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予期せぬ再会

一行を載せたリムジンは舗装されていない山道を上っていく。

後部座席では昨日のアニソン大会に続き、本日は特撮ソング大会で盛り上がっている。

怪獣コンビの超元気は変わらずだが、弾太郎も少し元気を取り戻したようで一緒に歌っている。

たぶん、お気に入りのヒーローソングのおかげだろう。

助手席から様子をみて安心したジンは、スマホに表示された地図に注意を戻す。


「悪くないネー。なにせ『最終決戦』の名所、いや『聖地』だからナ」

……ブルルル。


手の中でマナーモードのスマホが震える、かけてきた相手は塩川長官だ。

目を細めてジンは耳にスマホをあてる。


「はい、長官。こちら予定通りでス」

『10分間だけだ。それ以上は許可できん』

「了解しましタ」


それだけの通話を終えると切る。

これで準備は整ったらしい、ジンはスマホの地図も消し、前方に視線を移す。

リムジンが走る砂利道から見えるのは山ばかり。

前方のみ視界が開けて平地と採石場らしき場所も見える。

運転していた老運転手が不思議そうに尋ねた。


「こんなところに何があるのですか?」

「何もないところサ、今日はね……何もないから好都合なんだヨ。ところでネ」


運転手の顔を突き刺すような鋭い視線で見て、ジンは言葉を続ける。


「仮装だけかと思ってましたけど、見事な変装ですネ、ゲンさん」

「はぁ?ゲンさん……誰のことですか?」


ハンドルを握る運転手は年齢こそ老人だが小柄なゲン爺と違い、ジンと同じくらい長身で優雅な身のこなしは似ても似つかない。

なのに、ジンは気にした風もなく淡々と話を続ける。


「とぼけなくていいですヨ、弾太郎も勘付いてますかラ」

「ええっ?んなハズねぇでしょ……あ、マズった?」


慌てふためいたせいか、口調だけがゲン爺の声に戻っていた。

口元を押さえるがもう遅い。


「……あの、ホントに弾太郎坊ちゃんもお気づきなんで?」

「ええ、というよりネ……訓練生時代からコッソリ様子を見に来てたでしョ?」

「えー?あン頃から気づいてたんですかい……」

「弾太郎にいわれてましてネ『気づかないフリしてやってくれ』っテ」


この時の老運転手、いやゲン爺(老紳士バージョン)の情けない表情に、ジンは笑いを押さえてクールを装うのが困難になってきた。

弾太郎との約束に反してバラしてしまったが、これには理由があった。


「……弾太郎のことなんだけド」

「全力挙げて、やり遂げてみせますです!」

「話、早いネ?まだ何もいってないのニ」

「へいへい、坊ちゃんを守れ、でやんしょ?」


顔は老運転手のままだが、嬉しそうなニコニコ顔は間違いなくゲン爺だ。

ジンもまた唇の端を吊り上げニィッと笑う。

それにしてもここでも国賓であるルパルスを差し置いて、弾太郎だ。

もっとも弾太郎がらみでもなければ、ゲン爺は動いてくれないだろうが……


「だけどネ。わかってると思うけど弾太郎の邪魔はしちゃいけなイ」

「へっ?そりゃあ、そのつもりでごぜぇやすが……」

「危険だと思っても、やりたいようにやらせてあげてほしイ」

「しかし……弾太郎坊ちゃんの身に万一の」


数秒間の沈黙あった。

二人とも前方を見据えたまま、口を閉ざした。

再び口を開いたのはジンの方だった。

この老人にクギを刺すために、ジンは敢えて踏み込んだのだ。


「知っているんでしょウ?その方がイイってことヲ」

「……あんたぁ、どこまでご存じで?」


ジンの首筋を冷や汗が流れた。

ゲン爺が化けた老運転手は機嫌よさげにハンドルを握っている。

特に脅されたわけでも殺気を感じたわけでもない、なのに。

ジンの勘が途轍もない危険を告げる。


(こりゃ、答えを誤れば間違いなく……始末されるな)


確信があった、間違いなくこの老人は見かけ通りの存在ではない。

得体の知れない危険な人物、いや人間かどうかも怪しい。

ここは『正直に答える』の一択だろう。


「なーんにも知らされてないヨ。なにもかも推測の域を出ないナァ?」

「推測、で…………ごぜぇやすか?」

「訓練生時代の対抗戦じゃ弾太郎は大活躍だったよ。主に応援で、だけどネ」

「はっはっはっ、そりゃあ、弾太郎坊ちゃんらしいや」


はぐらかすような答えだが、一応は納得してもらえたらしい。

ジンは安堵し、ゲン爺は鼻歌なんぞ歌いつつ運転を続けている。

何事もなかったようにそのまま走り続け、後部で開催中だった特撮カラオケ大会も終わった頃、目的地に到着した。

広い、駐車場にすれば1千台は駐車できそうな広い空地だ。

ところどころに砂利と枯草があるだけで、ほとんどが整地して数十年過ぎた地面だ。

取り囲むのは岩が剥き出しの山肌、反対側は数十メートルの崖。

かつて採石場とコンクリート工場があったそうだが、閉鎖されてから10年以上らしい。


「ホントにここでいーんですかい?なーんにもありゃあしませんが」

「だからいいのサ。だから撮影にも使えるし、今日も被害がでなくて済むからネ」

「撮影?ンなただの……原っぱでいってぇ何を撮るってんで?」


ジンは意味ありげにニッと笑うと車を降り、後部のドアを開ける。

最初にルキィが降りた、周囲を見回して首を傾げている。

次に弾太郎が降りた、外を見た瞬間に意外そうな驚きを見せた。

最後に降りたルパルスは一目で驚き、かつ歓喜の声を上げた。


「まさか、今日の目的地って、ここだったんですか!」

「知ってるの?ルパルス君……じゃなくて殿下?私もここ、見覚えある気がするんですけど」

「聖地ですよ、ルキィさん!まさか、この目で見れるなんて」


感動、を通り越してルパルス王子は感涙していた。

運転手のフリを続けるゲン爺にはチンプンカンプンだが、弾太郎にはわかったようで、彼もまた驚いた表情のままだ。


「……ジン、ここの見学許可がよく下りたね?見学は一切お断りって聞いたけど」

「今日は撮影予定がなかったからネ。後は長官のコネなんだけド」

「撮影ですか?撮影……あっ?ここって!」


ルキィにもわかったらしい。

唯一、ゲン爺扮する老運転手だけが何が何だかわからず、あちこち見回しては困っている。

答えようとしたわけではないが、ルパルスの独り言が答えを明らかにした。


「仮面ファイター1号2号とジェノサイダー大首領の決戦が行われて以来!超戦隊が、メタルヒーローが、この地で最後の激闘を繰り広げたのだ……ククククッ!」

「あ、そーか!ゴズラ様復活第一作で防衛軍どもを華麗に蹴散らした場所ですね!」

「この宇宙最大の聖地に!我もついに立つことができたのだ!フハハハハハハハッ!」

「オオオッ……ゴズラ様の息吹が、鼓動が満ち溢れてくるゥゥゥッ!」


歓喜とともに、ルパルスの中二病が再発……いやいやいや、悪化・深化・重症化した!

そしてルキィもまた、この聖地で何かの深淵を覗いてしまったらしい?

なんだか異様なオーラ出しまくりの怪獣コンビに恐怖を抱きつつ、弾太郎はジンに耳打ちする。


「いいの?撮影予定はないといっても」

「ここは戦場になるからカ?……しかし周囲50キロ四方に人がいないのはここくらいだしネ」

「人はいない……じゃあ、あそこにいる人たちは?」

「エッ?」


驚いて振り向いた先にはマイクロバスが一台、そして10名ほどの人影。

5名ばかりが一か所に固まって何事か話し合っているようで、他はマイクロバスから撮影機材らしき物を降ろしている。

そのうちの二人は遠目にも奇妙な、鎧を思わせるスーツを着ているのが見てとれた。

この予定外の状況にジンも弾太郎も慌てた。


「今日は撮影予定はないのニ?マズいゾ!」

「とにかく事情を話して帰ってもらわな……ああ?ルパルス君、じゃなくて殿下?!」


こんな最悪のタイミングで撮影に来ているのは何者なのか?

弾太郎が相手の正体に気づくよりも早く、ルパルスが駆けだしていた。


「殿下、殿下!待ってください!離れては危険でェ―――すッ!」


弾太郎の声も耳に入らない、ルパルスの目は謎の撮影隊に釘づけだ。


「あ、あれは?あそこにいるのは……あの方は、まさか!」


しかも怪獣体力なもので速い、速い。

ジンと弾太郎の全速力でもどんどん引き離されるばかりだ。

対抗できるのは同じ怪獣体力を持つルキィだけだ。


「ルキィさん、殿下を止めて!」

「了解です!」

バヒュン!


突風を巻き起こしてルキィが加速する!

停止状態からコンマ2秒でトップスピード!

ゴズラ様着ぐるみというハンデも無視して、瞬時に弾太郎たちを追い抜き、背後からルパルスに肉薄する!

同じ怪獣といえど、お坊ちゃまと戦士とでは鍛え方の次元が違うのだ!


「よし、ルキィさん!捕まえ……ええっ!?」


置いてきぼりにされた弾太郎のはるか先で、ルキィはルパルスを抜き去り、トップに躍り出た。

そのまま一気にルパルスを引き離して独走、遮るものがない荒野を単独で疾走する。

その様子は撮影隊側からもよく見えていた。


★☆★☆★☆★☆★

羽織袴をイメージした重厚なスーツ。

腰には大小二本の太刀。

侍をイメージしたその雄姿は力強く現代のヒーローにふさわしい。

その特撮ヒーローが何かに気づいたのか、ヒョイと伸びをして遠くを見た。


「ん―――?」

「どーしたんスか、師匠?」


師匠、と呼んだ側の出で立ちは西洋の甲冑をモチーフにしている。

左手に十字の紋章の盾、右手に身の丈を超える槍……はマイクロバスに立てかけて。

手にしたスタミナドリンクをストローでチューチューやっている。


「ほら、あれ。なんだろね……?」

「なんスかね?先頭走ってんのはゴズラに見えるんスけど」

「後ろはパンク、いやロックなガキ……かな?その後ろはヒョロイ兄ちゃんと白髪の爺さんと……メイドさん?」

「変な連中っスね。あ、そーだ、例の見学希望者じゃないスか?」


車中での打ち合わせで「今日は見学に来るヤツいるから失礼のないように」と監督から話があった。

今日の撮影は急遽撮り直しが入ったもので、あまり余裕がないので邪魔はありがたくないのだが。


「確か社長のコネで無理矢理見学許可とった奴らだっていうが……そうは見えんなぁ?」

「ですよねー?それにしても先頭のゴズラ、メッチャ速ェーっスよ」


確かに先頭ブッチギリで爆煙上げてゴズラ着ぐるみが突進してくる。

後続のロッカーもどき少年も速いが、桁が違う。


「あー、こりゃ優勝はあのゴズラ娘で決まりだな」

「って、あのスピードじゃ止まれませんよ!こっちにぶつかる……?」

ドヒュンッ!


ラストスパート!撮影隊に衝突するまであと3秒!

気づいた撮影スタッフが機材担いで大慌てで逃げ出す。

衝突まであと2秒!

ようやく先頭ゴズラ娘がブレーキング、足元からオレンジ色の火花が散る!

あと1秒!

逃げようとしない侍スーツを焦った騎士スーツが避難させようと腕を引っ張るが、全然逃げる気がないらしい。


ズドコ―――ンッ!


とかなんとかいってる間にルキィが到着、ほとんど爆発に近い轟音と土煙と衝撃波が一帯を何も見えない状態に変えた。


「ゴホッ、ゴホッ?」

「なんだ、こりゃ?」

「な……何があった?」

「ど、どうなってるんだ?」


土煙にまかれたスタッフが騒ぐ中、侍スーツは悠然と土煙の中心に歩いていく。

そこのにいたのは異形の……じゃなかった、着ぐるみの人影。

侍スーツは無造作に着ぐるみルキィの右手を掴む。


「フッ、やるねぇ……アンタが一等賞だぜ、お嬢さん」

「へへへーっ、いっちばぁーん!!!」


侍スーツは、まるで勝利を告げるレフェリーのようにルキィの腕を高々と上げさせる。

人差し指を立てた手をさらに突き上げて、着ぐるみゴズラのルキィが嬉しそーにジャンプする。

十数秒遅れでルパルスが息を切らせながら到着。


「ハーッ、ハーッ、ルキィさんって、速いですねー!!」

「ヘッヘッヘーッ…………鍛えてますからッ!」

「って、その人……か、か、仮面ファイター・ブシドー?!」


さらに数分後、ジンと老運転手(ゲン爺変装)が荒い息をしながらゴール。


「ゼー、ゼー、殿下……じゃなくてルパルス君、一人で行っちゃ駄目で……ス」

「こりゃあ、あっし、みてぇな、年寄りにゃ、キツすぎで、ごぜぇやす」


さらに遅れてメイドさん、いや失礼、弾太郎が息も絶え絶えな状態で到着した。


「…………ルキィさん、君まで、一緒に、ダメ……」


喋ってる途中でフラついた弾太郎が倒れそうになる。

老運転手(ゲン爺)が助けようとするが、それより早く手を差し伸べた者がいた。

侍スーツ、いや仮面ファイター・ブシドーだ。


「大丈夫かい?」

「あ、ありがとうござい……?」


助け起こしてくれたブシドーを見上げる。

はた目には可憐な乙女を助け起こすスーパーヒーロー。

そのまま特撮映画のワンシーンに使えそうなシーンだ。

(実体は男同士の抱擁という微妙な状況だが)

それにしてもおかしなことだが、弾太郎には奇妙な既視感(デジャビュ)があった。


(昔、こんなことがあった、ような?)


それは相手も同じようで、ジィッと弾太郎を見つめ返している。


「君は、もしや……弾太郎か?」

「えっ、どうして僕の名前……」


今日会ったばかりのスーツアクターが弾太郎の名を知っているはずはない。

個人的に知っているスーツアクターといえば一人だけだが……

あの人は数年前に一線を退いて、ここにはいないはずだ。


「やっぱりだ!於茂鹿毛島の神主さんの息子!弾太郎君だな!!」

「どうして於茂鹿毛島を知って……やっぱり、あなたは!あの時の?」


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