決戦の朝!誓い、すれ違い
目を覚ました時、一瞬だけ甘い香りを感じた気がした。
窓から差し込む朝の陽光はこの都会でも、於茂鹿毛島と同じく明るくて優しい。
「え……朝?」
弾太郎はベッドから跳ね起きた。
そこでようやく、自分が裸で寝ていたことに気がつく。
「ええっと?昨日はお風呂に入って、それから……どうしたんだっけ?」
夕べ、湯船につかったところで記憶が途切れる、思い出せない。
頭痛などはない、むしろ頭は奇妙なくらいスッキリしている。
「きっと、疲れていたからだよね。多分、風呂上がりにそのまま寝ちゃったんだ」
他に説明がつかないので、そういうことにした。
下着を身に着け、クローゼットを開けて服を……と、そこで止まった。
わずかに開けたクローゼットの扉を閉じる。
(そうだ、このメイド服はこのまま永遠に封印しよう)
(後でホテルのスタッフにクリーニングを頼んでおこう)
(いずれは人知れず処分しなければ……)
弾太郎は部屋に備え付けの浴衣を羽織った。
外国からの観光客に日本の風情を味わっていただくための物だ。
ホテルの中ならこの恰好でも動き回れる。
「まずは着る服を調達しなきゃ。確か地階に紳士服を扱っているお店があったはずだ」
パンパンと頬を叩き、気合を入れなおして、寝室のドアを開け皆の待つ居間へ。
そこで弾太郎は異様な空気に硬直した。
「な、何があったんだ?」
まずルキィだが、日課の掌底突き千本の途中だった。
空手でいう正拳突きにあたる基本技の鍛錬だが、彼女のそれは並みのレベルではない。
構え、踏み込み、突き出す、全ての動作に音がない。
何の予備動作もなく音もなく、最後の瞬間に旋風だけが巻き起こる。
それほどの肉体と精神を制御している彼女だが、今朝は床をかすかに踏み鳴らしている。
集中力を欠いているようで、しきりと他の二人の様子を気にしている。
「お、おはよう、ルキィさん」
「あ、はい、おはようございます、ダンタロさん……」
ルパルス王子だが、こちらはなぜか表情が異様に暗い。
普段は元気のいい子供を『演じて』いるのに、一生分の悩みを一晩で背負わされたみたいだ。
ソファで体を縮こまらせて、うつむき、悩んでいる。
まるで母親に叱られた幼子のようだ。
「おはようございます、殿下」
「……あ、弾太郎さん……おはよう、ゴザイマス」
最後にジンだが、机に向かって考え込んでいるのだが……
こいつは不機嫌を絵にかいたような不機嫌さだ。
一見すれば無表情で新聞に目を通しているだけだが、養成学校の寮を同室で過ごした弾太郎にはわかる。
「おはよ、ジン」
「……………………ああ、おはよウ」
どうした、何があったんだ?と訊きたいところだが、声をかけるのも気後れする。
困ってルキィの方を見ると彼女も困り顔で首を横に振る。
彼女が起きた時からこんな状況だったのだろう。
一体、原因は何なのだろうか?
「これは?」
弾太郎は机の上にあった一枚の報告書を見た。
それは宇宙空港衛星の防衛警察支所からの連絡だった。
内容に目を見張り、ルキィを手招きして呼び寄せる。
やってきたルキィも一読しただけで驚きを隠せない。
「ダンタロさん、これってまさか?」
「そうだね、確かに落ち着いる場合じゃない」
弾太郎はルパルスの前に進み出た。
気づいたルパルスが顔を上げるのを待って、真剣な顔で話しかけた。
「殿下、心中お察しします」
「え?」
「大変つらいとは思いますが、どうか強い気持ちを持ってください」
「ええと?そう、そうですね」
そしてジンの方に向かって、やっぱり真顔で言い放つ。
「ジン、大変なことになったね!」
「ん?まあ……確かにナ」
「でもこんな時こそ、僕らが頑張らなきゃ!」
「……ああ、特に君とルキィさんには…………」
なんだか会話がかみ合っていない。
ちなみに4人の現在の心の声はこんな感じだ。
(ここが踏ん張りどころだ!不利な状況だけど絶対に負けないぞ)
(とりあえず敵を全部殴り倒せばなんとかなりますよね?)
(弾太郎さんの血筋を残すくらい簡単だ、任せてくれって父上に大見栄を切ってきたのに)
(くそ、弾太郎のヘタレパワーを過小評価していた。だが、もう容赦しない)
「おい、弾太郎……」
「あのぅ、弾太郎さん……」
「それにしても殿下の側近に内通者がいるとは……こちらの情報は全部筒抜けだったわけだよ」
「えっ?」
「弾太郎さん?」
弾太郎の意外な言葉にジンとルパルスは『?』な顔になる。
どうしてこの展開でこんなセリフが出てくるのだろう。
弾太郎は握りしめた報告書をチラッとみる。
『宇宙空港に入港した殿下の宇宙船を捜査した結果、専用特別室から遠隔操作式の爆発物が発見された』
それだけの内容だ。
「ジン、出航前に仕掛けられたなら銀河パトロールの厳重な検査で爆弾は見つかったはずだ」
「ああ、そうだナ。検査官全員を買収するのは無理だろうし……」
「そして殿下の専用室には一般船員は入れなかった。そうでしょう、殿下?」
「えっ?ええ、そうです。私の身の回りを世話してくれる3人以外は」
全員が沈黙する。
爆弾を仕掛けたのは側近3人の誰か、もしくは全員だ。
弾太郎は思う。
(その3人はルパルス殿下が一番信頼している側近のハズ。そんな人たちを疑わなきゃいけないなんて……殿下もつらいだろうな)
ルパルスは思う。
(内通者は最初からわかってましたが。それより、どうすれば弾太郎さんとルキィさんに子づくりを……くそ、弾太郎さんが雌だったら!僕が……)
僕が……って何をする気なのだろう?
不毛な思考迷宮に突入したルパルスの隣でジンも考える。
(側近でもなんでもいい!今度こそ『吊り橋効果』が十分に出る強力な刺客よ、来い!弾太郎とルキィさんの経験値アップの生贄にしてくれる!)
どんな経験値を弾太郎にゲットさせる気なのか。
間違った思考袋小路に特攻するジンの隣でルキィさんも、一応は考える。
(何だかよくわかりませんけど、どんな相手でも必ず、必ず!殴り倒してみせます!!ダンタロさんの信頼に応えるために!!!)
おいルキィさん……君の思考はそっち方面だけなのか?
頼むからもう少しちゃんと思考してくれないか?
「じゃあ、みんなの心を一つにして……やるよ!」
「オオーッ!!」×3
重ねられた4人の手が気合とともに頭上に突き上げられる。
今!ここに!全員の心がひとつに……なってないな。
目的の方向が弾太郎以外は全員間違っているのだが、なんとかなる……かなぁ?
とにかく、心強い?仲間たちに支えられて、勇気づけられた弾太郎はドアを開けた。
「よし、じゃあまずは……男物の服、買ってこなきゃ」




