕は……お嬢ちゃんじゃありませんってば!」


言葉に詰まる、もはや弾太郎のツッコミさえ届く相手ではなかった。

だが真の恐怖はここから始まるのだ。

彼らは爽やかな笑顔のまま、ゆっくりと弾太郎たちを取り囲み確実に仕留めようとしている。

……などという生易しいものではなかった。


「クックックッ、諦めな」「逃げられねぇぜ?」「最期だ……」

「もし助かりてぇってんなら…………」

ゴクリ…………

「アンタには……我が社専属のお茶汲みになってもらおうか!」×18

「イヤです、絶対イヤッ!!」


あまりにおぞましい言葉に、弾太郎は思わず耳を塞いで怒鳴り返した。

弾太郎の悲鳴を耳にした彼らは……笑った、唇の端を吊り上げ、喜びにあふれる顔で。

その中でもひときわ不気味なオーラを放つのが社長だ。


「まあまあ、そう嫌がるな……お茶くみが嫌なら俺の、ひ、秘書に……」

「親父、何考えてるんだよ!」


副社長である息子が不機嫌な顔で社長を止めようとする。

ちょっと照れくさそうな赤ら顔の父親に、流石に危ういものを感じたのだろう。


「親父は……死んだ母さんにを生涯愛し続ける』って誓ったんだろ!ここは、俺の……嫁ってことで」

「ケッ、お前みてぇな青二才に任せられるか!」

「なんだと、親父こそいい年齢して、恥ずかしくないのか?」

「フッ……今こそ青春を取り戻す時が来たってことよ」


耳に入れたくない会話に弾太郎は震えた、マジおぞましさにガタガタと震えた。

ルパルス王子暗殺という凶悪な目的が、いつの間に弾太郎の身請け話にすり替わったのか?

震える声で、詰まる声で、引きつるような声で、弾太郎は必死に訴えた。


「ぼ、ぼぼ、僕は男、なんですよ!」

「男だったらなぁ……細けぇことをグダグダいうな!」

「まったくだ、男らしくないぞ!」


社長と副社長に一蹴された、『いってもムダ』というが、これほどとは!

言葉を失って蒼白になる弾太郎、だが彼には頼もしい援軍がいた!


「いいえ、ダンタロさんには指一本触れさせません!」


先頭に立つゴズラ着ぐるみルキィがボクシング風ファイティングポーズと軽やかなステップで、尻尾を揺らしながら威嚇する。


「フッ……我が親友を貴様らの魔の手には断じて渡さなイ!」


ジンが金色の前髪をかきあげ、2丁の麻痺銃を構える姿はまさにイケメン・ガンマン!


「クククッ、下賤な者どもよ……分をわきまえぬ高望みを後悔するがよい!」


ルパルス君、それ悪役の……それ以前に君が狙われてるはずなんだけど?

にらみ合う衝撃組とルキィたち、後ろから見ているハイエンさんがやっぱりオロオロしている。

ギリギリの均衡!だがそのバランスが崩れようとしている。


「ま、まずいですぞ、殿下!あいつらが戻ってまいりますぞ!」

「あいつら?……ああ、ジャンゴとパルタか」


ルパルスはヒョイと伸びをして衝撃組包囲網の向こうを見た。

こっちに向かって全力疾走してくるジャンゴとパルタの姿が見えた。

爆弾で遥か遠くまでぶっ飛ばされたワケだが……煤まみれの真っ黒な顔に怒りの表情で迫ってくる。


「よくもやってくれたな、クソ辺境惑星のクソギャングの分際で」

「銀河最強の殺し屋の技、とくと味わいなさい!」


ボロボロになった服を破り捨てながら意味不明の悪態を叫びながら近づいてくる。

猛烈な殺気の接近にルキィも気づいて顔を曇らせる。


「マズイですねー。このままじゃ衝撃組の皆さんまで……」


ジャンゴたちは擬態解除体勢に入っている。

ルキィが擬態加除する前に怪獣態に戻って巨大化し、一気にルパルス王子を踏みつぶすつもりだ。

当然、周りにいる地球人も含めてだろう。

しかし衝撃組の面々はまだ危険に気づいていない。

弾太郎も気づいたが、警告しても聞き入れてくれるかどうか。


「あの、社長さん?危険です、逃げて……」

「クククッ、ここで逃げたらオトコじゃねぇよ。なあ、バカ息子?」

「馬鹿親父は引いてもいいんだぜ。フッフッフッ」


社長と副社長のダブル含み笑いに背筋が凍った。

明らかに二人の、いや取り囲む全員の目に狂気が宿っている。


「そういや、男の娘だっていうけどよ」

「まぁだ確かめてねぇよなぁ?」

「こいつぁキッチリ確かめなきゃなぁ……」


もうルパルスは完全に無視されていた。

獰猛な餓狼の群れの目に映っているのは弾太郎だけだ。

それも暗殺の標的でなくセクハラ対象として。


「ど、ど、ど……どうすれば」

「ホッホッホッ、お困りかね?坊や」


聞き覚えのある声が耳元でした。

反射的にそちらを向くと……その場にいるはずのない人物が弾太郎と並んで立っていた。


「ふ、福 櫂緒(ふく かいお)?さん……えっ、エッ?」


ホテルまで押しかけてきて弾太郎にメイド服を着せた張本人!

超高級ブランドKO-FUKUオーナーにして最高齢トップ・デザイナー、福 櫂緒の姿があった。


「……確か仕事の都合でニューヨーク行きの飛行機に……」


無意識に手を伸ばして福 櫂緒の袖に触れようとする。

しかし弾太郎の手は袖どころか、福 櫂緒の体を通り抜けてしまった!

その様子はジンやルキィにも見えたらしい。


「ゆ、幽霊さんですか?まさか櫂緒さん、死ん……」

「違うゾ、ルキィさン!これは……本人じゃなイ。これは……」

「左様、大裁縫『於之御呂(オノゴロ)』!……坊やのメイド服に宿るワシらの残留思念じゃ」


とりあえず、大裁縫『於之御呂』とは?

創業以来のモットー『お客様のために糸一本にも真心込めて』を極めたKO-FUKUブランド最大の秘奥義!

その境地に到達した者の縫い上げた逸品は繊維一本一本に魂が宿り、如何なる苦難からも着用者を守り、輝かせる無敵のファッションになるという!…………それってホントに洋服なのか?

人間離れしたバアさんだと思われていたが、マジで妖怪レベルの人外ババアだったらしい。


「少年よ、私の作ったヘッドドレスを使え」


弾太郎の背後から不機嫌そうな中年女性の声!

『強靭』龍書 文子(たつがき ふみこ)さん……の残留思念だ。


「えっ、龍書 文子さんまで?」

「早く投げるのだ!」

「は、はい!」


いわれるまま弾太郎は頭のヘッドドレスを外し……投げた!

手を離れた瞬間、白いフリルのヘッドドレスは銀光の半月と化した。

一筋の光となり美しい弧を描いて、武器を携えた衝撃組の男たちの間を飛ぶ。


「なんだなんだ!」「お、俺の銃が斬られ……?」

シュバッ、シュバッ、シュバッ!


手にした機関銃が、ビームライフルが、グレネードランチャーでさえ真っ二つになって地面に落ちた。

敵の武器を掃討し終えたヘッドドレスは弾太郎の頭にカシン、と音を立てて戻った。


「……これって武器だったの?」

「左様!これぞ名付けて必殺・ヘッドドレスラッガー!」

「技名まであるんですか?」


横でふんぞり返ってる龍書 文子さんが堂々宣言。

そしてかき消すようにいなくなり、代わってルキィのそばに現れたのは。


「……お困りですか、お客様?」

「あれ、てんちょーさんも?」


目の下に濃い隈こしらえたKO-HUKU店長がにこやかな笑みを浮かべていた。

疲れ切った目とハリのない肌が昨夜の強制労働の凄まじさを物語る。

コイツはそーとーな暗黒(ブラック)企業だ!


「しかし、もう間に合いそうにありませんよ?てんちょーさん」


敵は既に擬態解除の体制に入っている。

ジャンゴもパルタもカードらしきものを手にし、勝利を確信する笑みを浮かべている。

擬態解除補助アイテムであろうカードを見て弾太郎は首を傾げた。

そして抱いた疑問に回答してくれたのはルパルスだ。


「えっと……あれは……?」

「ジャンゴのはギャラクシー鉄道トリプルナインの復刻版定期です」

「それってアニメの?」

「で、パルタさんのはクレジットカードです」

「なんでそんなのを?!」

「肌身離さす持ってるからだそうで……どうも買い物依存症らしくて」


開いた口が塞がらなかった。

弾太郎の心が折れそうな顔を見て(コイツ気圧(けお)されてるぜ)っと勘違いしたのか、殺し屋二人が勢いづいて叫びだす。


「擬態解除!!」×2

―ギャラクシー鉄道最終列車、只今発車します―

―カード残高ゼロ。緊急事態発動シマス―


場違いなうえに情けない効果音、というかアナウンスとともに変貌が始まった。

ジャンゴの筋肉が盛り上がり、体が一気に2倍4倍と膨張していく。

一方、パルタは両腕が大きな蟹バサミへと変化、昆虫を思わせる容姿に完全変態。

それに対してルキィは衝撃組に包囲されたまま、着ぐるみを脱ぐ(いとま)もない。

しかし!店長さん(残留思念)は自信を持ってルキィの腰のあたりを指し示し、懇切丁寧に説明を続けた。


「もしもの場合は隠しレバーを引いてください。緊急離脱モードが作動いたします」

「えっと、これですか?」

カシャッ……バチバチッ!


臍のあたりのレバーを引き起こすと、ルキィの全身を紫の放電が包んだ。

そして着ぐるみの頭部から股間までを銀色の線が縦に走る。

同時に同じく横線が首筋に胸部に、腹部、肘、膝、手首、足首と広がっていく。


「弾太郎さん、これは、まさか?」

「ルパルス君!ジン!伏せて!」


ルパルスを抱きかかえ、何が起きたのかわかっていないジンと一緒に弾太郎は地に伏せた。

取り囲む衝撃組の男たちが戸惑う一瞬に銀色の線が大きく開いた。

そして機械音声が無感情に告げた。


―Cast Off!-

バァン!


着ぐるみが弾けた。

ゴズラ着ぐるみの頭部が、腕が、足が、凄まじい勢いで吹き飛んだ。


「グワッ?」「ゲッ?」「ゥオゴッ?」


爆発的に飛散する着ぐるみパーツが衝撃組を襲った。

逃げる間も避ける余裕もなく直撃とソニック・ウェーブを食らった衝撃組は瞬時に吹き飛ばされ、瞬時に殲滅させられた。

コンマ1秒に満たない時間の後で立っているのはルキィひとり。

……もちろんパンティもブラも吹き飛んだ完全全裸姿オール・ヌード・フォームで。

そして、ルキィ専用擬態解除補助アイテム・魔法の(ラブリー)ステッキが彼女の(二つの豊かな胸の果実の)前にフワリと浮かんだ。

まるで目の前の敵、怪獣の姿に戻りつつあるジャンゴとパルタを指し示すよう。

水平に浮かんでいたステッキがスッと、ルキィの正中線に重なるように起き上がった。


「――――擬態、解除(へん、しん)!!」

―Change Beast!!―


七色に輝きがルキィを包みこむ!

だが時すでに遅し!

怪獣態に戻り、巨大化を完了していたジャンゴとパルタが飛び掛かる!

……はずだったのだが。


ゴッ!「アギャッ!」「ヒェッ?」ズシィン!


鈍い音をたててパルタの巨大蟹バサミがジャンゴの顎を直撃した。

そのまま前のめりに転んだジャンゴの巨体に巻き込まれる形で、パルタも地面に顔面受け身する羽目になった……

二人並んで擬態解除したまではよかったが……巨大化前に十分な間隔をとっていなかった。

1メートルと離れていない状態で巨大ビルに匹敵する巨体に戻れば、ぶつかるのは当たり前だろう。

とにかく立ち上がろうとする2大怪獣……


「ったく気ぃつけろ!この間抜け侍女!」

「そっちこそデカイ図体で邪魔なトコに……」

ドゴォッ。「グェッ!」「ゲッッッ!」


言い争う怪獣たちの喉に剛腕が叩きつけられた。

驚異の瞬発力で飛び込んできたルキィの、ダイビング・ダブル・ラリアットだ。

ほとんどロケットエンジン並みのダッシュの勢いで、怪獣二匹をひっかけたまま数百メートルを駆け抜け、はるか前方の岩山に激突した。

そびえる岩山が爆散するほどの勢いにも関わらず、3匹の怪獣は大したダメージを受けた様子もなく起き上がる!


「イテテテ、なんてパワーだよ」

「こ、こ、小娘の分際で、私にタンコブを……」


後頭部を押さえてふらつくジャンゴとパルタ、多少はダメージあったらしい。

ちなみにルキィは涙目で鼻を押さえている。


「……あ、あなたたち、無法者の好きにはさせません!」


岩肌に突っ込んだ時ぶつけたらしい。

とにかく赤い怪獣VSプロ殺し屋怪獣?との決戦が、ようやく始まった。

そして彼らの後方では。


「危なかった……ルキィさんの後ろでなかったら、致命傷を受けていた」


口元を押さえながら弾太郎は立ち上がった。

ジンが、そしてルパルスが埃を払いながら弾太郎に続く。

腰を抜かしていたハイエン侍従長もなんとか立つことができた。


「行こうカ、弾太郎……弾太郎?」

「弾太郎さん、怪我を?」

「いえ、大丈夫です。陛下」


口元を押さえた弾太郎の手から流れ落ちる血、先ほどの戦いで負傷したのだろうか。

否!戦いによる傷ではなかった。

一瞬ではあったが全裸ルキィの後ろ姿が視界に入ってしまったのだ。


(本当に危なかったぞ。お尻しか見えなかったから、この程度で済んだが……真正面だったら出血多量で動けなくなっていた!)


ようやく止まった鼻血を拭きとり、弾太郎は連絡艇に向かおうとした。

早くルパルスを避難させ、ルキィの援護に回らねばならない。

弾太郎の見立てでは2対1でもルキィに分がある。

ただし真正面から正々堂々と戦えば、である。

ルキィは格闘技の専門家(プロ)だが殺しの専門家(プロ)が正攻法で来るとは思えない。


「ジン、急ご……」


弾太郎は立ち止った。

視線の先の地面には衝撃清掃社長が静かに横たわっていた。


☆★☆★☆★☆★☆

「……ううっ、な、何があったんだ」


衝撃清掃社長は目を開けようとした、が何も見えなかった。

気が付いた時には目の前が赤いような黒いような、靄でもかかったような世界にいた。

立とうとしたのだが、全身が痺れてほとんど動けない。


「はは、目をやられちまったか……阿漕な商売やってきた報いってことか」


最期に網膜に焼き付いたのは、ゴズラ着ぐるみから完全全裸に一瞬で衣替えした、赤髪のカワイ子ちゃんの雄姿。


「いい脱ぎっぷりだったな……死んだ母ちゃん以来だぜ。フフフ、クソみてえな人生だったが、最期に、いいモン見られたぜ」


組に入ったその日に拳銃渡されて『行ってこい』とだけ若頭に言われた。

若いのが起こした揉め事で、身代わりに警察へ出頭したこともあった。

上部組織幹部の娘との縁談を断り、事務所で小間使いさせられていた同郷の女と結ばれた。

若頭だったのが雑用に落とされたが、生まれてきた息子の顔をみるだけで辛さは吹っ飛んだ。

走馬灯のように若い頃の思い出が延々と再生されていく。


「息子には悪ィことしちまった。堅気の世界へ行かせてやりたかった」

「お、親父……そこにいんのか?」

「お、お前、生きて?」


息子の声がした、すぐ近くでだ。

慌てて声のした方に手を伸ばすが、小石と砂の感触だけだ。


「いるんだな、親父。何も見えねぇがよ」

「お前も、目を?」

「ああ、これが悪事の報いってやつかな」


すぐ近くなのに手は届かない。

ただ声だけが、この親子の間をつないでいた。


「すまん……」

「何だよ、親父?」

「おめぇが『バンドやりてぇ』て言いだした時、反対したりしなきゃあ」

「……どっちにしてもよ、母ちゃん亡くしたアンタを置いていけねぇ」

「……」

「……」


互に手を伸ばしあう、それが限界だった。

ほんの少しだけ指先が触れる感触だけを最後に赤と黒の靄が真っ暗に変わった。


☆★☆★☆★☆★☆

親子の会話を傍で見ていた弾太郎は気を失った二人の手を取り、重ね合わせた。

それ以上は自分にできることはなかったし、時間もなかった。

仕方なく弾太郎はその場を離れた。


(あ……せめて、外してあげればよかったな)


社長の頭には儀板解除の際に瞬間脱衣されたルキィのパンティがスッポリはまっていた。

副社長の顔面にはブラジャーが巻きついていた。

そんな状態で穏やかな微笑を浮かべて横たわる父子。

この後、衝撃清掃の全員が病院で意識を取り戻した。

全員、ただの『脳震盪』だった。


なお現場検証の記録写真『女性下着をかぶって笑顔で横たわる社長父子』が後日流出し、衝撃清掃に裏社会からの依頼が来ることは二度となかった。

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