泣くな、男(の娘)だッ!
(フッ、ここまでは予定通りだな……)
真剣な表情の裏でジンはほくそ笑む。
優勢だったはずの衝撃組は今や、目を覆って座り込み、地面に突っ伏している。
視力を奪われて悲鳴を上げ、混乱し、硬直または狂乱していた。
「ヒィィッ……」「目が、俺の目がァッ?」「何も、見えねぇ……」
恐怖から銃を乱射しようとした者から順番に麻痺銃の標的になった。
全員が地面に転がされるのに30秒とかからなかった。
時間稼ぎの当て馬など最初から問題ではなかった。
そもそも片付けるだけなら、ルキィが怪獣態に戻ればそれで終わりなのだ。
(こんな回りくどい手を使ったのは君のためなんだよ、弾太郎)
その弾太郎は今、ショックのあまり虚ろな目で空を見上げて、蒼白な顔で、ブツブツつぶやいている。
「そんな、僕は、男なんだ?パンチラさせられて?それも二日続きで?そもそも、どーしてボクはスカート履いてるの?……」
弾太郎は今、強風吹き荒ぶ危険な吊り橋の上と同じ精神状態にあった。
少しバランスを崩しただけで奈落の底へ堕ちるだろう。
無表情を装っていたジンだが、人には見られないように邪悪な笑みを浮かべた。
ルキィが真剣な顔で弾太郎のそばに駆け寄って行ったのだ。
(そうだ、吊り橋効果は今、完成した!そこに救いの手を差し伸べるのが、相棒であるルキィさん、君なんだ)
「あ……ルキィさ……」
「……ダンタロさん」
(フフフ、これで完璧な吊り橋効果が完成だッ!)
ルキィがそっと手を差し伸べる。
すがるように弾太郎はルキィの手を。
だがルキィの手はそれをする―して、メイド服のスカートの裾を掴んだ。
でもって、バッとまくり上げた!
当然だが、弾太郎は凍りついた。
「スゴイですね、ダンタロさん!地球の『ぱんつ』って光るんですね!」
「……?」
「あんなスゴイ必殺技、いつ開発してたんですか?私、ビックリしちゃいました!」
「……あの」
「あー、このへんの電球が光るんですね。私も装備して二人でダブル必殺技とかやりたいです!」
「…………そうじゃ、なくてさぁ(涙、じんわり)」
スカートめくり状態での相棒からの見当はずれの称賛。
強風吹き荒ぶ不安定な吊り橋の上から、全力で突き飛ばすような誉め言葉?だった。
そして弾太郎はゆっくりと谷底へを堕ちていく……この事態にジンは焦った。
(ま、まずい!なんとかフォローを……おお、ルパルス殿下?)
異常事態に気づいたルパルスが二人に駆け寄っていた。
末席とはいえ謀略渦巻く王室に生まれ、幼くして権謀術数の才を見い出された彼ならば。
「さすがは弾太郎さんです!あのような素晴らしい必殺技を会得しておられたとは!」
「……………」
「そうだ、あの技を『ブラック・メイデン・フラッシュ』と名付けましょう!」
ダメ王子だった!
一般的常識の素養においてルパルス王子はルキィに匹敵する壊れっぷりだ!
ジンの中で周到に練られた?陰謀が轟音を立てて崩れていく……
……いや、全然用意周到じゃないだろ?穴だらけだよ?
そもそも常識ゼロ怪獣コンビをアテにした時点で終わっているぞ。
「このままでは弾太郎の精神が再起不能になル!なんとかフォロー……」
「待ちな」
「あ、ブシドーさン?」
前へ出ようとしたジンの肩を掴んで止めたのは、ライトバンから出てきたブシドーだった。
ジンを押しのけ黙って弾太郎の正面に立つ。
虚ろだった弾太郎の目に焦点が戻り、ブシドーに気がついた。
「ブシドー、さん。ぼ、ボクは……」
「弾太郎君、いや、弾太郎」
ヒーローは今にも泣きだしそうな……いや、すでに涙をあふれさせている弾太郎の頬にそっと手を添える。
こぼれそうな涙を指先で拭い、引き寄せ抱きしめる。
「君は、誰も傷つけず、誰からも、何も、奪わなかった」
「で、でも、あんな……」
「打たずして打ち倒し、不殺にして必殺。見事という他はない」
「でも、ボク、こんな、恥ずかしい……」
「傷つけ奪いとることは容易い。だが、君は違う道を選んだのだ。君にしかできない方法で」
「……ボクは」
「今の君はまぎれもない本物のヒーローだ……だから胸を張れ!」
「は……ハイィッッッ!」
小さな(っていうか全然ない)胸を張って、ありったけの大きな声で弾太郎は叫んだ。
そんな彼の姿を見て、感動で潤んだ目でルキィは拍手した。
「ダンタロさん、スゴいです!」
同じく、感動で輝く瞳でルパルスが拍手した。
「惜しみない拍手を送ります、弾太郎さん」
そして、もう『どうしていいかわからない』という目で、ジンもとりあえず拍手した。
「ああ、もう立派、立派……だナ?」
(結局、間違ったフラグが立ってしまったか……)
その時、ルパルスが空を見上げた。
「きたか……」
天空から響くかすかな音を怪獣聴力が聞き取り、針の先よりも小さな点を怪獣視力が捉えていた。
「どうやら迎えが来てくれたようです」




