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絶体絶命!塔上のくのいちさん?

地上から777メートル、最上階展望室直通へのエレベーターが停まった。

最大30人を運ぶ大型エレベーターなのだが、無音で開いたドアの中から出てきたのはたったの4人。

彼らが横一列で足踏みそろえて入ってきた時、その場にいた全観光客が思考停止した。

金髪の美青年、ロックなお子様、怪獣着ぐるみ娘、長い髪の恥じらいメイドさん。

統一性も共通点もなく、何者なのか、どういう集団なのか全然わからない。


「さて、どこから見ていきましょうか。ククク……」


ハードロックな少年ルパルス君が楽し気にあたりを見回す。

いかにもはしゃいでいる子供、なのだが……なんとも不穏な気配を放出している。


「あ、あそこから富士山見えますよ!」

「え、ほんと?もう一度見たかったんだ!」


……と、思ってたら意外と見た目どおりな「お子様」だった。

もう他の物は目に入らないようで、ルキィと二人でパタパタと駆けていく。


「いやー、やっぱ子供って元気だよネー!ん?弾太郎、どうしタ?」

「僕は幼稚園の遠足の引率の気持ちが理解できたよ……」


少し遅れてついていくジンと弾太郎。

到着したばかりなのに弾太郎は既に疲れの色が濃い。


「まさか、リムジンにあんな装備が……」


福 櫂緒(ふく かいお)の店で着替えてすぐに、ジンが手配したリムジンでここまで来た。

空調完備、冷蔵庫、テレビ、体が沈み込むようなソファ。

リムジンの(広々とした快適空間で一休みできる!)と弾太郎は思っていた。

テレビに付属したカラオケ機能にルキィが気づくまでは……

優雅に走るリムジンの、完全防音の客室の中で、アニソン大会開催中とは通行人は誰も考えなかったろう。

そして運転手さんと助手席のジンは完全に知らんぷり決め込み、弾太郎一人が業を背負う羽目になった。


「とにかく、ここからは大人しくしてもらう……ジン、どこ?」


ジンがいない、たった今まで横を歩いていたはず……いた。

手すりの傍で数人の女の子のグループとにこやかに談笑している。


「でね、これがまた人使いの荒い上司でネー」

「やっだー」「ブラックぅ?」「やめちゃったらぁ?」


弾太郎の中で何かがブチッと切れた。

ゲシゲシと荒っぽい足音を響かせ、怒りのオーラを放出しながらジンに近づいていく。

驚いた女の子たちがビクビクと身を引く中で、ひとり気づかないふりをしているジンの耳たぶを指で引っ張る。


「い、痛い、痛いってバ!」

「油売ってないでさぁ……一緒に来てくれる?」

「わ、わかった!ごめんね、また今度……痛い、痛いっテ!」


取り残されて呆然とする女の子たち。


「なーんだ、彼女つきじゃん!」

「しかもメイドさんって、どうよ?」

「今晩いーかな、って思ったのに」

「でもさぁあのメイドさん……可愛かったぁ」

「うんうん」

「同性なのにキュンときちゃった!」

「えー、あんたさぁソノ気あんの?」

「でもアタシも、キュンキュン!」


可愛いメイドさんに引っ立てられていく美青年、はた目には微笑ましい痴話喧嘩に見えるのだが。

しかし実態は♂×♂カップルとは誰も気がついてくれない。


「ったくもう、僕ら仕事中だよ!」

「フッ……僕にはね。女性の要望は24時間無休で受け付ける義務が、痛い痛い痛イ!」

「ところで真面目な話だけどさ……どういう連中なの?」

「ああ、卒業旅行の女子大、だから痛いっテ!…………ツゥ、地球のマフィアの下請けサ」


セリフの後半は弾太郎の耳元で小声で囁かれた。

そして弾太郎も周りにはできるだけ聞き取れないよう小声で囁き返す。


「そんなことだろうと思ってたけど」

「どうしてそう思ウ?」

「うん、ゲン爺がウロチョロしてたし、おかしな気配はあるし、変な怪獣に襲われるし」

「へぇ意外と感じるんダ」

「そりゃ、あそこまで変な動きされたらねー」


昨夜のルパルスは『政情は安定しているから暗殺や誘拐の危険はない』といっていた。

けれど末席とはいえ惑星国家の王族、危険ゼロのはずがないのだ。

それなのにわざわざ狙われやすい状況を自らつくりだしている。


「何か狙いがあるのだろうけど。今は」

「待て、弾太郎!何か様子が変……」


もともと人目を引いていた(目立ちすぎていた)のだが、今まで様子をうかがうだけだった人々の目が、まったく別な視線に変化して弾太郎に集中していた。

そしてヒソヒソと耳打ちしあう声が聞こえてきた。


(えっ、何……)

「おい、聞いたか?」

「ああ、襲われる、とか……」

「よく聞こえなかったが、意外と感じるらしいぞ、あのメイドさん」

「変な動き、って聞こえたわ?あの二人どんなプレイを?」


言葉の端々が聞こえるだけだったが、弾太郎の顔色を真っ青に、それから真っ赤に変えるには十分だった。

手足が硬直し顔が強張り、頬のあたりがピクピクと脈打つ。

ギギッと首を回してジンのほうを見る。

声が震える。


「は、は、は、早く、い、い、い、行こうか、ジン?」

「まあ、そんな急がなくても」


「お、おい!今、確かに……早くイク、って」


既に精神的限界を超えていた弾太郎をさらに負担が上乗せされた。

ちなみに最後の一押しは親友からの悪ふざけだった。


「キミとなら、僕はどこまでもイクよ?」

ドゴォッ!


とっても派手な効果音を伴って弾太郎はジンの顎にアッパーカットを打ち込んだ。

そして声も立てずに崩れ落ちたジンの襟首つかんで、ドン引きする衆目の中を足早に去っていった。


(ホッホッホッ……見つけましたわ、ルパルス殿下……を含む連中!)


妖艶な女の声が展望ラウンジのどこかで小さくつぶやいた。

聞こえたわけではなかったが、弾太郎は思わず立ち止まり振り返った。

とたんに(えっ?メイドさん、私を見てる?)と思い込んだ群衆が一斉に動揺する。

そんな群衆の影に身を隠す振袖+ロンドンブーツ+マント+魔女帽子の怪しい女。

そんな個性的過ぎる格好で隠れる意味あるのか?


「どうしたんだイ?」

「いや、なんでもない……と、思う」


弾太郎たちはそのまま、大はしゃぎしてるルキィとルパルスに追いついた。

そして二人のお小言をくらわしつつ、護衛に戻る。


(危ない、危ない。バレたかと思ったわ。それにしても……)


視線に感づかれぬように気配を押さえつつ、視線の主はターゲットを追い続ける。


(それにしても。あの4人のどいつがルパルス殿下なのよ?ヒューマノイドって普段付き合いがないから私、見分けつかないのよ!)


個性的すぎるファッション感覚といい、どうやらロクな資料もないまま暗殺を引き受けたらしい。

イラついた声は徐々に殺気を漏らしはじめ、そのせいかメイドさんがしきりに周囲を気にしている。

慌てて殺気を抑えて、気配を観光客たちの中に溶け込ませる。

メイドさんが落ち着いたのを見て、暗殺者はようやく一安心した。


(ルパルス殿下の命は、この最強の宇宙忍者・くのいちパルタ様が必ず……そうじゃなきゃ帰りの交通費も残ってないのよ。あーもう!なんでこんな高いのよ?このタワーの入場料は!)


まだ何もしていないうちから崖っぷちに追い込まれている暗殺者・くのいちパルタさん!

果たして彼女は『初めての惑星上で金欠一文無し』という人生最大の窮地を無事脱することができるのか?


★☆★☆★☆★☆★


「ほらほら、弾太郎さん見てください、この高さを!人がまるでゴミのようだ、フッフッフッ」

(ルパルス君、君はもっと高いとこから飛んできたんでしょ)

「ダンタロさんダンタロさん!ほらゴズラ様ビル踏みつぶしの真似!似てますか?」

(ルキィさん、君がやると洒落にならないんだけど)


展望ラウンジを5周ばかりしてようやく喫茶コーナーに入ってくれた。

だが「今度こそ一息つける」などという甘い考えは打ち砕かれた。

怪獣コンビのテンションが下がる気配はこれっぽちもなかったからだ。


「あ、すいません、コーヒーお願いしま……」

「すいません。僕、ここのウェイトレスさんじゃないので」


おまけにメイド姿の弾太郎をウェイトレスと間違える人が後を絶たない。

休んでいられる雰囲気ではない。


「ま、コーヒーでも飲んで落ち着こうじゃないカ」

「これがコーヒーですか……奇妙な味だが香りは悪くありませんね」

「これ、苦いから私は嫌いです!」

「…………ふぅ」


弾太郎もコーヒーを一口、そして深いため息をついた。

その物憂げな姿に他のテーブルの客たちも男女問わず目を奪われている。

男だと知っていたら、いや知っていたとしても結果は同じだったかもしれない。


(ん、なんだろう?)


弾太郎の足元をコロコロと何か転がってきた。

透明な球体カプセルに何か入っているようだ。

席を立って拾い上げるとSDアニキャラ入りのガチャだった。


(誰のだろう?)

「すいませーん、お姉さん。それ僕の!」


隣の席の小学生グループの男の子がひとり、手を振って近づいてきた。


★☆★☆★☆★☆★


(まずは変なガキ、次に変な着ぐるみ娘、その次はあの召使女、最後はあの優男。フフフ、確実に一人一人始末していく。これぞ忍びの秘術よ)

「あのぉ、お客様。ご注文は?」

「……すいません、水だけでいいです……」

(クッ……飲み物一杯も頼めないとは!地球という惑星を甘く見過ぎていた!)


パルタさんは魔女帽子で顔を隠しながら、喫茶コーナーの端に座って水を飲んでいた。

『首都で一番高い展望ラウンジ』を誇示するだけあってコーヒーの値段も首都で一番高かった。

貧乏暗殺者には手が出ないほどに!

そんなパルタさんが何故かストローを口にしてメニューを開く。

まさか?このラウンジで最も高いとされる『スペース・ダブル・タワー・ミックスジュース』注文するつもりなのか?

いや違う!メニューの裏でストローに針を仕込んだぞ。


(ホホホ、我が一族に伝わる秘伝の毒針……怪獣でも30秒であの世行きよ!)


仕込みは既に終えていた。

近くを通りかかった子供の一人に「ダブってるキャラだったから要らないの」といって仕掛けを施したガチャを渡した。

大した仕掛けではない、遠隔操作で自由に転がせるという程度のものだ。

だが周囲を警戒している者にとってはガチャといえど注目してしまうはず。

その隙に……まず変なガキを仕留めて混乱に乗じ、残りを始末する。

思った通り4人の視線が床の上のガチャに集中し、メイドさんがそれを拾い上げようとした。

その一瞬にストローの先をルパルスの首筋に向け狙いを定める。


(恨みはないけど……坊や、これが私の仕事なの)

ヒュッ!


かすかな息風に乗って死の針はルパルスの首筋めがけて飛んだ。


★☆★☆★☆★☆★


「成功!」「やりぃ!」「青、青だよ!」


小学生グループの男子がはやしたてる、女子はそんな彼らを蔑むような冷たい目で見ていた。

ガチャに気を取られた隙を狙っていたのはパルタさんだけではなかった。

拾い上げたガチャを「小学生男子その1」に渡そうとした弾太郎の足元に「男子その2」がスライディングしてきた。

少年たちの行動の意味を理解できず、反応もできない弾太郎のスカートを「男子その2」の右手は見事に跳ね上げ、中身を完全公開していった。

弾太郎の前面にいた観光客(男性)は歓声を上げ、後ろ側にいた観光客(男性)はチャンスを逃した不運を嘆いた。

そして当の弾太郎はあまりのショックに完全硬直してしまった。

だが一番ショックを受けたのは、くのいちパルタさんだ。

必殺の毒針は跳ね上げられたスカートの裾に遮られて、弾かれて虚しく床の上に落ちたのだ。


(そ、そんな馬鹿な!このタイミングで?)


呆然とする彼女の前で落ちた針は自動掃除ロボに掃きとられ、燃えないゴミとして回収された。

失敗した、だがプロの暗殺者として、このまま終わるわけにはいかない。

スペアの針はまだある、パルタさんは次の毒針を装填した……


「あぅ……」

「おい、しっかりするんダ?」


硬直したままの弾太郎のまわりに他の三人が集まってきた。

男なのに、スカートまくり被害者となった弾太郎の精神的ショックを気遣って……


「ダンタロさんは私のよりカワイイぱんつ、もらってたんですね!いいなぁ」

「いや、カワイイというより『攻めてる』ですよ!青のレース編みにフリル付きとは」

「…………あうぅぅぅ」


怪獣コンビ、全然気遣ってくれなかった!

それどころか無自覚に塩をすりこんできやがった。

弾太郎の目に溢れそうな涙が……いや、ジンだけは違った。

親友は真剣な表情で弾太郎の肩に肩手を置き慰めようと……残る片手で堂々とスカートを持ち上げて中をしげしげと観察する。


「ふむ、スゴイな。まるでわからないヨ」

「……ジン」

「錯視?光学迷彩?」

「……ジン」


そう男の娘ならあるべきもの、隠しようがないはずのもの!

ぱんつの「もっこり感」がまったく感じられない!


「櫂緒ばーちゃんの技がここまでとは、恐るべし服飾史400万年の境地!……あ、もしかしてちょん切られたとか?」

「ちょん切られてない!」

ドゴッ。


ジンの顔面にメイドさんの膝蹴りがヒット。

パチパチパチパチパチ……後方に仰向けに倒れるジンの「勇気ある行動」に観光客(男性)のみから惜しみない拍手が。

しかし拍手どころではない観客もいた、無論それはパルタさんだ。

今度の針も、まくり上げられたスカートに遮られて床に落ち、虚しく燃えないゴミとして掃除ロボに清掃された。


(偶然?偶然なの?いや、やはり気づかれて……いるように思えないわね?)


意図して毒針を防いだならパルタさんはとっくに返り討ちにされているはずだ。

なのに連中はこちらには関心もないようにしか見えない。


(と、とにかく毒針はあと一本残ってる!一本あれば私には十分……???)


最後の毒針を装填した直後、予想外の事態が起きた。

なんとメイドさんがこちらに向かってくるではないか?


(ば、バレた?いや、そうとは限らな……)


すぐそばまで歩いてきたメイドさんと視線があう。

こちらの正体に気づいている?気づいていない?

一瞬立ち止まったメイドさんにパルタさんは恐怖した。

その時、弾太郎の脳裏に浮かんだのは。


(なんかスゴイ恰好のお姉さんだなぁ?……今の僕は、他人様のこといえないけど)


そんなことを相手が考えていたとはパルタさんは知らないまま、メイドさんは歩き去っていった。


(た、助かった……しかし邪魔者はいなくなった、これぞ天の与えたチャンス……)


最後の毒針で慎重に狙いを……


「ダメだよ!」


背後からの声にパルタさんの息が止まった!

メイドさんがいきなり大声で制止してきたのだ。

今度こそ完全にバレてしまったのか?


「ルキィさん!そんな甘いものばかり食べたら虫歯になるよ!」

「えーっ?ちょっとくらい……」

「ダメ、我慢しなさい!」

「はーい」


制止しようとした相手は暗殺遂行中のパルタさんではなく、パフェの追加注文しようとしていたルキィの方だった。


(お、脅かさないでよ…………?!)

チクッ。


舌先にかすかな痛み、そうまるで針でも刺さったような……

恐る恐る口を開けて舌を出してみると、毒針が舌の先に……

ストローに毒針を仕込んだ状態でうっかり息を吸い込んでしまったらしい。

どんな怪獣でも30秒であの世行きの秘伝の猛毒……すでに5秒経過。


「お客様?どうかなさいましたか?」

「い、いえ!なんでも!」


いぶかしむ店員さんを押しのけてパルタさんは席を立った。

というか席を蹴飛ばして喫茶コーナーを飛び出し、トイレに駆け込んでいった。

さらに5秒経過して「お前の命はあと20秒」状態。

果たしてこの絶体絶命の危機をパルタさんは脱出できるのか!!

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