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暴かれ(る必要なかっ)た正体!

「迎えが、来たようです」


少し寂しさをにじませたルパルスの言葉に、全員が空を見上げた。

地球人の目や耳にはまだ何も見えず、聞こえない。

それでも1分もしないうちに銀色の点と、かすかな噴射音が聞こえてきた。

本来なら救援の到着で一安心、ということになるのだが。

ジンと弾太郎は表情を曇らせていた。


「どう思う。ジン?」

「乗っているのは多分、本命だろうナ」

「じゃあ、到着前に……ブシドーさん」


声をかける前にブシドーはライトバンに乗り込んでいた。


「わかった。おーい、監督!すぐに車を出すぞ!」

「ちょっと待ってよ、まだ撮影機材を置きっぱなし……」

「ん?巻き込まれて死んでもいいのか?相手は平気でモノホンの銃ぶっ放す手合いだぞ」

「じょ、冗談じゃない!機材は後で回収!撮影データだけ持ってとっとと逃げるぞ!」


撮影機材もテントも放り出したまま、ライトバンはブォォォォッと急発進した。

土煙上げてたちまち見えなくなった。


「さて、問題はこっちカ」


撮影隊が無事に離れたのを確認してからジンは視線を空に戻す。

先ほどまで空のかなたの小さな点だった物体は、既に流線型のフォルムの飛行物体だとわかる。

宇宙船、といっても星から星へと航行する大型恒星間宇宙船ではない。

全長は30メートルあるかないか、衛星軌道と地上を行き来するだけの連絡艇だ。

弾太郎が考え込みながらルパルスに尋ねた。


「衛星軌道上の宇宙空港から来たのか。乗っているのは誰ですか?」

「多分、私の専属の侍従長、護衛、侍女の3人だけだと思います」

「たった3人ですか?」

「ええ、一番上の兄上なら50人くらいいるのですが。僕は末席の第17王子ですからねー」


喋ってる間に飾り気のない連絡艇は真上にやってきた。

轟音などはない、かすかな振動音が響いてくるだけだ。

現代の宇宙船はロケット噴射ではなく重力制御推進がほとんどなのだ。

キュウウウン、と低い響きと少し熱気を帯びた微風が吹き抜けてゆく。

眼前に着陸した連絡艇の、舷側の入り口がゆっくり開く、そして!


「ルパルスでんかぁぁぁ~!どこにおられるのですかぁぁぁ~?」


白髪白髭の燕尾服のじいさんが泣きながら飛び出してきた。

呆気にとられている弾太郎たちの中から、ひとり嫌そうな顔しているルパルスを見つけると。


「おお~っ?そこにおられましたかぁ!ご無事でございますかぁぁぁ~?」

「やれやれ、だから見つかりたくなかったのに」


燕尾服の爺さんはハイジャンプダイビングでルパルスに向かって飛び込んできた。

ルパルスはため息をつきながら、涙と鼻水でグシャグシャ顔のじいさんの突撃をひらりとかわす。


「ノォォォォッ!」

ドシャッ!ズザザザザッ!


地面に激突した爺さんはスライディングしながら5メートルほど地面をえぐって止まった。


「ねえ、ルパルス君……殿下」

「なんですか、弾太郎さん」

「避けたりしちゃ可哀そうだったんじゃ?」

「でも、くっつかれたら鼻水とか汚いじゃないですか」


再起不能なダメージ必至と思われたじいさんだったが、バッと跳ね起きピッと背筋を伸ばして直立した。

ハンカチで顔の泥を手早く拭き、涙を拭き鼻水を拭きそれでも涙をあふれさせている。


「心配いたしましたぞ、殿下。勝手に宇宙船を脱け出すとは……」

「あーもう、わかってるから。『王家の一員として自覚を持っていただきたい』だろ」

「もっと王家の一員として自覚を持って……」

「あ、私の侍従長のハイエンです。ハイエン、こちらが防衛警察の弾太郎さん、ルキィさん、ジンさんだよー」


侍従長ハイエンの長話を遮るためだろう。

ルパルスは手際よく矢継ぎ早に弾太郎たちを紹介していった。

次の言葉を発するタイミングを失ったハイエンは口をむなしくパクパクさせている。

ハイエンに若干の同情を覚えつつ、弾太郎は挨拶することにした。


「初めまして、ハイエンさん。防衛警官、真榊 弾太郎巡査です」

「よろしく、ジン・カイザウェル巡査でス」

「ルキィ・マーキシマス巡査です!」

「あ、これはどうも……侍従長のハイエンでございます」


目をパチパチさせながらハイエンは礼儀正しく返礼した。

生真面目なハイエンに弾太郎はにこやかに話しかける。


「あなたはヒューマノイド……ではないですよね」

「はい~、私もスターバード種の怪獣でございます。普段の姿では入星許可が下りませんでしたもので」

「あの、迎えに来たのはハイエンさん……おひとりですか?」

「いえ、あと二人おります。おーい、ジャンゴ君、パルタさん、殿下がお待ちだ、早く出といで」


振り返ると連絡艇の出入り口に人影が二人、肩幅の広い大男と女性らしき細身の姿。

暗い船内からゆっくりと姿を現し地面に降り立つ。

2メートルを超す大男は背広姿、血の気の薄い白い肌にスキンヘッド。

これといった特徴のない顔に目をギョロつかせて周りを見回している。

女の方はどこかのファミレスのウェイトレスの制服、地球式の侍女とウェイトレスを間違えているのだろうか?

細面にちょっと吊り上がった目の妙齢の美女!なのだが……

背中の巨大リボン、少女趣味爆発のポシェット、手にした魔法のステッキっぽいのがイタさを感じさせる。

自分の年齢を考慮しない魔法少女……熟女?というべき存在のようにも見える。

こちらもしきりにあたりを見回していた。

大男の方が弾太郎に目を止めると静かに歩み寄ってきた。


「心配しましたぞ、ルパルス殿下」

「…………え?」


弾太郎は一瞬、何を言われたのか分からなかった。

大男とルパルスを交互に見てうろたえるばかりだ。

そして当のルパルスは手を広げて『ヤレヤレですよ』ポーズでニヤニヤ笑っていた。


「まったく、護衛の私、ジャンゴから離れては危険と……」

「あ、あの、僕は……ルパルス殿下じゃなくて」

「えっ?違うのか?で、では、どちらのお方が?」


人違いと知らされてジャンゴは焦り始めた。

そんな彼を小馬鹿にした態度で見ている者がいた、パルタである。


「ホホホホホ、自分の主人も見分けられぬとは。ジャンゴ、アナタも所詮は一般採用組ね」

「な、パルタ?お、お前だって一般採用、しかも俺と同じ補欠合格だろうが!」


補欠合格、の一言で頬を引きつらせるパルタであったが、余裕の嘲笑を取り繕って言葉を続ける。


「ホホホホホ、アナタと私では忠誠心が違うのよ!ねぇ、そうですよね、殿下?」

「あの、僕は現地人ですガ?」

「…………えっ?えっ!えっえっえええっ!?」


露骨に白けた態度で答えるジンの言葉に、パルタはみっともないくらいうろたえている。

それを見ているルパルスはニヤニヤ笑いつつ『ヤレヤレですよ』ポーズだ。

部下二人の情けない姿を見て、深ぁーいため息つきながらハイエンは口を開いた。


「このバカモンども!なんたる醜態をさらしておるか!」

「そ、そんなこといったって俺たちは知らされていないんだぞ」

「そうよ、殿下の人間態での姿は侍従長しか……」


侍従長、という言葉に全員がハイエンの方を見た。

注目を浴びてちょっと緊張しながらハイエンは(かなりわざとらしい)威厳を(頑張って)見せた。


「おっほん!左様、安全のため殿下の人間態でのお姿は極秘とされておりまして!知るのは陛下と私のみでございます!」

「……あの、僕らも知ってることになりますが」

「…………」

「あ、あのぉ、ハイエンさん?」


遠慮がちな弾太郎のつぶやきに、胸を大きく張っていたハイエンさんがちょっとしぼんだ。

それに追い打ちをかけるのがルパルス王子その人だ。


「ああ、そういえば父上に『信頼するお前にだけ、この秘密を明かすのだ』とか言われてましたね」

「……」

「父上って新しく人を雇う時に必ずそういうんですよね」

「………」

「でも兄上たちも割と簡単に恋人とか親友とかにバラしちゃうんですよねー」

「…………グシュン…………」


ハイエンは背中を向けてしゃがみこんでしまった.

初老の小柄な老人の、丸めた背中が淋しさを見事に表現している。


「あ、あの侍従長さん……」

「お気になさらないでください……慣れておりますから……」

(気にならないハズないでしょ―――!)


悲しそうな眼で空を見上げながら、ハイエン侍従長は微笑んだ、目に涙を浮かべながら。

哀愁あふれるハイエンさんを差し置いて、ジャンゴとパルタはルパルス王子に必死に話しかけていた。


「この惑星は危険です。殿下、急ぎ宇宙港まで戻りましょう」

(とにかく邪魔が入らない宇宙空間で、このアホ王子を始末するぜ)

「ちょっと待ってよ、ジャンゴ。僕はまだ行きたいところが」


暑っ苦しいジャンゴに加えて、勢いづいたパルタも迫ってきた。


「そうですわ!いつまたテロリストが襲ってくるか……」

(この惑星を離れたら邪魔は入らないわ。サクッと殺っちゃおっと!)

「パルタさんまで、そんなコトいうんですかぁ……」


ジャンゴとパルタが二人がかりでルパルスの背を押すが、当のルパルスはあまり乗り気ではなさそうだ。

その時、ルキィが動いた。

それまで彼女は奇妙な動きをしていた。

クンクンと子犬のように鼻を鳴らしてあたりの匂いを確かめていた。

そしてなにやら確信をもったらしく、真顔で護衛のジャンゴに向かっていった。


「えっとぉ、ダンゴさん、でしたっけ?」

「ジャンゴだ!何の用だ、小娘!今、俺は忙しい……」

「昨日、ニセテツライナーのコスプレしてた方ですよね?」


瞬間、ジャンゴの白い肌が文字通り青く変わる。

地球人が『顔の表情』で感情の変化を表現するように、体色に反映されるタイプらしい。

だとすれば『隠し事が下手』なタイプなのだろう。


「し、知らん!お前たちと会った覚えはない」

「でも匂いに覚えがあります!」

「に、匂いだと?」


ルキィはもともと地底棲息怪獣だ。

視界の全く利かない地面の下では聴覚、嗅覚、そして肌に伝わる振動だけが頼りだ。

その嗅覚は数キロ先から敵の匂いを嗅ぎ分けるほど鋭敏で正確だ。

だから顔は知らずとも相手を見間違え……嗅ぎ間違えることはない。


「な、何をバカな!この俺が電車に化けて殿下を襲ったとでも?」

「なんで知ってるのです?『変な怪獣が暴れた』という小さな報道だったはずです。それに殿下が関わっているとどうして?」

「…………いや、、その」


弾太郎のツッコミにジャンゴは言いよどみ、体の色が白から青、紫、赤と変化した。

全員が沈黙した、自分からバラすとは思っていなかったから。

弾太郎はそっとルパルスに聞いてみた。


「殿下、あの……」

「ええ、ジャンゴは真面目なんですが、隠し事が下手でねー」

「いえ、そうじゃなくて……」


この王子、何を考えているかわからない。

いつも怪しげな謀事を企んでいる、いや!何も考えていないようにしか見えないのに。


「なんと、ジャンゴ!お前が殿下を襲ったと?」

「まあ!なんて恐ろしいことを!殿下、早くこちらへ!」


ハイエンさんとパルタさんは意外とノリがよかった。

必要以上に大袈裟に驚き、やりすぎなくらいのオーバーアクションを決めてくれた。

ジャンゴの自爆で白けた現場に緊張感を取り戻したかったのだろうが……かえって寒い風が吹き抜けていった。


「と、とにかく殿下!早く連絡艇に……」

「もし、お嬢さン。ちょっとお待ちヲ……」


急ぐパルタの手をとったのはジン、とろかすような甘い声で笑顔を彼女に寄せる。

一瞬、ポウゥッとなってしまったパルタの耳元で優しくささやく。


「……昨日、トイレでお倒れになったお嬢さン……ですよネ?」

「ギ、ギクゥ!な、なんのコト?私、男子トイレで分身の術を失敗して大怪我した覚えは……」

「同じですヨ、お使いの香水が、昨日と……」


こっちも匂いでバレていた。

全員が悩み顔で、こめかみに手をあてるポーズをした。

弾太郎はルパルスに小声で訊いてみた。


「あの、パルタさんって……」

「ええ、見ての通りで。一生懸命なんですが、ドジっ娘で……あ、娘って年齢じゃないけど」

「いえ、そうじゃなくて……」

「ななななな、なんと!パルタ、お前まで怪しげなふるまいを?」


ハイエンさんただひとり、必死のリアクション!……それでも緊張感はもはや戻ってこなかった。

弾太郎はジンに無言で問いかけ、ジンも無言で弾太郎に返した。


―ジン、どうしよう?―

―スルーしてあげよう。ここでツッコミは可哀そうだ―


目配せだけで会話して何事もないように二人は暗殺者をにらみ返す。


「フッ、バレちまっちゃあ仕方ない……そう、最強の暗殺者『闇討ちのジャンゴ』とは俺のことよ!」

「ホホホ、バレては仕方ないわね!宇宙最高のくのいち!『雲隠れのパルタ』とは私のコトよ!」

「情けなくないですか、その二つ名?」

「…………ちょっと…………」×2


弾太郎の反射的ツッコミにジャンゴの体色が赤に変化、パルタはうつむいていじけてる。

ハイエンさんはオロオロするばかり、それを見ているルパルスは深いため息をついている。

シラけている弾太郎とジンの横で、唯一やる気出しているのがルキィだ。


「この私の目が黒いうちは暗殺者の好きにはさせません!」

「えっ?ルキィさんの目って、もともと赤だよ?」

「…………あ?……忘れてました……」


やる気出しかけてるところで弾太郎にツッコまれた。

ルキィの瞳の色はもともとが燃えるようなファイア・レッド、黒くなることはない。

いつもは勇ましいルキィまでもが、しょんぼりしてしまった。

それでも、敵味方全員が意気消沈していく中でも、ハイエンさんだけは大袈裟なリアクションを続行する。


「ううぬ、知らぬうちに暗殺者が王宮の深部にまで潜入しておるとは!このハイエン、一生の不覚!」

「おいおい、ハイエン。この二人がプロの殺し屋というのはお前も知ってるじゃないか?」


張り切るハイエンさんに、明らかに面白がっている口調でルパルスが口をはさんできた。


「はぁっ?!」

「父上も知っているぞ、だって……面接の時の履歴書に」

「おお!そういえば二人の最終学歴は『暗殺結社毒蛇の穴』と『ネンゴロ忍軍暗殺科』でしたな。失念しておりました」


ジャンゴとパルタが顔を見合わせ、口をパクパクさせる。

恐らくは互いに『履歴書に書くなんてバカな奴だ』とでも罵るつもりだったのだろう。

もっとも口にしたら……自分に返ってくるダメージの大きさにビビって声を出せないらしいが。

それにしても履歴書に正直に書く暗殺者がいるのだろうか?

弾太郎が疑問を明確にするするより早くルパルスが答えてくれた。


「ええ、僕もまさかなー、とか思って一応調べてみたんですが」

「……特に怪しい点はなかった、と?」

「ええ、そうです……間違いなく殺し屋でした」

「ダメでしょ、それじゃ!」

「えっ?どうしてです。虚偽の申告ではないし、専門技術があるのはいいことですし」

「だからって、殺し屋なんですよ?それを雇うなんて!」

「父上にも一応相談したんですが『面白いからいーじゃん?』ってことで」


弾太郎は何か言いかけて、口をつぐんだ。

そう宇宙では地球人の常識など通用しないのだ……んなワケあるか!


「ところで……運転手さんハ?さっきから姿が見えないけド」


ジンの言葉に老運転手がいなくなっていることにようやく気がついた。


★☆★☆★☆★

着陸した連絡艇からは少し離れたところ、衝撃組が乗ってきたマイクロバスの影に老運転手=ゲン爺は隠れていた。

スマホを取り出し、ちょっと戸惑ってから耳に当てる。


「海人様?ちィとばかり困ったことが……」

『おおっ、ゲンさん!なぜ弾太郎から離れた?すぐに戻るんだ!』

「それが……顔見知りと出くわしちまって……」

『顔見知り?ゲンさんの昔の仕事のか?』


顔見知り、という言葉に海人は驚きを隠せなかった。

ゲン爺の『昔の仕事』の関係者は地球に近寄ってほしくない連中ばかりなのだ。


「ヘイ、実は……連中の師匠、確か『偽装のギャンガ』と『不可視のパルナ』って名乗ってましたが。昔、仕事でカチあっちまって。その場の勢いってか、つい……再起不能にしちまって……」

『そいつらの弟子どもが来たのか?しかしお前の今の姿なら、騙しおおせるのではないか?』

「イヤ、その仕事の時の姿が、この『運転手風初老の男』パターンなんで……」

『……変装のバリエーション増やせよ、ゲンさん』


通話している間にゲン爺の姿は老運転手から本来の姿に戻っていた。

海人からは姿が見えるわけではないのだが、申し訳なさそうに黙って何度も頭を下げている。


「とにかく気づかれないようにもう一度近づいて……」

『そ、そうだ!敵の正体がわかったんだった!』

「敵?あの半人前どもだけじゃねぇんですか?じゃ、あと残るのは……」

『ああ、私もよく知っている奴だった!今回の首謀者、第5王子侍従長グェルトの……』


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